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ネットフリックスの現状、ユーザーはマイナス成長へ
コロナ禍の巣ごもり需要により需要が急拡大した動画ストリーミング市場。この市場をけん引役しているのはネットフリックスといっても過言ではないだろう。
同社の登録利用者数は、2018年に1億2430万人、翌年の2019年は1億5150万人だった。2018〜2019年の登録利用者の増加数は、2600万人ほどにとどまるものだったが、2020年からの巣ごもり需要の拡大により、同年10〜12月期時点で登録利用者は5000万人増加し、2億367万人に到達。また2021年10〜12月期には2億2164万人に達した。
この間、投資家の注目度も高くネットフリックスの株価は、2019年300ドル付近で推移していたが、2020〜2021年にかけて急伸。2021年10月末には690ドル以上をつけるところまで躍進した。この時点の時価総額は、3000億ドル(約40兆円)に上るものだった。
しかし、パンデミックが収束に向かう中、これまで投資家のベンチマークとなっていた新規登録者の伸びが鈍化、それに伴い株価が急落する事態に直面している。このことは、米国内外のメディアも大々的に報じており、投資資金の流出サイクルのような状況が生まれている。
直近で最も注目されたのは、同社が4月末に発表した2022年1〜3月期の四半期決算の数字だろう。四半期決算発表によると、このところ鈍化しつつもプラス成長を見せていた登録利用者数だが、この10年で初のマイナス成長を記録したのだ。約20万人の減少となり、4〜6月期にはさらに200万人の減少が見込まれることが発表され、市場に大きな影響を与えた。
この発表を受け、ネットフリックスの株価は35%以上下落した。下落幅としては、同社史上最大で、時価総額でみると、544億ドル(約7兆2932億円)分が消失したといわれている。また2021年10〜12月期、すでに登録利用者数の伸びの鈍化により、株価の下落は始まっており、このときも時価総額490億ドル(約6兆5693億円)分が吹き飛んでいる。
ネットフリックス競合他社の現状
このネットフリックスにおきている変化は、企業単位のものでなく、市場全体に及ぶ構造的な変化であり、今後動画ストリーミング市場がさらに大きく変わることを示唆する動きとみてとれる。
たとえば、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーが運営する動画ストリーミングサービス「HBO Max」では、2021年通年で登録利用者が1280万人増加し、累計7680万人に達したが、株価は取引が開始された2022年4月の24〜25ドルから、現在15ドルほどまで下落。
また、ディズニーが運営する動画ストリーミングサービス「Disney +」でも、2022年1〜3月期には登録利用者が790万人増え、累計を1億3770万人としたが、投資家心理の回復には至っておらず、株価はネットフリックスと同じ動きを見せる状況となっている。
動画ストリーミング市場の成長見込み、ネットフリックスの獲得可能な最大市場規模
動画ストリーミング市場から投資資金が流出している状況であるが、ネットフリックスを含め市場機会は多分に残っており、登録利用者を再び成長軌道に乗せることができれば、割安感も手伝い、投資資金が戻ってくる見込みは十分にある。
インドのグローバル市場調査会社Fortune Business Insightsの推計によると、動画ストリーミング市場の規模は、2020年に3760億ドル(約50兆円)だった。今後10%以上の成長が続くとみられ、2028年には9320億ドル(約124兆円)に達すると予想されている。
この調査レポートの予想がどれほど正確なのかは分からないが、「獲得可能な最大市場規模(Total Addressable Market=TAM)」を考えると、現在比で3倍ほどの規模に拡大する可能性は十分にあるといえる。
IndieWireが報じたリサーチ企業MoffettNathansonの分析によると、ネットフリックスの獲得可能な最大市場規模は、世界6億〜7億7800万世帯。現在、ネットフリックスの登録利用者数は、2億2000万人。依然、3億8500万〜5億6000万世帯を登録利用者として取り込める余地が残っているという。
また、ネットフリックスのスペンサー・ニューマンCEOは、同社の獲得可能な最大市場規模を7億〜10億世帯と見積もっている。これには中国市場は含まれていない。ただしMoffettNathansonは、同CEOの推計を概ね正しいとしながらも、少し野心的すぎるだろうと指摘している。
現在、ネットフリックスの登録利用者の多くは、北米と欧州に偏っており、伸びしろはほとんどない状況。今後同社が登録利用者を伸ばすためには、中南米やアジア太平洋市場での攻勢が必須となりそうだ。
コンテンツや収益モデルの強化・多様化
ネットフリックスを含め米国の動画ストリーミングサービスが今後さらに成長するには、中南米やアジア太平洋市場など地理的な多様化を模索するほか、コンテンツや収益モデルなど様々側面で強化・拡張・多様化が求められ、こうした動きが活発化することが予想される。
実際、ディズニーは動画ストリーミング事業において、2022年に330億ドル(約4兆4242億円)のコンテンツ投資を計画している。2021年のネットフリックスによるコンテンツ投資額140億ドル(約1兆8769億ドル)を大きく上回る額で注目されている。ディズニーはこの投資により、映画50本、ドラマシリーズ25本、コメディシリーズ30本、TVショー60本など、コンテンツの強化・多様化を進める構えだ。
さらに米メディアでは、ネットフリックスがこれまで反対の姿勢をとっていた広告モデルの導入検討を開始していることが報じられているほか、ディズニーも年内にDesiney+に広告版を導入する計画があると伝えられている。
広告版では、サブスクリプション代が下げられる見込みだ。現在、北米のネットフリックス利用者が支払う平均月額費用は、15ドルほどと見積もられているが、広告板ではこれより低い価格が設定されることになる。競合のHBO Maxは、すでに広告版サブスクリプションを展開しているが、価格は9.99ドルに設定。通常版は、14.99ドルとネットフリックスと同じ価格帯となっている。
このほか、動画ストリーミング各社はゲーミングの導入を試みるなど、ビジネスの多様化を模索中だ。一方、動画ストリーミング市場は、ネットフリックス、HBO、ディズニーだけでなく、アップルTV、アマゾンプライムビデオなど多数のプレイヤーが存在するため、市場関係者の間では、サービスの統廃合が進む可能性を指摘する声もある。動画ストリーミング市場の動きは今後さらにダイナミックになっていくはずだ。
文:細谷元(Livit)