おいしさ・見た目・機能性が劇的進化 注目の成長市場「介護食」を知る

75歳以上の後期高齢者の人口は、2000年には900万人だったが、2025年には実に2,180万人になると推測されている。これは第一次ベビーブーム(1947~1949年)に生まれたいわゆる「団塊の世代」が、2025年には全員が75歳以上となることが大きく影響している。

総人口が減少し始めた一方で75歳以上の人口は2055年頃まで増加傾向が続くと見込まれており、日本の超高齢社会はこの先もさらに進んでいく。

(出典:令和3年版高齢社会白書 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/zenbun/pdf/1s1s_01.pdf

急拡大する「高齢者向け食品」市場

高齢者人口や全人口に占める高齢者の割合が増える一方で、高齢者の健康寿命は伸びていると言われる。そんな中、急拡大を見せ注目されているのが介護食を含む「高齢者向け食品」市場だ。

高齢者向け食品には「流動食」「やわらか食」「栄養補給食」「水分補給食」「とろみ調整食品・固形化補助剤」「低たんぱく食」「施設用冷凍骨なし魚」があるが、市場は「低たんぱく食」を除くすべての品目が伸長するとみられ、2025年には2018年と比較して市場全体で25.5%増の2,046 億円となる見込み。中でも在宅向けやわらか食の市場は80.7%増と大幅に拡大するという。

(出典:富士経済「高齢者向け食品市場の将来展望2019」

介護食は今後ますます身近に

後期高齢者人口の増加にともない、要介護者も住み慣れた地域で最後まで生活することを前提に、医療や介護の現場が介護施設や在宅へ移行してきている。同時に、介護者も要介護者も65歳以上の「老老介護」や、家族の介護のために配偶者や子が離職する「介護離職」など、介護にまつわる様々な社会課題も生じている。こうした状況が、介護食市場の拡大の背景と言っていいだろう。

介護施設においては慢性的な人手不足や人件費などのコストカットの必要性から、調理の簡略化需要が高まっており、加工度が高く提供しやすい、また栄養価値が高いなどの高単価・高付加価値商品の採用が進んでいる。在宅においても高齢者向け食品の需要が高まり、商品が身近になることで流動食、やわらか食、栄養補給食が急伸するとみられている。

(出典:富士経済「高齢者向け食品市場の将来展望2019」

健康は食から?QOLに欠かせない「食事」

介護食市場の拡大にともない、介護食も進化している。その根底にあるのが、健康的な生活における食事の重要性だ。食事は日々の大きな楽しみであり、QOL(生活の質)向上には欠かせない。一方で、一生涯毎日続いていくものであるため、介護をする側の負担軽減も社会課題となっている。

日本歯科大学 口腔リハビリテーション 多摩クリニック院長の菊谷武医師は、「“口から食べておいしさを感じる”ことは、人にとって幸せの1つと言っても過言ではない」と話す。菊谷医師は、おいしく健康に食べ続けるためにも、市販の介護食を上手に利用するといいとした上で、以下のように提案している。

栄養だけでなく“おいしさを感じながら食べる”ことが大切

栄養を重視して様々な食材を混ぜてペースト状にしただけでは、食材らしい色や食感が失われ、味がぼやけてしまうこともある。しかし、食材らしい色やおいしさにこだわった商品も続々販売されており、介護食は日々進化している。栄養だけに注目せずに、おいしさを感じられる食品を選ぶようにすると、QOLも向上し健康につながる。

高齢者にとって大敵である誤嚥を予防

70歳以上の高齢者が肺炎になる要因の1つが食事による誤嚥であり、2020年には日本人の死因第6位に“誤嚥性肺炎”が入っている。正しく介護食を選ぶことで、そのリスクを下げることができるのだ。
(出典:厚生労働省 令和2年人口動態統計)

介護をする側の負担軽減のためにも上手に介護食を

市販品や外部サービスを知り、それらを活用し、支援者・要支援者も介護者・要介護者も無理なく楽しく食事ができることが理想といえる。

「介護食」はここまで進化している

日々進化する介護食関連の事例にはこんなものがある。

<市販品>
・カップ介護食【キユーピー『やさしい献立』価格:254円(税込)】
オムライスなどなじみの深い料理をやわらかく調理し、とろみをつけた介護食。カップ入りで容器のままレンジで温めて食べられる。賞味期間が1年以上のため災害用のローリングストックにもできる。https://www.kewpie.co.jp/udfood/product/cup_03.html

・摂食嚥下和菓子【美濃与食品『みたらし団子』価格:270円(税別)】
おいしさ、見た目の美しさや季節感を大切にした介護食を推進する、京介食推進協議会監修の和菓子。見た目はみたらし団子そのものだが、ゼリーやムースと同程度の柔らかさに調理されている。
https://www.minoyo-food.co.jp/engesyoku/#sec_about

※画像はイメージ

・摂食嚥下洋菓子【みかど本舗『なめらかすてら』価格:4個入り1,296円(税込)】
生地に寒天を加え、舌でつぶせる柔らかさになるように開発されたカステラ。摂食嚥下障害の認知向上プロジェクトによって誕生。カステラは砂糖や小麦粉、卵などでつくられているため、たんぱく質などのエネルギー源を摂取できる。
https://yumecastella.com/

※画像はイメージ

・やわらか食家電【ギフモ『デリソフター』価格:47,300円(税込)】
調理済みの食材や、惣菜・冷凍食品などを蒸気と圧力によって柔らかくする調理家電。附属の72枚刃カッターで食材に穴をあけることで、肉など繊維の多いものも見た目を崩すことなく加工可能。
https://gifmo.co.jp/delisofter/

<その他の取り組み>
ホテル介護食
ホテルニューオータニ大阪では、『やわらかフレンチコース』(7,000円、税サ別)として見た目はフランス料理そのままに、調理方法や食材を工夫することで固さや飲み込みやすさに配慮したコース料理を提供している。要介護者の状態や好みに応じた調理法で提供される。
http://www.newotani.co.jp/osaka/

・とろみ付き自販機
飲用自動販売機の設置・運営管理を行うアペックスは、飲料にとろみをつける機能が付いた自動販売機を設置を進めている。医療・介護施設をはじめ、高速道路のサービスエリアなどにも設置されている。
https://www.apex-co.co.jp/toromi/

・介護食を作る3D プリンター
山形大学では数年前から介護食を作る3Dプリンターの開発に取り組んでいる。高齢者の食生活の質的向上を図るとともに、介護者の負担軽減にもつながる研究として、国内外から関心と期待を集めている。
https://www.yamagata-u.ac.jp/jp/hitotohito/research/20190715/

今後ますます身近になっていくであろう介護食。高齢者医療や介護への関心が高まる今、注目の市場といえるだろう。

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