パンデミック以降、人気を集めるアメリカの都市と人口流出入

パンデミックによるワーク・ライフスタイルの変化は、都市人口の流出入にさまざまな影響を与えている。人口密度が高く生活費も高い都心から、地方やリゾート地に移住してリモートで働く「Zoom Towns(ズーム・タウン)」現象はそのひとつだ。

人気を博しているのは地方やリゾートだけではない。アメリカの引越トラックレンタル企業・Penskeの年間リポートによると、オースティンやダラスなどの中規模都市も、移住先としてこれまでにない人気を集めていることが分かった。

米統計局の最新データによると、2021年に人口流入が最多となったのは、テキサス州・ヒューストンだった。2020年米国国勢調査データによると、国内最大50位の都市圏のなかで、オースティンは2010年から2020年に顕著な人口の増加を記録(33%)し、ヒューストンは5位(20.3%)を記録していた。

ヒューストンは、シリコンバレーに取って代わるテック人材ハブとして注目される都市であり、統計局のデータからも多くのテック人材流入があったことがうかがえる。なぜ今、ヒューストンに人気が集まっているのか。本記事では、シリコンバレー衰退の経緯も交えながら、新しく注目の集まる都市の要因・背景を探る。

シリコンバレーの衰退

Penskeの年間リポートによると、このほか2021年に流入が多かったのは、ラスベガス、フェニックス、シャーロット、デンバー、サンアントニオ、ダラス、オースティン、シカゴだった。

2021年に流入が多かった都市の一つ、ノース・カロライナ州のシャーロット

ランキング上位10位のうち8都市は、2020年の同様の調査レポートでも人気都市にランクインしていた。シカゴは7年ぶり、ノースカロライナ州・シャーロットは4年ぶりにランキングに返り咲いている。

シリコンバレーは、人気移住先リストには含まれていない。

Silicon Valley Indexによると、2021年、シリコンバレーからは40,000人もの住民が転出したという。逆に転入してきた人数は、わずか5,560人。前年に比べて3分の1の人数だ。

シリコンバレー

その理由として語られているのは、高い家賃と地方税、年々厳しくなる行政の規制だ。シリコンバレーに住み、働き、起業することのハードルは、年々ますます高くなっている。

リモートワークで比較的自由に仕事ができることが増えた今、より良い条件を求めて、多くのテック企業、そして労働者たちがシリコンバレーから流出している。結果、テックハブとしてのシリコンバレーのステータスに、陰りが見え始めている。

テック人材ハブとして人気の高まるヒューストン

シリコンバレーから転出したテック企業の多くは、家賃が安く、起業家を誘致するための優遇税制を採る、オースティンやヒューストンなどのあるテキサス州に移転している。OracleやHewlett Packardなどのテック・ジャイアントが良い例だ。最近では、アマゾンが流通センターの本拠をヒューストンに移動させた。

オースティンには、シリコンバレーにちなんで「​​シリコンヒル(Silicon Hills)」というニックネームもついている。オースティン商工議会のデータによると、2020年だけでも35の企業がオースティンに移動、または起業。雇用創出数においても上位に位置しており、投資家からも注目を集めている。

その人気でオースティンを超えたヒューストンは、温暖な気候やローカルカルチャー、家賃の安さ、企業への優遇税制などが人気の理由となっている。NASAやテキサスメディカルセンターをはじめとした、さまざまな分野の中心的な施設が集まるのも人気の秘訣だ。同市は、石油やガスなど、アメリカのエネルギー産業の本拠地でもある。

テック人材のハブ都市となりつつあるヒューストンの街並み

移住したくなる都市

米国人全体の現在の移住率は、歴史的にみると、実は低い。米統計局によると、 2021年に引越しをしたのは全人口の8.4%、2020年は9.3%。米統計局が引越し率の統計を始めた1948年以来、最も低い数字だという。1948年当時に比べると、引越し率は半分以下だ。州を超えた引越しは、パンデミックには関係なく、常に少しずつ減少を続けているという。

2021年の米統計局のレポートでは、引越し者の半数以上が州内で引越しをするのに対し、州を超えての引越しは全体の引越し人口の5分の1にも満たなかったという。国外からの入転出や、仕事に関係した理由での州をまたいでの移動は、徐々に減ってきている。

そんななかでも、ヒューストンやオースティンのような、人々を惹きつける都市の求心力は注目に値するだろう。シリコンバレーのテックハブとしての地位が揺らぎはじめた今、日本企業も多く流入しているというテキサス州をはじめ、ラスベガス、フェニックス、シャーロット、デンバーなど、中規模都市のこれからに期待したい。

文:杉田真理子
編集:岡徳之(Livit