天気予報もサブスク時代に?IBM、Microsoftも参入、気候変動・自然災害の激甚化を受けて進化する天気予報サービス

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気候変動とそれに伴う自然災害の激甚化で、私たちの生活はこれまで以上に天候に大きな影響を受けるようになり、人々の天気予報に対する意識が、昨今変化している。

これまで天気予報といえば、都市ごとのおおよその予測情報をテレビやラジオ、アプリから、無料で得るものというイメージが強かった。しかし今では、ゲリラ豪雨や嵐などの激しい天候の変化に備えるために、都市レベルのマクロな天気予報だけでなく、特定のスポットと目的にパーソナライズされた、より正確で詳細な天気予報に対するニーズがこれまでになく高まっている。

GoogleやMicrosoftといったテック大手企業の間でも注目される分野となった天気予報は、人工知能などの最新テクノロジーを用いて進化を遂げ、新しいサブスクリプションサービスが次々と生まれているのだ。

求められているのは、より正確でパーソナライズされた天気予報

気候変動によって引き起こされると考えられている極端な天候は、さまざまな形であらゆる国の人々の生活を脅かしている。

ゲリラ豪雨は、個人の生活に影響を与えるだけでなく、洪水や土砂災害を引き起こし、輸送や交通、エネルギー供給体制、農業に大きな打撃を与える。寒波や熱波といった極端な気温も、人の健康にとって危険であると同時に、農作物の成長を妨げる。頻度を増している台風やハリケーンは、建物を破壊し、家畜の大量死を引き起こす。空気の極端な乾燥は、山火事の原因となって、周囲の家を焼き、近隣の都市の空気を汚染する。強い風は、航空機や船のスケジュールや安全性を大きく左右する。

アメリカで洪水から生きのび、農場から民家に避難した牛 Photo by Jo-Anne McArthur on Unsplash 

自然災害が激甚化する昨今、降雨量や湿度、気温を正確に予測することは、従来の天気予報に期待されていたように、傘を持っていくか、洗濯物を干すかの判断に使われるだけでなく、気候の変化に大きな影響を受ける産業で働く人々にとっては死活問題であり、行政の発する避難警告の基準にもなることから、人の命にも関わる問題なのだ。

ビッグテックが最新テクノロジーで天気予報を進化させる

紀元前に気象学の本はすでに存在していたとされるが、それからも天気予報は、温度計や気圧計、スーパーコンピューターなど、各時代の最先端のテクノロジーを取り入れて、進化を続けてきた。

しかし、現在の天気予報の方法の多くが今でも苦手とするのが、1平方キロメートル単位で、1時間ごとの気温や降水量を正確に予測することだと言われる。

特定の場所の直近の天気の正確予測を求める声が高まっている Photo by Atilla Bingöl on Unsplash

この穴を埋めるべく、Google、Raytheon Technologies、IBM、Mocrosoftなどの米国のビッグテックは、独自の人工知能や機械学習などのテクノロジーを駆使した予測システムの開発を競い合い、最先端の天気予報サービスが次々に生まれている。

世界一高精度な気象予報プロバイダーに選ばれたIBM「The Weather Company」

このなかで、昨年、気象予報の精度評価組織「ForecastWatch」により「総合的に世界で最も精度の高い気象予報プロバイダー」に認定されたのが、IBMのグループ会社「The Weather Company」だ。 

世界初の1時間更新の気象予報モデルIBM GRAF(Global High-Resolution Atmospheric Forecasting)を2019年に立ち上げた同社では、所属の気象学者が、IBMが開発している機械学習アルゴリズムを活用することで、より精度の高い気象予報を導き出している。

この予測に基づいた天気予報を配信する「The Weather Channelアプリ」は、有用性、信頼性、情報品質で、世界気象機関の2020年国際気象アプリ・アワードを獲得しており、また、航空、エネルギー、保険、政府機関、小売など幅広い業界において重要な意思決定を助けている。

イギリス気象庁と連携するGoogle、ビッグデータとIoTを活用するMicrosoft

一方、Google傘下の人工知能企業「DeepMind」が開発しているのが、これまで困難とされてきた直近90分間の降雨を非常に正確に予測するツールだ。同社はイギリス気象庁と提携し、DGMR(Deep Generative Models of Rainfall)と名付けられた深層生成モデルを開発、気象予報士によるテストでも、有用性と正確性が確認されている。

Microsoftは、特に農業や太陽エネルギーなどの産業への活用を想定した新しいAIモデル「DeepMC」を開発している。機械学習と人工知能を用いて、米国海洋大気庁、ダークスカイ、米国国立気象局などから取得したデータと、いくつものIoTセンサーからのデータを解析し、数時間のうちに特定のエリアの風速、日射量、土壌水分量、気温がどのように変化するかを予測、テストでもその正確性が評価されている。

インタラクティブなサービスで人気の天気予報サービス「Currently」

大手テック企業が人工知能などの最先端テクノロジーの開発に余念がない中、よりパーソナライズされたサービスを、人間の気象予報士がきめ細やかにオンデマンドで提供するタイプの天気予報サービスの人気も高まっている。特定の場所と特定のアクティビティに対する天気の影響を詳細に聞きたい人が増えているからだ。

2021年にサービスを開始後、ユーザー数を順調に増やし、今では米国、カリブ海、欧州の17都市でサービス展開している「Currently」は、結婚式や屋外スポーツ、イベント施設など、天候にダイレクトに影響を受けるビジネスを営むユーザーに、インタラクティブな天気予報を提供するB2B気象サービスだ。

各地域の気象予報士による天気予報配信に加え、気象予報士とテキストチャットで質問ができる点が人気となっており、天候に合わせた衣服の推薦や、空の変化に対する懸念など、いろいろな質問にリアルタイムで回答が得ることができる。

サーファーに特化した天気予報「SURFLINE」は行政とも連携

よりニッチなサービスとしては、サーフィン向け天気情報に特化した「SURFLINE」が注目されている。

もともとは1985年にFAXで波情報を配信するという形でスタートしたサービスだったが、現在では世界中のサーフスポットに、カメラをはじめとする海の状況を監視する装置を設置、膨大な海底や海岸侵食のデータを保有し、毎月510万人が利用するアプリを提供する企業へと成長した。

現在では、同社は米国各州の自治体やFox Weatherといったメディアと提携しており、世界の海岸のデータや映像を提供することで、嵐や海岸侵食といった自然災害に関して有益な情報を提供している。

天候に大きく左右される産業に従事しているわけではない自分自身の最近の生活を振り返っても、ゲリラ豪雨で水没する道路と水が吹き出すマンホールによって交通に支障が出たり、熱波により子供やペットが体調不良となるなど、極端な天候の変化による生活への影響は無視できないものとなった。

気候変動対策に取り組むことももちろん大事ではあるが、より正確でよりパーソナライズされた天気予報の開発が進むことに、多くの人が期待しているだろう。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit

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