2022年、Googleの米国内におけるオフィス/データセンター投資が加速している。同社は現在、米国内に数十の不動産プロジェクトを有しており、その投資総額は95億ドル(約1兆2000億円)にも上る。
同社のサンダー・ピチャイCEOはこのほど、米国内のオフィス/データセンター投資に関する取り組みの進捗を発表し、シリコンバレーにおける2つの大型オフィスビルの開発、そして、近隣都市における複数のオフィスビル開発を明らかにした。
このオフィスとデータセンターの開設に伴い、年内に1万2000人の新規雇用が生まれるとも言われている。
こだわりぬいたオフィスとその設備が常に話題になるGoogleは、パンデミックの2年を経て、米国内でどのようなオフィス、データセンター投資計画を進めているのだろうか。また世界的な大企業が進めるこのようなプロジェクトが、米国の都市に与える影響とは?
米国で、そして世界で増え続けるGoogleオフィスとデータセンター
1998年に創業、その後、誰もが知る世界的な大企業へと成長したGoogleは、米国を中心に世界各地にオフィスとデータセンターを持っているが、その数は現在も増え続けている。
カリフォルニア州では、シリコンバレーのマウンテンビューだけで、本社に加えて2つの大きなオフィス、その近隣の都市にもいくつかのオフィスを所有しており、さらに今年、アトランタに新しいオフィスを開設し、ネバダ州ストーリー郡ではデータセンターを拡張する予定だ。
欧州においても、Googleが同地域で最初に建設したデータセンターであるベルギーのサン・ギスランを筆頭に、2009年以降、データセンターを次々と建設し、5つ目のデータセンターが今年完成予定だ。
サンノゼには複合施設「メガ・キャンパス」
このGoogleのオフィスプロジェクトの中でも、ひときわ話題になっているのが、カリフォルニア州第3の都市サンノゼに建設予定の複合施設「メガ・キャンパス」だ。
昨年、地元議会に承認され、今年着工が予定されているこの「メガ・キャンパス」は、2万人の従業員を収容できるオフィススペースに加え、50万平方フィート(46451.52m²)の店舗や多目的スペース、レストラン、15エーカー(60702.85m²)の公園、そして4000戸の住宅、最大300室のホテルと800室の短期宿泊施設を併設し、同社にとって世界最大級のキャンパスとなる予定だ。
オフィス新設ラッシュの背景にはハイブリッドワークへのシフト
コロナ禍でフルリモートワークが一般的になっている昨今、あえてこのようなオフィスを新設するプロジェクトをGoogleが進めているのは、同社が「ハイブリッド勤務」と呼ばれる働き方にシフトしようとしていることを反映している。
Googleのワークカルチャーにおいて、フィットネスセンターやカフェテリア、マッサージ、シャトルバスなどの設備を備えるオフィスは重要な構成要素であり、同社は現在、ほとんどの社員をフルリモートから在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせた「ハイブリッド勤務」へとシフトさせようとしている。
その準備としてこの2月には、米国内の従業員に対して課していたマスク、検査、ワクチンといった感染対策の一部を、各地域の状況に応じて緩和した。
Googleオフィスの建設は米国の地域社会に何をもたらすのか?
このような大企業のオフィスは、建設の予定されている地域にどのような影響をもたらすのだろうか。
もちろん、地域住民の雇用創出や税収の増加、既存の地元企業の販路拡大といったプラスの経済効果への期待は大きい。この投資計画により、年末までに少なくとも1万2000人のGoogleのフルタイムの新規雇用、前述のメガキャンパスはサンノゼに1万5000〜2万人の雇用をもたらす可能性があると予想されている。
しかし一方で、オフィス新設予定地では根強い反対派の住民運動が起きている。その理由の一つが「都市の富裕化現象」や「都市の高級化」とも呼ばれる「ジェントリフィケーション」だ。
これは、家賃が急上昇することによって、住み慣れた土地から立ち退きを迫られる地域住民が発生したり、ホームレス問題が深刻化することを指している。
サンフランシスコのジェントリフィケーション
ジェントリフィケーションは、Googleが本社を置き、有名大学発のIT企業が次々と生まれる街であるサンフランシスコで、すでに大きな社会問題になっている。
IT企業で高給を稼ぐ高学歴の人々が街に押し寄せた結果、家賃や物価が高騰、長く暮らしていた地元住民の少なからぬ数が、市内中心部から郊外へ押し出されてしまったのだ。
その多くは介護や保育、清掃・ごみ収集、小売業、物流、交通といった分野で働いており、リモートワークへのシフトという感染対策を容易にとれたITワーカーとは異なり、公共交通を使って長い時間をかけ市内まで通勤した結果、コロナの犠牲になった者も多かった。
メガキャンパスの建設が予定されているサンノゼでも、その第一報が流れてすぐに近隣の住宅価格は7%上昇している。サンノゼが「第二のサンフランシスコ」になることを危惧する住民からの反対に対し、Googleはメガキャンパスの半分以上を公共利用に指定し、住宅のうち25%は手頃な価格に設定、また職業訓練、ホームレス支援、地元の中小企業支援などに2億ドルの地域サポート、周辺のインフラ整備に約8億9000万ドルを投資するなどの対応を提案し、交渉にあたってきた。
データセンターには環境負荷の懸念
Googleが進めるデータセンタープロジェクトも、やはり地域住民から必ずしも歓迎されているわけではない。
同社の提供するオンライン検索、ウェブ広告、クラウドサービスを強化するために重要とされるデータセンターの新設だが、大量のコンピューターが休みなく稼働するデータセンターの運用は環境に多大な影響を与える。その一つは、コンピューターの冷却に大量の水を必要とすることだ。
エネルギー効率の高さと再生可能エネルギー使用をさかんにアピールするGoogleは、環境に配慮をする企業としてのイメージを強めている。しかしさらに、水不足の地域から資源を奪い、夏の農業用水や生活用水に影響が出ることへの十分な対策が求められている。
特に米国西部では、2022年に過去1200年で最悪といわれる干ばつが発生、カリフォルニア州当局が住民に水の使用量を約15%減らすよう求めるほどの危機的状況となっており、データセンターに向けられる目は厳しくなるだろう。
常に議論を呼んできた大企業のオフィス・データセンター投資
このように、地元コミュニティへの良い影響も悪い影響も予想されることから、巨大企業のオフィス投資は常に大きな議論を呼ぶトピックだ。
たとえばAmazonは、ニューヨークでの建設計画を地域の反対により断念している。
サンノゼでは、市役所がGoogleにゴーサインを出したことで、活動家が市役所の椅子に自身を鎖で縛りつけるという抗議に始まった反対派住民運動がさかんに行われたが、Googleは地域住民を計画プロセスに含め、彼らの意見もプロジェクトに取り入れることでこのメガキャンパス計画をなんとか進めてきた。
しかし、ここ数年、先行きが不透明であったこのようなオフィス投資プロジェクトの影響で、多くの社員が自身の勤務地がはっきりとしない状況に置かれた結果、子供の学校や住居の購入といった人生の重要な決定を下すことができず、結果として離職も起きているという。
パンデミックの先行きもまだまだ不明瞭の2022年、Googleの大規模オフィスプロジェクトの行方に、注目が集まっている。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)