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2021年に急成長したNFT(非代替トークン)市場。BNPパリバの調査会社L’Atelierによると、2021年の取引額は176億ドル(約2兆円)に膨れ上がり、前年比21,000倍という脅威的な数字をマークした。
これまでNFTは一部の人だけが売買する“特別なもの”であったが、ここ1年で急速に一般化。誰もが気軽にNFT取引ができるようになった。その普及に大きく貢献しているのが、NFTプラットフォームの「OpenSea」である。
コンテンツは400万点以上「NFT版Amazon」OpenSea
OpenSeaは2017年12月にローンチしたNFTオンラインマーケットプレイス。登録(無料)をすると、誰でも簡単にNFTを作成、販売、購入できる。
「NFT版Amazon」の異名を持つOpenSeaの登録コンテンツは400万以上。手軽さや使い勝手の良さ、豊富なコンテンツなどから人気を呼び、150万人以上のアクティブユーザーを抱える巨大プラットフォームに成長した。2022年1月には取引額が約50億ドルと過去最高をマークしている。
OpenSeaは多くのブロックチェーンに対応していることも魅力の一つだ。イーサリアムをメインにMatic、Klaytn、Tezosにも対応。2022年3月にはSolanaベースのNFTにも対応することを発表した。
まだ一部のみだが、サイトの日本語対応も少しずつ進められている。日本人アーティストの作品も出品されており、村上隆氏が制作した動画「Murakami.Flowers seed」は時価総額18,208ドル(2022年4月26日現在)の値がついている。
OpenSeaは日本ではまだポピュラーとは言えないが、NFTの普及とともに存在感を増していくだろう。
Nike、Visaなど大手企業も参入
NFT市場にはグローバル企業も参入し始めている。スポーツ用品メーカーのNikeもその一つだ。
Nikeはメタバースを新たな主戦場と捉え、2021年12月にデジタルファッションスタートアップのRTFKTを買収。2022年4月23日にRTFKTと共同制作したNFTスニーカーコレクション「RTFKT x Nike Dunk Genesis CRYPTOKICKS」を発売した。
CRYPTOKICKSシリーズは8,000以上のアイテムを揃え、スキンの変更によって外観やデザインのカスタマイズができる。コレクターたちの注目度は高く、安いもので2イーサ前後(約6,000ドル)、レアなスキンになると200イーサ(約58万ドル)もの値がつくものもある。
カード決済のVisaは、2021年8月にデジタルアート「CryptoPunk 7610」を49.5イーサ(約15万ドル)で落札した。
この行動は驚きを持って受け止められたが、同社の暗号資産部門の責任者Cuy Sheffield氏は「グローバルブランドはNFTの仕組みを理解する必要がある」と購入の理由を述べた。また、「NFTは小売、ソーシャルメディア、エンターテインメント、コマースにおいて将来的に重要な役割を果たすだろう」とし、今回のNFT購入が「初めの一歩」であると語った。
その半年後の翌年3月、VisaはNFTビジネスを志す個人クリエイター向けの支援プログラム「Visa Creator Program」を開始すると発表した。クリエイターエコノミーは近年急成長を遂げており、市場規模は1000億ドル以上とも言われている。カバー範囲も拡大の一途を辿っており、NFTは今後最も伸びが期待される分野と目されている。
「Visa Creator Program」は、NFTビジネスに興味のある各分野のクリエイター(芸術、音楽、ファッション、映画)に向けた1年間の支援プログラムだ。内容は、ブロックチェーンやスマートコントラクトに関するアドバイス、NFTクリエイターとのアイデア交換、暗号資産やデジタルコマースに対する識者による勉強会、Visa顧客やパートナーとの交流、成長支援のための奨学金などである。
NFTにチャレンジしてみたいが、未知の世界に足踏みするクリエイターたちも多いだろう。このような支援策によってクリエイターの裾野が広がり、経済圏全体の活性化につながるのではないだろうか。
メガプレーヤー同士の買収劇も
Visaが購入した「CryptoPunks」は、NFTで最も人気のあるコレクションの一つだ。
「CryptoPunks」はカナダ人のクリエイターユニットLarvaLabsによるプロジェクトで、著名人のファンも多い。24×24ビットで描かれた1万個のキャラクターが用意され、それぞれに属性やキャラクターが付随するユニークなコレクションだ。
2017年にスタートした「CryptoPunks」はNFTアートの草分け的な存在で、今もその人気は高い。2022年4月の1週間の販売総額は970万ドルで、NFT市場全体の2位につけている。
しかし、そんな「CryptoPunks」が買収されたというニュースが飛び込んできた。買収元はNFTコレクション「Bored Ape Yacht Club」を制作するYugaLabs。「Bored Ape Yacht Club」は最も時価総額が高いコレクションであり、上記期間の売上は4,830万ドルと2位を大きく引き離している。
YugaLabsによる買収条件は不明だが、同社はLarvaLabsの「CryptoPunks」と「Meebits」を買い取り、権利を獲得したことを明らかにしている。「Bored Ape Yacht Club」と「CryptoPunks」を合わせると36億ドルの価値になると言われており、YugaLabsがNFTコレクション界におけるトッププレーヤーに君臨することは間違いない。
今回の買収は、10年前のFacebookによるInstagramの吸収合併を彷彿させる。市場の拡大とともに起きる買収劇。NFT市場でも、こうした動きはさらに加速するかもしれない。
急拡大に伴い犯罪も急増
2021年に爆発的な成長を遂げたNFT市場。この1年で詐欺や盗用など、犯罪も急増しているという。
ブロックチェーン分析会社のChainalysisは、暗号資産関連の犯罪は2020年と比較して79%近く増えたと報告。同社のリサーチディレクターKim Grauer氏によると「相場操縦、仮装売買、盗作、フィッシング詐欺がNFT市場でも見られるようになった」という。
特に2021年第3四半期(2021Q3)に不正取引が急増したが、そのほとんどは違法アドレスからのアクセスであったという。
さらに、同年第4四半期には制裁リスクのあるアドレスからNFT市場に約28万ドル相当の暗号通貨が送信されたという。ロシアに対する経済制裁が課される中、資金調達法として注目が集まるNFT。今後も暗号犯罪が増加することは避けられないだろう。
2022年の展望は?
大きく躍進したNFT市場だが、2022年は減速・減少が予測されている。
NFT分析会社NonFungible.com の共同創設者Gauthier Zuppinger氏は「2021年と比べて購入者、売上が減少している」という。投機やコレクションへの関心の低下により売上減少が目立ち始めているが、それでも「世界市場は依然として高く、これらの資産価値は増加し続けている」とのこと。
多少のアップダウンはあるかもしれないが、NFTが多方面で重用されていくことは間違いないだろう。
文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit)