暗号通貨資産に対する税金ゼロの「クリプトヘイブン」 ポルトガル、マレーシア、ケイマン諸島などに関心集まる

暗号通貨の課税なし「クリプトヘイブン」として注目されるポルトガル

世界には大手企業が租税を回避する「タックスヘイブン」が複数存在し、これまでに様々な議論を巻き起こしてきた。

今後はタックスヘイブンだけでなく、暗号通貨の租税回避地である「クリプトヘイブン」をめぐる報道や議論が増えることが見込まれる。

クリプトヘイブンとは、暗号通貨の保有や取り引き、また利益などに対する課税を行わない税制を持つ国で、米州、欧州、アジアなど世界各地に点在している。

欧米圏で最近、クリプトヘイブンとして注目されているのがポルトガルだ。

ポルトガル当局は、暗号通貨を「支払手段の一形態」として捉えている。これは、暗号通貨を株式や不動産などと同様に「資産」として捉える米国などとは大きく異なるアプローチとなる。

このためポルトガルでは、個人が暗号通貨取り引きで得た利益は、現時点では課税対象にはならない。一方、米国では、暗号通貨の短期キャピタルゲインに対して、最大37%の税率が課せられる。こうした課税を逃れるために、多くの暗号通貨投資家らがポルトガルに移住しているのだ。

ポルトガルの街並み

ただし、ポルトガルでこの恩恵を受けられるのは、個人に限定される。暗号通貨を取り扱う法人には、一定の税が課せられる。

ポルトガルではもともと一般的な投資家を対象にした移住ビザ制度が整備されており、この制度が暗号通貨投資家らのポルトガル移住を促進する要因になっているといわれている。

1つは、非EU市民を対象にした「ポルトガル・ゴールデン・ビザ」プログラムが挙げられる。2008年の世界金融危機で大きなダメージを被ったポルトガルが海外投資を呼び込む手段として2012年10月に開始したものだ。

都市部で最低50万ユーロ(約6827万円)の不動産購入などの条件を満たすと申請できる。不動産を購入しなくても、ポルトガル企業への100万ユーロ(約1億3654万円)の出資、ポルトガル人10人以上の雇用創出、ポルトガルの銀行へ100万ユーロ以上送金など、複数の条件が用意されており、いずれかの条件を満たせば、申請資格を得られる。

もう1つは、不労所得ビザとして知られる「D7ビザ」だ。年金、株式、不動産などからの不労所得がある人を対象にしており、暗号通貨投資家らも、このプログラムを通じてポルトガル移住ができるという。

米国の暗号通貨投資にかかる課税、最大37%

ポルトガルと米国に見られるような国家間の不均衡がなくならない限り、暗号通貨投資家らのクリプトヘイブン移住はこの先も続くものと思われる。

米国の暗号通貨投資家らがどれほどの税負担を強いられているのかを知れば、移住行動を促す理由が見えてくる。

以下では、暗号通貨メディアCoinDeskが2022年2月23日時点でまとめた米国の暗号通貨課税情報を参考に、同国の税率を見ていきたい。

米国では暗号通貨投資に対して、大きくキャピタルゲイン税と所得税という形で税が課せられる。

キャピタルゲイン税の対象となるのは、暗号通貨を米ドルや日本円などフィアット通貨に交換するとき、ギフトとして暗号通貨を送るとき(1万5000ドル相当を超える場合)、暗号通貨でモノ・サービスを購入したとき、NFTなどのデジタルアセットを暗号通貨で購入するときなど。

一方、エアドロップによって暗号通貨を得た場合、DeFiレンディングで金利を得たとき、またマイニングで収入を得た場合は、所得税の課税対象となる。

キャピタルゲイン税は、短期と長期で税率が異なる。

保有期間1年未満の暗号通貨資産によって得られた短期利益は、米国の所得税分類と同じ税率が課せられる。

単身者の場合、暗号通貨投資の短期利益が9950ドル(約135万円)以下だと税率は10%。ここから利益が上がるに伴い、税率も上がっていく。9951〜4万525ドルは12%、4万526〜8万6375ドルは22%、8万6376〜16万4925ドルは24%、16万4926〜20万9425ドルは32%、20万9426〜52万3600ドルは35%、そして52万3601ドル以上で税率は37%となる。

一方、1年以上長期保有の場合、単身者のキャピタルゲイン税率は、4万400ドル以下でゼロ%、4万401〜44万5850ドルで15%、44万4850ドル以上で20%となる。

もし、暗号通貨投資家が1億円相当の短期利益を得た場合、ポルトガルであれば税金はゼロだが、米国では最低3700万円が徴収されることになる。

ポルトガルのほか、米国ではクリプトヘイブンとしてプエルトリコへの関心が高まっており、移住者が増えていると報道されている

アジアのクリプトヘイブン

クリプトヘイブンは、アジア地域にも存在する。

現時点でアジアのクリプトヘイブンとして名が挙がるのは、マレーシアやシンガポールだ。

マレーシアでは現在のところ暗号通貨は「資産」とみなされておらず、個人が持つ場合、頻繁な取り引きや定期的な収入としての性格を持たない限りにおいて、課税されない状況となっている。ただし、ポルトガルと同様に、法人に対しては別の課税ルールが適用される。

マレーシアの街並み

国際的な会計事務所Croweのレポートによると、これまでのところマレーシア税務当局による暗号通貨に対する明確なガイドラインは発表されていない。しかし、当局は所得税法(the Income Tax Act 1967)の項目を挙げ、頻繁に暗号通貨を取り引きするデイトレードのような場合は、課税対象になり得るとの立場をとっている。

一方、シンガポールは、キャピタルゲインの租税枠組みを持っておらず、株式、暗号通貨ともに個人のキャピタルゲインに対する課税はなされない。

世界にはこのほかにも、ケイマン諸島、マルタ、スイスなど多くのクリプトヘイブンが存在している。国家間の税率の差がなくならない限り、暗号通貨投資家らの移動はなくならないだろう。

文:細谷元(Livit

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