新型コロナウイルスの世界的な蔓延から3回目のゴールデンウイーク(GW)がやって来た。旅行業大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が4月中旬に発表した報告書「2022年ゴールデンウイーク旅行予約動向」によれば、海外旅行予約者は前年同期比で500%を超える伸びを見せているという。

日本だけでなく、世界の多くの国でワクチン接種が行き渡り、コロナへの対処法もある程度確立され、「ウィズ」コロナの段階を迎えている。現地到着や帰国時の隔離、PCR検査の受検やワクチン接種証明提示など厳しかった制限が緩和され、国によってはコロナ以前と変わらない入国条件を示すところも出てきた。

日本では4月、日本旅行業協会(JATA)が海外へ視察団を派遣したほか、山際新型コロナ対策相が同月中旬、GWには行動制限をかけない考えを示したことが、海外旅行を心待ちにしていた人々の背中を押した格好だ。

コロナ以前も、ポストコロナも、人気は定番のハワイ

オアフ島(ハワイ)のワイキキビーチ(Photo by Channey Tang-Ho on Unsplash

HISの同報告書によれば、予約者数ランキングのトップはハワイ。前年比で388%の伸びだという。入国条件が緩和され、費用を抑えられるようになったことが、人気に大きく影響しているようだ。続いて前年比736%のバンコク、500%のマニラ、292%のソウル、3400%のバンクーバーがトップ5に入っている。

ハワイへはJATA主催の視察団が訪れており、ハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)などの現地要人と会談している。両者とも視察団訪問を日本の海外旅行再開に向けた第一歩と位置付け、より強固な協力関係を継続していくことを確認。コロナ以前から人気の旅行先である上、こうしたJATAの動きに日本人旅行者も安心感を得て、ポストコロナ最初の旅行先に選んだものとも考えられる。

アジア圏の国も旅行者受け入れ準備に余念なし

一方、入国制限緩和など、旅行者受け入れ面で、日本から近いアジア圏の国々も決してHISの予約者数ランキングトップ5に引けを取ることはない。

例えば、日本人の人気移住先といわれるマレーシア。観光客の受け入れを再開したのは世界がコロナでパニックしていた2020年7月というモルディブ。つい先だってワクチン接種完了者には入国制限を撤廃したばかりのシンガポールーー3国とも、到着後隔離の必要はない。

英国の定期刊行物『エコノミスト』の調査部門であるエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)は「アジアにおけるトラベル・レディ・インデックス」を4月下旬に発表した。この指数は、国の経済における観光業の重要度、地元の人々のワクチン接種率、渡航のしやすさ、帰国の際の利便性に基づき、旅行者を受け入れる準備ができているかの度合いを指数で示している。

指数をもとに、国を観光客にとって旅をしやすい順に並べたランキングも明らかになっている。3月下旬現在で、マレーシアが第2位、モルディブが第4位、シンガポールが第5位にランクインしている。

制限・条件なしに国境を開いているのは、世界で35カ国

コロナに対する世界各国の国境及び、国内の規制緩和の進み具合で3つに分けてみる。

4月26日現在、ほとんどの旅行者に制限・入国条件を課さず、国境が開かれた状態の国は35カ国ある。制限付きで国境が開かれているのは157カ国。ここで入国を許されるのは、予防接種を完了しているか、PCRまたは抗原検査の結果が陰性か、到着時に隔離を行うことができる旅行者だ。最後に、国民や在住者などにのみ入国が許され、基本的に旅行者には国境を閉ざしているのは34カ国だ。

マレーシアは市民のワクチン接種率が84.6%。日本からの出国前にマイセジャテラ・アプリをダウンロードし、自身の渡航情報を登録する。日本出国前2日以内にPCR検査を受け、陰性証明書を取得し、アプリに入れる。入国時検査で陰性であることを証明し、これもアプリへ。ワクチン接種完了者で陰性の場合は、隔離の必要はない。ワクチン接種未完了者で陰性の場合は、入国後5日目まで自宅隔離を行わなくてはならない。公共の場、室内、公共交通機関ではマスクの着用が必要だ。

モルディブは市民のワクチン接種率が73.3%。日本からの旅行者は、ワクチン接種を済ませている、済ませていないを問わず、入国可能だ。隔離の必要もない。医療施設や感染者が急激に増加したエリアでは、マスク着用が課せられる。混み合った場所、室内、公共交通機関でのマスクの着用は、奨励されるのみだ。

シンガポールの接種者は91.9%。ワクチン接種完了者は、出発前検査や隔離の必要なしに入国できる。ワクチン接種未完了者は、日本出国前2日以内の出発前検査、7日間の宿泊先での隔離、隔離終了時のPCR検査受検を要件として、入国が許可される。

ポストコロナには人気の旅行先になることを目指して

クアラルンプール(マレーシア)のペトロナス・タワー© James Kerwin (CC BY 2.0)

2019年、マレーシアにおいて観光産業が国内総生産に占める割合は6%だった。しかし、コロナの蔓延と共に2020年には1%と落ち込んだ。観光収入は、2019年と比較して、2020年には71.2%もの減少を記録している。同年の国内観光収入は73.8%で、インバウンドツーリズムの収入を上回っている。長引く国境における入国制限に対抗し、国内観光を強化する試みが功を奏した結果となった。

マレーシア投資開発庁(MIDA)の計画によれば、回復力があり、持続可能な未来を切り開くために、今後観光業界のデジタル化、スマート製品やインフラの拡大に注力していくことになるという。昨年末には、観光業界の存続を確実なものとし、またマレーシアを世界的に人気がある観光地にすることを目標に「国家観光政策(NTP)2020-2030」を発表した。

今回の統計を発表した統計局長を務めるモハド・ウジール・マヒディン博士は、NTPには戦略の1つとして、デジタル技術を活用した「スマートツーリズム」の導入が挙げられていると話す。「デジタル技術は人々の旅行に影響を与えており、観光業関係者もそれに応じて、営業方法を変えていっている。安全で信頼できる旅行先であるというメッセージを世界に広めるためにリブランディングと、コミュニケーションプランの開発を通じ、旅行者の信頼を再構築することを目指す」と言う。

モルディブの砂州(Photo by Ahmed Aman on Unsplash

観光立国のモルディブでは2019年、観光産業が国内総生産に占める割合は56.6%を占めていた。しかし、2020年には37.7%と落ち込んだ。

コロナの蔓延で昨年も苦境に立ったモルディブの観光業界だったが、年末には同年で130万人目の海外からの観光客を迎えた。モルディブ政府観光局のトイブ・モハメド最高経営責任者兼マネージングディレクターは、昨年世界の24市場で、260以上のさまざまなマーケティング活動を実施したことに触れ、これらの活動の成果として、2年連続で旅行業界のオスカーといわれるワールド・トラベル・アワーズの「世界のリーディング・デスティネーション」に選ばれたと考えているそうだ。

モルディブ観光業発足50周年を迎える今年、年間を通じて新しい活動が計画されているそう。第一四半期だけでも60ものイベントを行い、好評を得ている。

シンガポールのマリーナ・ベイ(Photo by Mikhail Preobrazhenskiy on Unsplash

シンガポールの場合、観光産業が国内総生産に占める割合は2019年には4%だった。2020年にはわずか0.1%まで縮小してしまった。観光収入は2019年と比較して、78.4%の減少を見せた。

2020年後半、経済活動が再開される中、消費者のクルーズへの信頼と需要を回復するために、シンガポール政府観光局(STA)は世界初のクルーズセーフ認証を設立している。また旅行が制限されていても、世界の人々にシンガポールのことを覚えていてもらうためにブランドイメージを強化。シンガポールが将来も旅行者にとって魅力的な旅行先であるとのアピールは、今年も継続されている。

STBは昨年、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)に加入し、すでにホテルが認証を取得している。ホテル業界と共に、ホテルの持続可能性を求めての計画を作成中で、今年後半には発表の予定だそう。また「都会のウェルネス天国」を目指し、向こう5年間のプランも策定。6月には「ウェルネス・フェスティバル」を初開催する。

世界の観光業界の回復は、2024年以降

EIUによる「アジアにおけるトラベル・レディ・インデックス」によれば、モルディブのような小さな島しょ国ではすでに観光業が完全回復を遂げているという。しかし、アジアのほかの国では回復は2024年以降になると予測する。

今年の観光業界を見てみると、回復を妨げる要因がまだ多く存在している。コロナの新株に対しての規制再導入の可能性、原油価格の高騰がもたらす航空運賃の上昇、世界的な物価高と障壁は絶えない。

ゼロコロナ政策を依然として続けている中国の人々が海外旅行に出かけるようになり、消費者や企業の旅行に対する信頼が大きく回復するのには、まだ時間がかかりそうだ。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit