パナソニックが純水素型燃料電池を活用した「RE100化ソリューション」の実証を開始 ~世界初、水素の本格活用によるエネルギーの地産地消化へ~

パナソニック株式会社(以下、パナソニック)は、純水素型燃料電池と太陽電池を組み合わせた自家発電により、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで賄う「RE100化ソリューション」実証への取り組みをスタート。滋賀県草津拠点において、純水素型燃料電池(500kW)と太陽電池(約570kW)、リチウムイオン蓄電池(約1.1MWh)を備えた大規模実験施設「H2 KIBOU FIELD」を稼働させ、4月14日にはメディア向けに公開された。工場の稼働電力を賄う自家発電燃料として、世界初(※パナソニック調べ)という水素の本格活用はクリーンエネルギー変革においてどのような役割を持つのか。説明会を通して取り組みを取材した。

カーボンニュートラルの鍵を握る「RE100」

地球温暖化対策として脱炭素社会の早期実現(カーボンニュートラル)と、地震等の自然災害の多発による地域インフラのレジリエンス強化を目的とした分散型社会への移行が叫ばれる中、企業の持続的な成長の為に事業活動で消費する電力を、太陽光や風力といった再生可能エネルギーをもちいて発電した電力(再エネ電力)で全て賄おうとする国際的な企業連合RE100(Renewable Energy 100%)に加盟する企業は世界で368社。うち日本は2019年8月に加盟したパナソニックを含む69社(2022年4月現在)と年々その数を増やしている。

一方で、消費再エネ電力比率100%を実現するため、再エネ電源設備を保有する事業者から外部調達する再エネ電力の供給量や価格は市場の影響を受けやすい。また自家発電の為の太陽光・風力発電も天候次第では供給量が不安定になるほか、事業発電に必要な全ての電力を賄うためには広大な設置面積が必要となるなど、課題もあった。

純水素型燃料電池「H2 KIBOU」の開発

そこでパナソニックはクリーンな次世代エネルギーとして世界各国が期待する水素(H2)に着目した。電気分解によって水だけでなく、石油や天然ガスなどの化石燃料、メタノールやエタノール、下水汚泥や廃プラスチックなどの様々な資源からも生成できる水素は、酸素と結びつけることで電気を生み出し、燃焼させて熱エネルギーとして利用する場合にもCO2を発生しないクリーンエネルギー。太陽光・水力・風力発電などの再エネと組み合わせた活用も可能で、大量に長期保存できることから長距離輸送も可能というメリットもある。

水素を「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」のサプライチェーンの中で「つかう」分野に商機を見出したパナソニックは累計生産20万台の実績を誇る家庭用燃料電池「エネファーム」で培った技術を活用し、2021年10月、業務用純水素型燃料電池「H2 KIBOU」を開発した。

同機は供給された水素と空気中の酸素を化学反応させて発電。コンパクトな筐体で発電効率が高いことに加え、複数台の連携制御により需要に応じた発電出力のスケールアップが可能であるほか、屋上や地下室、狭小地など柔軟な設置にも対応する。

同社は化石燃料からのエネルギーシフトにおいて、太陽光や風力などの再エネで賄いきれない分を補う有力な代替手段として大きな期待を寄せている。

パナソニックが開発した純水素型燃料電池「H2 KIBOU(5kW)」
家庭用燃料電池「エネファーム」で培った技術を活用

滋賀県草津拠点における実証

この純水素型燃料電池「H2 KIBOU」を活用した世界初となるRE100化ソリューションの実証施設「H2 KIBOU FIELD」の運用が滋賀県のパナソニック草津拠点において始まった。

モデル工場となる同拠点内の燃料電池工場の屋上とほぼ同じ面積(約4,000㎡)に、7.8万リットルの水素タンクを供給源とした99台の「H2 KIBOU」(495kW)、太陽光電池(570kW)とリチウムイオン蓄電池(1.1MWh)を組み合わせ、燃料電池工場の製造部門の全使用電力(ピーク電力約680kW、年間電力量約2.7GWh)を賄う。まさにエネルギーの“地産地消”だ。

実証施設「KIBOU FIELD」に設置された太陽光電池は570kWを発電する
1台5kWの純水素型燃料電池「H2 KIBOU」を99台連結し495kWを賄う

パナソニック独自の監視制御システム

このシステムの最大の特徴は水素・太陽・蓄電の3電池連携の最適制御により、天候に依存しない安定した電力供給を実現できることだ。また1台5kWの「H2 KIBOU」は太陽光発電とのバランスをみながら、1台ごとの発電時間を平準化することでトータル性能を最大化でき、メンテナンス時には必要な筐体のみを停止させることで、工場の稼働を止めることなく運用できる。

また実証で使用される約7.8万リットルの水素タンクには岩谷産業から供給を受けた化石燃料由来のグレー水素(※再生可能エネルギー由来はグリーン水素)が充填され、年間使用量は約120トンを想定する。

水素ガスは岩谷産業から供給され、最大7.5万リットルを貯蔵できる

普及への鍵は低価格化。将来のグリーン水素化も視野

今後は、1年間をかけて発電状況へのモニタリングや天気情報(将来対応予定)を通じた需要予測や最適な発電計画を立てるとともに、付随する技術開発や検証をおこない、2023年度より実用化と本格導入開始を目指す。国内では社内グループ工場や各事業者への展開を目論むと共に、欧州や中国の企業を中心としたグローバル展開も見据える。

実用化にあたり、パナソニック燃料電池事業を総括する加藤正雄氏は「機器、制御システム、工事費を含めると現段階では10数億円のコストがかかるが、早い段階で一桁億円を実現させたい」と語り、「将来的にはグリーン水素へのシフトも視野に入れている。その為には水素サプライチェーン全体が同時に進むことが必要」と期待を示した。

パナソニック燃料電池事業総括の加藤正雄氏。「水素の運用には自治体間とのルール制定も必要」と語る。

パナソニックグループは1月にその幅広い事業領域を活かして2050年までに世界のCO2総排出量の約1%となる3億トンの削減を目指す環境宣言「Panasonic GREEN IMPACT」を発表。4月15日の実証施設開所式には滋賀県の三日月大造知事や地元草津市の橋川渉市長などの来賓も出席し、施設見学を通して期待度の大きさを表した。

パナソニックがリードするRE100ソリューションはパートナーとの共創を通じて、工場や店舗のみならず、ローカル小規模発電や物流拠点、スマートタウンといった多岐に渡る展開が期待されており、脱炭素社会実現に向けても大きな役割を担うはずだ。

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