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2017年、ゲームを端にNFTが知られるようになった。アイテムの売買やオリジナルキャラクターの作成、あるいは収益を得られる新しいスタイルで注目を浴びた。
次に火が付いたのはアート。NFTはNon-fungible token(非代替性トークン)、つまり代替えができないオンリーワンであり、所有者に紐づいて複製も偽造もできないという性質から、鑑定書としての機能でアート界を賑わせ、クリプトアート(トークンと関連付けられたデジタルアート)も誕生した。
Louis Vuittonが創業者の200周年記念にNFT作品を収集するゲーム、GAPがデジタルアートを発表、音楽NFTプラットフォームにワーナーミュージックが提携と、ファッション、音楽業界なども参入し、その分野に興味がある特定の人々やメタバース上だけではなく、一般レベルでもどうやら熱いらしいと認識されるようになった。
NFTそのものは新しいが、希少性や唯一性に高値がつくということに新鮮さは特にない。なのでその点を掘り下げるのではなく、どこまでNFTの運用が広がっているのか、広がることで何か変化が生まれているのかを考察し、NFTを可能にしているブロックチェーンがもたらすかもしれない「変革」を俯瞰してみたい。
連帯に価値を創出するNFT
2月末、ウクライナの対ロシア防衛を目的とする寄付がNFTによってなされ、約670万米ドル(約8億円)が集まった。呼びかけたのは、ロシアのパンクバンド「Pussy Riot」。Pussy Riotはフェミニストのパンクバンドで、モスクワを拠点にしながらプーチン政権を非難しており、逮捕歴もある活動家集団でもある。
Pussy RiotのメンバーであるNadya Tolokonnikova氏が、イギリスに住むウクライナ人活動家のAlona Shevchenko氏、NFTキュレーションとデジタルアートコレクターDAPとともにUkrainaDAOを立ち上げ、寄付を呼びかけた。
DAOとはDecentralized Autonomous Organizationの頭文字をとった略語で、日本語では分散型自立組織と訳される。中央管理者が意思決定を下すのではなく、メンバーが自律的に協力して運営するブロックチェーン上の形態だ。
Pussy Riotは、ウクライナ国旗のNFTを1万枚販売し、8億円の寄付金を調達した。ロンドンを拠点にビットコインやイーサリアム、Web3.0などのニュースを扱う独立系メディアプラットフォーム『Decrypt』にTolokonnikova氏が国旗をNFTにした理由を語っている。
「国旗は、アーティストや芸術性についてではなく、私たちをはるかに超える大きなものについて語りかけます。そして、国旗は、連帯を純粋に示すことができるのです」。つまり今回のNFTの価値は、作品ではなく連帯にあると言っているのだ。
NFT戦争ミュージアム
3月末、ウクライナ政府のDX(デジタル・トランスフォメーション)省は、NFT戦争ミュージアム「Meta History Museum of War」の立ち上げを発表した。ミュージアムのミッションは、今起きている出来事をリアルタイムで記録し、世界のデジタルコミュニティに真実の情報を広め、ウクライナ支援のための寄付を集めることとしている。
ロシア侵攻が始まった2月24日05時45分から信頼できるメディアソース記事や動画をウクライナのアーティストの作品と一緒に時系列に展示している。3月31日付Meta History Museum of Warの公式ツイッターによると、1,153点のアートワークが売れ、50万米ドル(約6,700万円)が寄せられたそうだ。この販売・寄付で得た資金は、ウクライナ政府DX省の公式暗号資産ウォレットに直接送られ、軍隊と民間人を支援するために使われる。
このNFTは政府が直接関与していることで話題を呼んでいるが、「改竄できない歴史の記録」の価値は大きいと思う。
例えば、従来の戦争ミュージアムは過去の戦争を展示物で学ぶが、その展示物がまぎれもなく100%本物なのかを証明する手立てはなく、資料の信用性や専門家の了解によって成り立っている。一方、ブロックチェーンは記録がネットワーク内の参加者の台帳に全て書き込まれるので、改竄はほぼ不可能だと言われている。つまり、その時起きた事実が権力者や統治者によって修正されたり曲げられたりすることなく、構造上永続的に記録されるのだ。
今まで学んできた歴史が正真正銘なのかを証明する術をもたない私たちには、改竄できない記録が歴史に与える影響力を想像するのは難しい。
ブロックチェーンの本質がいきつく先は
3月25日、Bloomberg動画で、ウクライナ政府DX省副大臣のAlex Bornyakov氏がインタビューに答える模様が配信された。
ウクライナ政府がNFTに関与する理由を聞かれたところ、Bornyakov氏は、ウクライナ政府はNFTやビットコインなどの暗号資産運用のフロントランナーを目指しており、ミュージアム設立などは寄付を集めるだけではなく、世界中の暗号資産マーケットや企業にプレゼンスを力強く示し、暗号資産で経済の立て直しを図っていきたいからだと語った。
ちなみにブロックチェーン分析企業Chainalysisによると、暗号通貨を導入している国のトップ5は、1位ベトナム、2位インド、3位パキスタン、4位ウクライナ、5位ケニアで、自国通貨が弱い国が多い。
世界経済フォーラムの記事によると、2021年の暗号通貨の時価総額は187.5%増になったという。今後も暗号通貨が順調に成長して保有者が増えれば、価値は上がり、さらに普及していく。
この傾向は世界をどこに導いていくのだろう。先にブロックチェーンの運営形態は中央管理者が存在せず、分散型自立型と述べた。通貨でいうなら中央銀行を必要としないということになる。それは、現在、世界経済の中心になっている米ドル建てに依存しない経済が生まれる可能性もあるといえないだろうか。暗号通貨を導入している国のトップ5が米ドルに大きく依存している新興国なのが示唆的だ。
現在、各国の中央銀行が発行する通貨が暗号通貨に取って代わられることはないと言われているが、ブロックチェーンは中央集権とは真逆の「分散」が本質である限り、ありえないと断言することはできないのではないだろうか。
文:水迫尚子
編集:岡徳之(Livit)