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単価上がるフリーランス
パンデミックをきっかけに、リモートワーク需要が高まり、多くの企業はオンライン/デジタル環境の整備に多大な投資を行うようになった。結果、社員のリモートワーク環境が整っただけでなく、社外のフリーランサー/デジタルノマドに仕事を依頼する環境も整ったことが想定される。
実際、2022年以降もフリーランス/デジタルノマドとして働く人は増え、関連する経済の規模も拡大する兆しが観察されている。
米ナスダック上場のフィンテック企業Payoneerがこのほど発表した調査レポートでは、パンデミック以降フリーランサーへの仕事依頼が増加しているだけでなく、フリーランサーの報酬額も増加傾向にあることが明らかになった。この調査は、100カ国2000人のフリーランサーを対象に実施された。
パンデミック以降、仕事依頼の件数は以前と変わらないという回答割合が45%だった一方、仕事依頼が増えたとの回答は32%だった。反対に仕事が減ったという回答割合は23%。全体的にパンデミック以降のフリーランス需要は増加していることを示す数字となっている。
そして興味深いことに、フリーランスの時給が大幅に増加していることも同調査で明らかとなった。世界のフリーランサーの平均時給は28ドル(約3300円)と2020年の調査時の21ドル(約2470円)から7ドルも上昇していたのだ。
地域別に見ると、現時点で最も平均時給が高いのが北米で44ドル(約5191円)、次いで西ヨーロッパが31ドル(約3600円)、南米が24ドル(約2800円)、これに中央アメリカ、アジア、アフリカ、中東欧がそれぞれ22ドル(約2600円)で並ぶ。
パンデミック以降、時給が下がったという回答割合は12%。一方、以前より時給が高くなったという回答割合は40%に上った。
単価の上昇は、フリーランサーが請け負う仕事が高付加価値化していることを示唆するものだ。
同調査によると、時給の世界平均が最も高い分野は金融(41ドル)だった。このほか時給が高い分野として、マーケティング(34ドル)、マルチメディア制作(33ドル)、IT(29ドル)、プロジェクトマネジメント(28ドル)、プログラミング(25ドル)などがランクインした。
ポルトガルに登場したデジタルノマド・ビレッジ
人口数と収入の増加が観察されるフリーランサー/デジタルノマドの世界。Euronewsが伝えたA Brother Abroadの推計によると、デジタルノマドの支出ベースの経済規模は、7870億ドル(約92兆円)に上る。
世界各地では、このフリーランサー/デジタルノマドを誘致する取り組みが広がりを見せている。
昨年注目を集めた取り組みの1つがポルトガル・マデイラ島に登場した「デジタルノマド・ビレッジ」だ。
マデイラ島はポルトガルの南西に位置し、首都リスボンから500キロ以上離れた離島。面積は740平方キロメートル、人口は約26万人。
デジタルノマド・ビレッジは、マデイラ島の地方自治体や地元のスタートアップ支援組織がパートナーシップを組み実施しているデジタルノマド誘致プログラムで、2021年2月に第1フェーズの受け入れを開始。同プログラムでは現在までに、100社が登記されたという。14.7%という法人税が主に欧州のデジタルノマドを魅了している。
同プログラムが開始され1年が経過した今、デジタルノマド誘致の可能性と課題が見えてきている。
デジタルノマドの経済効果
可能性に関しては、地元経済の活性化、歳入の安定化、地元民によるスタートアップ活動の活発化などが挙げられる。
デジタルノマドらは、グローバル市場の標準で収入を得ており、その収入額や支出額は地元民より多くなる。これが地元経済や地方自治体の歳入の安定化につながるとみられているのだ。
Siftedが伝えたマデイラ島地方自治体の統計によると、地元民の月間平均支出額が800ユーロ(約10万円)である一方、デジタルノマドの支出額は1800ユーロ(約23万円)に上るという。
グローバル市場で稼ぐデジタルノマドの存在は、歳入の安定化にも寄与することが期待されている。
特にマデイラ島など、観光収入に多くを頼る財政構造を持つ地方自治体にとっては重要な示唆だ。欧州メディアEuractivによると、マデイラ島のGDPに占める観光の割合は26%と非常に高い。パンデミックでも示されたが、観光は収入源としては非常に不安定なもので、地方自治体としては観光以外の安定的な収入源を模索することが求められる。
海外のデジタルノマドが長期滞在することで、地元発のスタートアップが育つこともポジティブな影響の1つだ。たとえば、マデイラ島発のメタバースプラットフォームFootARは、デジタルノマドらを介し、新たな顧客ネットワークの構築に成功したという。
デジタルノマド流入の課題
デジタルノマドの流入による課題もいくつか報告されている。
1つは、不動産の値上がりだ。
マデイラ島で企業を登記し長期滞在するデジタルノマドらは、もちろん不動産の購入が可能となる。地元民より強い購買力を持つデジタルノマドの不動産需要は高く、マデイラ島の不動産価格に対し上昇圧力になっていると指摘する声がある。
実際、マデイラ島の2021年9月の不動産データによると、島内の不動産価格は前年同期比17.4%上昇した。これは、ポルトガルの他の地域と比較しても突出した上昇率となっており、デジタルノマドの流入が要因と指摘する声があがっている。
首都リスボンを中心とする都市部の不動産価格上昇率は10.1%、このほか南部アルガルヴェ地方で7.9%、中部で7.8%、北部で7.1%の上昇率だった。
平方メートルあたりの不動産価格は、リスボン首都圏で3252ユーロ(約42万円)、アルガルヴェ地方で2527ユーロ(約32万円)、北部で1914ユーロ(約25万円)、マデイラ島はこれらに次ぐ1872ユーロ(約24万円)だった。
不動産価格の上昇のほか、デジタルノマドが地元コミュニティに溶け込めていないなどの課題も報告されている。
欧州だけでも見ても、イタリアやスイスにおいて町ぐるみでデジタルノマドを誘致しようという取り組みが多数始まっている。今後デジタルノマドが地元経済にどのような影響をもたらすのか、マデイラ島以外からも情報が発信されることになるはずだ。
文:細谷元(Livit)