減ゴミ・脱プラスチックを求める市民が作る、古くて新しい「パッケージ・フリー」なマーケット

TAG:

「脱プラスチック」を求める消費者

日本でレジ袋が有料化して久しいが、より環境意識の高いヨーロッパでは、レジ袋は日本よりもはるかに前に有料化されていた。そしてそれにとどまらず、商品パッケージ自体も簡易化し、ゴミを減らしていこうという動きが継続的に起きている。

ドイツでは、使用後にそのまま捨てられてしまう個別商品の包装の廃棄物が増加を続け、ドイツ連邦環境庁によると、2018年に1,890万トンにも達した。なかでも自然に分解されない化合物であるプラスチックは、ゴミとして残留するのみならず、微細化した小片のマイクロプラスチックが環境・健康被害を与えることから、特に削減が求められている。

そんななか、EUは2021年7月、プラスチック製の食器やストローなど、一度しか使用しないプラスチック製品の使用を禁止し、使い捨てのプラスチック製品は販売自体されなくなった。

スーパーでも、プラスチック包装が紙素材に置き換えられたり、かつてはラップで包まれた状態で売られていたキュウリが剥き出しで陳列されていたりと、包装簡易化の工夫がスーパーでも見て取れる。

とはいえ、包装ゴミが出ない商品はスーパーではほんのわずかで、一部の青果品にとどまっている。ゴミを減らしたいと願う人びとは、そんな状況に苛立ちを感じ、より「環境に良い」買い物のあり方を模索している。

ドイツで存在感の高まる「脱包装」スーパーマーケット

そうしたなか、2014年ごろから大都市を中心にドイツ各地で徐々に広がっていったのが、「パッケージ・フリー」のスーパーマーケットだ。

ここでは未包装の商品が大型の容器に直接入った状態で陳列され、顧客は自分の持参した容器に必要な分だけ自ら移し替え、購入するという方式を取る。また、店舗は、商品の仕入れ段階から、商品を繰り返し使える容器で大量に運搬し、包装ゴミを出さないようにしているという徹底ぶりだ。

大きな容器に入った商品を、スコップなどを使って顧客は自分の容器に移し替え、購入する(筆者撮影)

使い捨て容器ではなく、ガラスなど繰り返し使用できる容器に入った牛乳やヨーグルト、ドリンクといった商品も販売されている。顧客は、このコンセプトの店で購入することで、商品の購入と使用から出るゴミを最小限に抑えた、より環境に良いライフスタイルを実現できる。

また、販売されている商品は、ほぼすべて環境負荷の低いオーガニック製品だ。そのため、商品価格も通常の店より高く、大型のスーパーマーケットチェーンの2〜3倍以上の価格になってくる。

顧客は空容器を持参し、商品を自分で取り分けるなど、購入に手間もかかる。しかし、それでも店に客は絶えず、「パッケージ・フリー」の同種のコンセプトの店は増加し続けているのが現状だ。

2019年末時点では、このコンセプトの店の舗数は160程度だったが、グリーンピースによると、すでに500店舗以上がドイツに存在している。さらに「パッケージ・フリー」店舗の業界団体や支援企業も続々と誕生し、ドイツではその存在感が高まっている。

一方、このコンセプトは斬新なようでいて、実は古いアイデアでもある。

スーパーマーケットでの買い物が一般的になる前は、人びとは個人商店で、肉や野菜を必要な分だけ簡易包装で購入していた。それが、効率が追求されるようになると、扱いやすく、大量のプラスチック容器やビニールに包装された商品が陳列されるようになった。

かつての日本でも、例えば豆腐は、持参した容器に豆腐屋で豆腐を入れてもらって持ち帰っていた。それがいつの間にか、豆腐はスーパーでパックに入ったものを買うことが一般的になった。

つまり、このパッケージなしという新たなコンセプトの店舗は、タッパーやボウルを店に持参していた個人商店の時代のリバイバルであるとも取れるのだ。

包装なしマーケットでの買い物体験

ドイツの小都市に住む著者も、1年ほど前にできた、近所の「パッケージ・フリー」の店舗に買い物に行ってみた。瓶やタッパーなどの容器をいくつか自宅から持っていったが、ガラスの空き瓶はそれなりに重かった。

店は一般的なスーパーよりもだいぶ小さく、個人商店といったサイズ。店内に入ると、乾物を中心に、長期保存が可能な商品が大型の容器に入れられて陳列されている。

オーガニックのパスタや豆から作った乾燥の代替肉

例えば、パスタ。短いものが大きなカートリッジに入って、壁に設置されている。よりミネラルを多く含むスペルト小麦の粉で作ったものや、全粒粉で作ったパスタなど、より健康に良い商品が豊富にある。

また、ビーガンやベジタリアンには必須の、豆から作った乾燥の代替肉や豆類の扱いも多い。その他の商品にもビーガン表記がついており、ビーガンの顧客も買い物しやすくなっている。

なお、これらの商品はすべてオーガニック商品であることから、価格は通常の大型スーパーの製品の価格よりも上がる。例えば、オーガニックの小麦で作ったペンネは100gで0.59ユーロ(80円弱)と、通常のスーパーの製品価格の3倍程度にもなってしまう。

とはいえ、穀物などに農業補助金が出るヨーロッパでは元々価格が低めに抑えられているので、購入をためらってしまうほど高価ではない。オーガニックで健康にも環境にも良いことなどを配慮すれば、それほど高いとも言えないのかもしれない。

さて、この製品だが、どうやって購入するのか。店内で、店の仕組みが説明されている。

  1. 容器の重さを測る
  2. 容器に商品を詰める。
  3. 支払う
明記される店内の購入ルール

著者も、店内に設置されていた計量計で自宅から持ってきたタッパーの重さをまず確認し、テープに重さを記入してタッパーに貼りつけた。

商品を入れる容器の重さは顧客が自分で量る

今回買いたかったのはグラノーラだ。カートリッジについたレバーを回すと中から商品が出てくるので、持ってきたタッパーに入れ、買い物カゴに入れた。

顧客は商品の入ったカートリッジから自分で商品を容器に移す

なお、商品には包装がないため、商品個別の成分表や注意書きはない。カートリッジ自体に成分や生産地、業者名や賞味期限などが表示されているので、必要に応じて写真を撮っておくと便利かもしれない。

また、油やお酢など、液体製品も自分で容器に詰められるようになっている。「たまり醤油」まで販売されていたが、移し替える際にこぼさないように注意しなくてはいけない。

豊富な液体製品。再利用可能な容器に初めから詰められた製品もある

なお、筆者が訪れた店舗では肉などの生鮮食品の扱いは限られていたが、肉類やオーガニック野菜を多く扱っている店もある。

また、この店では、環境負荷の低い食器用や洗濯用洗剤なども販売されていた。たしかにそれらの洗剤類は、必ずプラスチック容器に入っており、それなりの体積があるので、筆者も使用後に捨てるのにやや罪悪感を感じていた。

なお、この洗剤の入った、陳列用の店舗の大きなコンテナも、繰り返して使えるようになっているそうだ。

繰り返し使えるコンテナに入って販売される、食器用洗剤

続々と増える、ゴミを生まないアイデア商品

さらに、本来であればゴミになってしまう、繰り返し使える消耗品も多く販売されていた。

例えば、デンマークのラスト・オブジェクトという会社が開発した「ラスト・ラウンド」という、洗って繰り返し使える化粧用のコットンだ。リサイクル素材や自然素材を用いて作られ、250回程度まで洗って繰り返して使えるというものだ。

7枚入りで計1750回使えるので、1セットで1750枚分のコットンのゴミを減らせる。また、2000枚のコットンを作るのに2万リットルの水が必要とされるが、このセットを使えば、その生産にかかる水や資源を節約できるというのも売りになっている。

250回まで洗って繰り返し使える化粧用のコットン「ラスト・ラウンド」

同じくラスト・オブジェクトが作る、「ラスト・スワブ」という繰り返し使える綿棒もあった。洗いやすく、肌と環境に優しい素材でできており、1000回まで洗って利用できるらしい。

この商品は、1セット10ユーロ(約1300円)近くもする。1000本の綿棒を買うほうが安いだろうが、これを使えば使い捨て綿棒を生産するのに必要な原料やエネルギーを節約でき、その分のゴミを出さずに済む。

1000回まで洗って繰り返し使える綿棒「ラスト・スワブ」

さて、今回「パッケージ・フリー」スーパーマーケットに行ってみて、空き容器をいくつも店に運ぶのも重いし、容器の重さを量ったり、商品をこぼさないように容器に詰めたりというのは、やや手間のかかる作業だった。

しかし、買い物を終えたときに、「ちょっといいこと」をした気分になった。買い物の後などに包装ゴミを大量に出すのには多少なりとも罪悪感があったためだ。価格が上がるため財布と相談しなくてはいけないが、今後も通いたいと思った。

なお、家族連れで来ている他の客もいたが、環境に良いライフスタイルを追求する家庭で育った子どもたちにとっては、きっとそれが普通になるのだろう。

この包装のないスーパーマーケットは、ドイツにかぎらず、ヨーロッパ中で広がっている。今後も「減ゴミ・脱プラスチック」に向けた取り組みは、ヨーロッパで発展していくであろうが、なかにはグローバルスタンダードになる取り組みも生まれるかもしれない。今後も注目していきたい。

文:駒林歩美
編集:岡徳之(Livit

モバイルバージョンを終了