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ウクライナ情勢、偽情報拡散に加担してしまったZ世代
デジタルネイティブと呼ばれるZ世代は、一般的に他の世代に比べソーシャルメディアの情報リテラシーが高く、事実と偽情報を分別する能力に長けているといわれている。
しかし今回のウクライナ情勢では、Z世代によるソーシャルメディアを通じた偽情報の拡散が相次ぎ、同世代の情報リテラシーの脆弱性が露呈した格好だ。
米メディアNBCニュースは2022年3月12日に、Z世代によるソーシャルメディアでの偽情報拡散を取り上げ、問題の深刻さを報じている。
この報道では、ウクライナ情勢に関して、多くのZ世代がTikTokを通じて、ファクトチェックなしに偽情報を拡散してしまう傾向があり、その情報脆弱性は他の世代と変わらないことが指摘されている。
特にZ世代は、ウクライナ危機などの人道・社会問題に対して、情報をシェアしないことが行動を起こさないことと同義と捉える心理傾向が強く、事実情報、偽情報に関わらずシェアする傾向があり、これが偽情報拡散につながっているという。
若年層のニュースリテラシー向上に取り組む団体The News Literacy Projectのピーター・アダムス氏はNBCの取材で、オンラインで連帯感を示すことが、Z世代にとって政治的大義に共感を表明する現実的な手段になっており、このプレッシャーが偽情報の拡散につながる場合があると指摘している。
またNBCは、TikTokがファクトチェックなしに偽情報をシェアしやすい構造になっていることも、偽情報の拡散に寄与していると指摘。
TikTokでは、誰かのアカウントをフォローしなくとも「For You」ページにおすすめ動画が流れてくる。ロシアによる侵攻が開始されて以来、このページに大量のウクライナ関連の情報が示されるようになり、その中には多くの偽情報も含まれていたという。
前出のアダムス氏は、Z世代や若いミレニアル世代は、ソーシャルメディアを介し、見知らぬ人々を受け入れる環境で育ったため、TikTokのように投稿者がどこの誰か不明な場合でも受け入れシェアしてしまうのだと説明する。
実際、2020年にレバノン・ベイルートで起きた大爆発の映像が、ウクライナの映像としてTikTokで拡散し、600万回以上の再生回数が記録されている。
さらに、注目を浴びるために、事実情報・偽情報関わらず、センセーショナルな動画を投稿・シェアするZ世代の心理傾向やエンゲージメント率が高い動画をおすすめ表示するTikTokのアルゴリズムも偽情報拡散に寄与している可能性も指摘されている。
ピュー・リサーチ・センター調査、ソーシャル依存だと知識レベルは低い
Z世代の政治ニュースに関する情報判断力が乏しい要因の1つとして、情報取得源が主にソーシャルメディアに偏っていることが挙げられる。
米ピュー・リサーチ・センターが2021年2月に公開した調査では、政治ニュースの主な入手源がソーシャルメディアであるグループは、事実と確認されていない情報や偽情報を信じる傾向が強いことが明らかになったのだ。
ソーシャルメディアをニュースの入手源にしているのは、30歳以下の若い層。ピュー・リサーチ・センターが米国内約1万人を対象に実施した調査によると、18〜29歳のグループでは実に48%がソーシャルメディアを主なニュース取得源にしていると回答した。また30〜49歳でも40%と高い割合となった。一方、50〜64歳では9%、65歳以上では3%と対称的な状況が明らかとなった。
ソーシャルメディア以外の情報源も選択肢に含まれるが、18~29歳グループでは、ニュースサイト/アプリが21%、ケーブルテレビが7%、ローカルテレビが10%、ネットワークテレビが5%、ラジオが12%、紙媒体が7%といずれも低く、ソーシャルメディアの利用率が圧倒的に高い特徴が観察された。
一方、30〜49歳では、ニュースサイト/アプリが44%、ラジオが42%などと、ソーシャルメディアだけでなく、複数の情報源を活用していることが分かった。
ピュー・リサーチ・センターは、ニュース取得源別に、被験者の時事ファクト知識調査を実施。すると、ソーシャルメディアをニュース取得源にしているグループでは、知識レベルが著しく低いことが判明した。知識レベルを低・中・高と3段階に分けると、ソーシャルメディアを利用するグループでは、知識レベル「低」が57%と半数以上を占め、「中」が27%、「高」が17%となった。
一方、知識レベルが高かったのがニュースサイト/アプリを主なニュース取得源にしているグループだ。知識レベルは、「高」が45%、「中」が31%、「低」が23%だった。次いで、ラジオをニュース取得源にするグループの知識レベルが高く、割合は「高」42%、「中」34%、「低」24%だった。
陰謀論を信じやすい若年層
ソーシャルメディアを主なニュース取得源とする若年層、最新調査では陰謀論を信じやすい傾向が観察されている。
英グラスゴー大学の研究者などが実施した調査(2021年2月)では、若年層において14歳前後から陰謀論を信じる傾向が強くなることが示されている。
同調査は、被験者に対し、9つの異なる説を提示し、1〜7のスケールで各説をどれほど信じているかを問うものだった。9つの説には「秘密組織が政治的な意思決定に影響力を及ぼしている」や「秘密組織が政治家をコントロールしている」など、よく聞かれる陰謀論が含まれている。
調査の結果、11〜14歳と14〜16歳のグループを比較すると、陰謀論を信じる度合いは、平均3.72から4.67に上昇。また16〜17歳では4.39、18歳で4.06となり、陰謀論を信じる傾向は14歳前後がピークとなることが示唆された。
研究者らは、若年層特有の心理的なストレスや感情コントロールの難しさが不安を増幅させ、これが陰謀論への傾倒につながっている可能性があると指摘している。
文:細谷元(Livit)