ウクライナはIT産業急成長でテック人材の宝庫。ロシア侵攻で広がるテック人材雇用支援の動き

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ウクライナのテック人材雇用支援

多くのメディアでは「穀物大国」と呼ばれることが多いウクライナだが、この数年IT産業が目覚ましい成長を見せており、ハイテク国家としての側面を持ち合わせていることはあまり知られていない。

ロシア侵攻を受け、ウクライナ国内の多くのIT人材が苦境に立たされる中、欧米各国のテック企業が雇用という形で支援の手を差し伸べる取り組みが拡大している。

こうした支援を可能にしているのが、ウクライナのテック人材とテック企業をマッチングさせる支援プラットフォームだ。ロシア侵攻が開始されて以来、ウクライナのテック人材を支援するために複数のプラットフォームが登場し、主に欧米テック企業による雇用を促進している。

支援プラットフォームの1つが「Remote Ukraine」だ。
CNBCが3月11日に伝えたところでは、Remote Ukraineに掲載されている求人数は500件以上。主に欧州のテック企業が求人を掲載しているが、米国やカナダの企業による求人も散見されると報じている。

たとえば、アイルランドからはModular AutomationやWarDucks、スイスからはSportradar、イングランドからはDrive System Designなどのテック企業がウクライナテック人向けの求人を掲載。役職は「Web3開発者」から「シニア3Dアーティスト」まで多岐に渡る。

「UATalents」もウクライナのテック人材を支援するプラットフォームだ。Remote Ukraineと同様に、欧州のテック企業とウクライナテック人材のマッチング支援を行っている。UATalentsはドイツの人材会社StepStoneが支援する取り組みであり、今後はテック以外の分野にも支援領域を拡大する計画という。

上記プラットフォームのほかには、企業単体でウクライナのテック人材雇用支援を推進する動きも増えつつある。

クラウドベースの職場最適化ソリューションを開発する英Cutoverはこのほど、同社雇用プロセスにウクライナテック人材支援のための「ファストトラック」制度を開設。ウクライナテック人材の英国移住に向けたビザ取得支援に加え、英国までの旅費支給、また英語学習が必須の場合、学費の支援などを行うという。

また、この先ウクライナ情勢が落ち着き、ウクライナに帰国したい場合、速やかに帰国し、リモートで働ける「リロケーションパッケージ」の支援なども検討中とのこと。

急成長中のウクライナIT産業

近年のウクライナのIT産業関連の数字を見れば、ウクライナのテック産業が急速に成長していること、またテック人材が質・量ともに高く評価されていることがうかがえる。

ウクライナのGDPに占めるIT産業の割合は4%。これだけ見ると、それほど大きな産業には見えないが、注目すべきはその成長率だ。ワシントン・ポストによると、2021年ウクライナのITサービス輸出高は、68億ドル(約8259億円)と前年比で36%という驚異的な増加率だったという。

この急速拡大の背景にあるのが、グローバルテック企業によるウクライナ進出だ。マイクロソフト、グーグル、オラクルなど、フォーチュン500(米大手企業)企業が多数ウクライナに進出し、同国のテック人材を雇用、ITサービスを展開していた。海外企業による進出が容易であること、優遇税制、テック人材の質・量の高さが、多くのテック企業を魅了した。

ウクライナのIT産業はもともと低コストのITオフショア拠点という位置付けであったが、近年はシステムアーキテクチャ、ビジネスアナリシス、エクスペリエンス・デザインなど、高付加価値の上流工程を担うようになり、グローバルテック企業にとってウクライナの重要性は増していたところだ。

ワシントン・ポストがまとめたウクライナの各種ランキングにも、同国のテック産業・人材の存在感が高まっていることが如実にあらわれている。ウクライナは、東欧におけるITアウトソーシングランキングで1位、欧州全域における理系人材輩出数で1位、ソフトウェア開発世界ランキングで5位、Unityゲーム開発者数とC++開発者数で世界1位、JavaScriptエンジニア数で2位にランクインしているのだ。

理系テック教育が強いウクライナ

バルセロナ拠点の環境団体でデジタル部門責任者を務めるジョッシュ・フェルドバーグ氏はCNBCの取材で、ウクライナのテック人材の質が高い要因の1つとして、多くのテック人材が包括的でフォーマルなトレーニングを受けていることを挙げている。

高等教育機関において、テクノロジーに関する包括的な教育・トレーニングを受けたことで、Javaなどプログラミング言語に対して深い理解を有しているという。

ジェトロが2020年7月時点でまとめたウクライナ投資庁のデータによると、ウクライナにおけるテック系高等教育機関の数は150校。31校のポーランド、15校のルーマニア、14校のベラルーシなど周辺国を大きく上回っている。

またウクライナの高等教育機関で輩出されるIT関連の学位取得者数は年間1万6000人、エンジニア学位取得者数は13万人に上る。エンジニアの輩出数では、フランス(10万5000人)やドイツ(9万3000人)、英国(7万1000人)などを抜き、ウクライナは欧州域内で最多を誇る。

米シンクタンク戦略国際問題研究所などでは、すでにウクライナの復興に関する議論が出始めている。復興後のウクライナがハイテク国家として世界市場で台頭するシナリオもあるのではないだろうか。

文:細谷元(Livit

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