国立大学法人弘前大学とヤクルト本社は、Propidium monoazide(PMA)と次世代シークエンシングを組み合わせて、ヒトの大腸各部位における”生きた”菌叢構成の解析に成功したと発表した。
一般的な次世代シークエンシングでは生菌だけではなく死菌も含めて菌叢構成を解析するため、ヒトの大腸各部位の”生きた”菌叢構成の解析は同研究が世界で初めての報告。
同研究結果は3月4日に「Scientific Reports」誌で発表されたとのことだ。
【同件の概要】
腸内細菌はヒトと共生関係にあり、健康に深く関わっているという。
腸内細菌が多く棲息するヒトの大腸は盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S字結腸および直腸に大別され、生理機能や上皮細胞の構成は各部位で異なる。
腸内細菌の生態も大腸の各部位で異なっている可能性があるが、一般的にヒトの腸内菌叢を調べるために試料として用いられている排泄便では、その違いを調べることができない。
また、腸内細菌が産生する代謝物にはさまざまな生理作用が報告されており、ヒトの健康に影響を及ぼすことが示唆されているとのことだ。
腸内細菌の生態や代謝物との関係、そしてヒトの健康への影響を理解するためには、”生きた”細菌に注目して解析する必要がある。しかし、これまでの研究は、生菌と死菌の両者をまとめた解析がほとんど。
そこで同研究では、従来の測定法に加えて、”生きた”細菌のみが検出可能なPMAによるアプローチを取り入れ、健常成人を対象に大腸内視鏡により腸管各部位の内容物や粘液、便を採取して、そこに含まれる腸内菌叢を解析。
大腸各部位(上行結腸、下行結腸、直腸)の腸内菌叢を比較したところ、従来の測定法による生菌と死菌を合わせた総菌について大腸の各部位で菌叢の構成に差は認められなかったが、PMAを用いた生菌の解析では、いくつかの細菌群の生菌構成比が部位により異なることが分かったという。
例えば、ヒト大腸における最優勢菌群の一つであるラクノスピラ科の生菌構成比は、上行結腸、下行結腸、直腸、便の順に徐々に減少。ラクノスピラ科には、腸上皮細胞のエネルギー源となり、また抗炎症作用を有するなど、最近注目されている酪酸を産生する細菌種が多数属しているという。
この結果は、上行結腸がヒトに有益な酪酸の主要な産生部位である可能性を示すものであるとのことだ。
“生きた”腸内細菌がヒトの身体の状態にどのような影響を与えるかについては、まだ多くのことが解明されていない。
今後、腸内菌叢の生態とヒトの健康や病態との関係を明らかにするうえで、同手法を用いた“生きた”腸内菌叢の解析は有用であると考えられるとしている。