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カーボンテック、二酸化炭素からダイヤモンドつくる技術
二酸化炭素を捉え、価値ある素材に変換する技術「カーボンテック」が一部の投資家の間で密かに注目を集めるようになっている。
ロイター通信が、PitchBookなどのデータを集計したところ、2021年のカーボンテックスタートアップへの投資額は8億ドル(約922億円)となり、前年比で3倍以上増加したことが判明したのだ。
この分析では、カーボンテック市場は「カーボンキャプチャ(二酸化炭素貯蔵)」と「カーボンユーティライゼーション(二酸化炭素利用)」の2つに分類されている。投資の伸びが顕著だったのは、後者の二酸化炭素利用だった。
二酸化炭素利用とは、具体的にどのような技術を指すのか。
たとえば、シカゴのジュエリー企業Aetherの二酸化炭素をダイヤモンドに換える技術が挙げられる。Aetherは空気中の二酸化炭素からダイヤモンドを生成し、ラグジュアリープロダクトとして販売しているのだ。
同社の取り組みは、直接的に二酸化炭素を削減するだけでなく、環境・倫理的に様々な問題を抱えるダイヤモンド産業のあり方を大きく変える可能性があるとして注目を集めている。
ダイヤモンド産業では、現地労働者の搾取に加え、ダイヤモンド鉱石採掘にかかる森林破壊、水質汚染などが度々問題視されている。また、ダイヤモンド鉱石の供給量も年々減っており、ダイヤモンドに関わる企業は、そのサプライチェーンやビジネスモデルを抜本的に変える必要があるといわれているのだ。
一般的にエシカルを売りとする人工ダイヤモンドも製造プロセスでは多くの化石燃料が利用されており、カーボンニュートラルという観点では、エシカルとはいえないのが現状といわれている。
Aetherはこうした様々な問題をクリアするために、二酸化炭素をダイヤモンドに変換する技術に多大な投資を行ってきたのだ。
二酸化炭素を捉え・貯蔵するスタートアップ
Aetherのサプライチェーンでは、その始まりに二酸化炭素を効率よく捕らえる技術がある。
このフェーズを担っているのが、スイスのClimeworksというスタートアップだ。
同社は2017年5月、商業的規模としては世界初といわれる二酸化炭素貯蔵プラントをスイス国内に設置。当初は年間900トンの二酸化炭素を捉え・貯蔵するという計画のもと事業を推進してきた。
その後、コンサルティング大手アクセンチュアなどとの提携を通じて、アイスランドでの事業拡大に乗り出している。
アイスランドでは、新型プラント「Orca」により年間4000トンの二酸化炭素を鉱物化し貯蔵しているという。
この鉱物化には、アイスランドの企業Carbfixの技術が使われている。
Carbfixは自然界で二酸化炭素が鉱物化するプロセスを模倣している。まず二酸化炭素を水に溶かし炭酸水を生成する。この炭酸水に玄武岩などの岩石を入れると、カルシウム、マグネシウム、鉄などの要素が放出され、時間の経過とともに、水中の二酸化炭素と結合し、炭酸塩となり岩石の隙間を埋める。この炭酸塩は、数千年間安定する物質であり、理論上恒久的に二酸化炭素を貯蔵することが可能になるという。
Climeworksの事業がどこまで成長するのかは分からないが、Aetherのように二酸化炭素を求める企業が増えることがカギになるのは間違いないだろう。
また、広報的な目的で二酸化炭素を削減したい企業が顧客となる場合も考えられる。
実際、リヒテンシュタイン公国のプライベートバンクLGT銀行が2021年12月に、二酸化炭素削減に向け、Climeworksと10年の契約を締結したと発表。今後10年間、Climeworksは、LGT銀行向けに年間9000トンの二酸化炭素を削減・貯蔵するという。Climeworksにとっては、貯蔵した二酸化炭素をAetherのような企業に販売できるので、一石二鳥のビジネスといえる。
評価額2000億円、カーボンテック分野でユニコーンとなった企業
カーボンテック分野で今最も投資が集まっているといわれるのが、2016年創業の米スタートアップSolugenだ。
2021年9月、シリーズCラウンドでシンガポールのソブリンファンドGICなどから3億5700万ドル(約411億円)を調達。累計調達額4億ドル(約460億円)、評価額が18億ドル(2070億円)のユニコーンとなった。
同社は、コーンシロップや二酸化炭素を酵素と混ぜ、化学材料を製造するスタートアップだ。これらの化学材料は、現在その多くが石油化学産業で製造されている。
石油化学産業は、食器洗剤や肥料など様々な分野の最終製品で利用する化学材料を製造する重要な産業だが、原材料には石油・天然ガス・石炭などが使われており、その製造過程における二酸化炭素排出や水質汚染が問題となることもしばしば。
Solugenは、二酸化炭素やコーンシロップを活用し、石油化学産業で製造されている化学材料の90%を製造できると見込んでいる。また、同社の製造過程は、温室効果ガスや汚染物質の排出がないだけでなく、二酸化炭素を原材料として利用することでカーボンネガティブも実現できるという。
これらの事例は、カーボンテックを取り巻く状況が大きく変化しつつあることを示すもの。2022年以降、上記で紹介したほかにどのようなカーボンテック企業が登場するのか、今後の動きが楽しみだ。
文:細谷元(Livit)