「年間1000時間」「生涯3280日」スマホ利用で失う時間、「制限」付きアプリでスマホ利用は変わる?

スマホチェックがもたらす生産性ダウン

日々の仕事や生活で欠かせないアイテムとなったスマートフォンだが、ソーシャルメディアを中心に多くのスマホアプリが利用者の時間消費を最大化させるデザインとなっており、様々な弊害を生み出している。

スマホ利用管理アプリRescueTimeが1万1000人を対象に実施した調査で、スマホ利用に関して以下のようなデータがあぶり出されている。

まず1日あたりの平均スマホ利用時間は、3時間15分であることが分かった。その中にはヘビーユーザーも含まれており、全体の20%が4時間30分以上利用しているという。

1日にスマホをチェックする回数は、平均で58回。このうち勤務時間のチェックは30回に上った。利用時間は58回のうち、2分以内が70%、2〜10分が25%、10分以上が5%という結果となった。

勤務時間内のスマホチェックに費やされる長さは平均1分15秒。これが30回繰り返されるので、勤務時間内のスマホ利用は1日あたり37分30秒となる。

一見、少ないようにみえるが、RescueTimeの分析によると、スマホを1回確認すると、そこから3分以内に再度確認する割合が50%に上ることが判明し、スマホ確認の「連鎖反応」が起こっていることが確認された。それらの連鎖反応により、勤務時間における生産性は大きく損なわれている可能性がある。

スマホ確認の連鎖反応とは、たとえば朝の9時に一度スマホを確認すると、数分後に数回確認してしまう傾向のこと。その間、仕事への集中力は削がれ生産性は大きく損なわれていることが想定できる。勤務時間におけるスマホ利用の平均時間は1分15秒だが、午前9時にスマホを確認し、15分後にまたスマホを確認する場合、この15分間は低集中力・低生産性の時間帯となるのだ。

スマホ確認の「連鎖反応」のイメージ(RescueTimeウェブサイトより)

主に、友人・家族・営業先などからのメッセージに返信し、さらにそのメッセージに対する返信を待つという状況を想像すると分かりやすいだろう。

スマホ確認によって一度削がれた集中力を即時取り戻すのは非常に難しい。

RescueTimeは、過去の研究に言及し、マルチタスクによって生み出された短期的なメンタルブロックによって、生産性が40%損なわれる可能性を指摘している。勤務時間が8時間であるとすると、高い生産性を発揮できる時間は、4時間48分しかないことになる。

また、冒頭で触れた勤務時間を含めた1日全体のスマホ利用時間は平均3時間以上であり、これは1年で計算すると1000時間以上となる。日数換算では年間41日。80歳まで生きると考えた場合の生涯換算は、3280日という膨大な時間だ。

上記RescueTimeの調査が発表されたのは2019年3月。コロナ禍で、世界的にデジタルデバイス利用が増え、スマホの利用時間も増えていることが様々な調査で判明している。

一生に100回しか投稿できないソーシャルメディア、フェイスブックAI撹乱するアプリ

ついついスマホに手が伸びてしまうのは、スマホアプリの多くがそのようにデザインされているからだ。

特に、ソーシャルメディアのお知らせ機能、制限のないフィードなどが、利用者のスクリーンタイムを増やす要因となっている。

こうした状況にアンチテーゼを唱え、既存のソーシャルメディアとは異なるアプローチでスマホアプリを開発するプレーヤーは少なくない。

イリノイ大学の教授でありアーティストでもあるベン・グロッサー氏がローンチした「Minus」は、生涯で100投稿しかできないソーシャルメディアだ。

グロッサー教授は、フェイスブックなどのソーシャルメディアが与える文化的影響に関する研究を行う傍ら、ソーシャルメディアが与える影響を最小化するアプリをいくつも開発してきた。

Minusは、一連のアプリ開発活動の最新プロジェクトになる。Minusプロジェクトは、ビジネス的な成功を狙うものではなく、啓蒙的な性格を持つもの

Minusのほかには、フェイスブックの「いいね」ボタンを消すブラウザ拡張アプリ「Demetricator」や、フェイスブックの感情分析AIを撹乱する顔文字ランダマイザー「GoRando」などを開発してきた。

フェイスブックを模したというMinusだが、いいねボタン、タイムスタンプ、フォロワー数などは備わっておらず、利用者は他の人がどのような反応するのかということを考えずに投稿が可能という。

週一しか利用できないデートアプリが人気、「制限」が付加価値となる時代

Minusは利益を求めるソーシャルメディアではないが、Minusのような「制限」によって価値を高め利益の最大化を狙う営利プレーヤーが増えてくるかもしれない。

新興マッチングアプリ「Thursday」はそんなプレーヤーの1つだろう。

英ロンドン発のThursday、その名が示唆するように木曜のみ利用可能なマッチングアプリだ。マッチングアプリは世の中に多数存在するが、ソーシャルメディアと同様に過剰利用が問題となっている。その問題へのソリューションとして、アプリ利用は木曜のみに制限し、時間を有効活用すべきとの提案を行っている。

同サービスは2021年5月に、ロンドンとニューヨークでローンチ。このときのダウンロード数は5万2000件だったといわれている。その後すぐに、250万ポンド(約3億9000万円)を調達。英フィンテック大手Monzoの創業者など著名なビジネスパーソンがエンジェル投資家に名を連ねていることでも話題となっている。

このThursday、もともとは「Honeypot」という名称で一般的なマッチングアプリと同様のサービスを提供していた。しかし、木曜日にアプリ利用が増加する傾向から、現在の形に移行、制限という独自性が注目されニューヨーク・タイムズ紙やテレグラフ紙など大手メディアで取り上げられるに至っている。

テレグラフ2022年1月7日の記事によると、2021年11〜12月にかけてユーザー数が80%増加、12月の月間ユーザー数は8万人に達したという。

さて、2022年2月2日には、フェイスブックのユーザー数が初めて減少したというニュースが報じられたところ。ソーシャルメディアやスマホ利用は、今後どう変化するのか、その行方が気になるところだ。

文:細谷元(Livit

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