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スーパーボウル広告の効果
米国のプロフットボールリーグ「NFL」、そのチャンピオンシップで放送されるテレビ広告は「スーパーボウル広告」と呼ばれ、特別視されている。
米国ではNFLチャンピオンシップの視聴率が非常に高く、そこで一際目立つ広告を配信できれば、消費者の関心を集め、ブランド認知向上や売上の大幅な増加が見込めるからだ。
ニューヨーク・タイムズによると、2021年シーズン・チャンピオンシップ(2022年2月開催)の視聴者数は、1億1230万人と過去5年で最も高い数字だったという。
この多大な影響力を持つスーパーボウル広告、毎年米メディアや調査会社がこぞってコマーシャルの傾向やトレンドを分析し発表している。
今年観察された傾向の1つが、自動車メーカー各社による広告がEVに焦点を当てたものになっているということだ。
米CNBCが伝えた自動車検索大手Cars.comの分析によると、今回のスーパーボウルでは、自動車メーカー7社の広告が配信されたが、このうち6社の広告がEVブランディングを推進するものだったという。
スーパーボウル広告でEVブランディングを推進したのは、トヨタ、日産の日本勢に加え、米GM、独BMW、スウェーデンスタートアップのPolestar、韓国KIAの6社。
Cars.comは、スーパーボウル期間中に同ウェブサイトに掲載されている自動車メーカーやモデルのサイトトラフィック数変化を調べ、スーパーボウル広告の効果を測定した。
それによると、スーパーボウル広告が配信された後、同ウェブサイトにあるEVモデルのページトラフィックは通常より80%増加したという。
自動車メーカー別で最も関心を集めたのは、スウェーデンのPolestarだ。特に、同社のEVモデル「Polestar2」のページへのアクセスが急増。スーパーボウル広告の配信前と比べると、Cars.comのPolestar関連ページへのアクセス数は580倍増加したとのこと。
Cars.comに掲載されている各自動車企業のページも平均217%のアクセス増になった。
Polestarに続き、ブランドページへのアクセス増加率が高かったのは、921%のKIAだった。次いで、BMWが782%増、トヨタが341%増、日産が120%、GM(Chevy)が58%増加した。
ダイナミックな変化が予想される伸びしろ大きなEV市場
EVは、イーロン・マスク氏率いる米テスラが先行する市場。マスク氏やテスラ社に関するメディア報道も多く、海外市場では日本車が割って入る余地はないのではないかとの印象を持ってしまうところ。
しかし数字を見ると、後塵を拝するEV市場においても、日本車が追いつく余地は十分に残されていることが分かる。
Canalysの調査データを参考に、世界の自動車市場の現状を俯瞰してみたい。
まず、2021年世界中で販売されたEV台数は650万台で、前年比では109%の増加だった。この調査におけるEVの定義には、100%バッテリー駆動の電気自動車とハイブリッド車が含まれている。ガソリン車を含む全乗用車販売に占めるEVの割合は、約9%だった。
2021年EVが最も売れたのは中国で、販売台数は350万台だった。同国新車販売に占めるEVの割合は15%だった。次いで販売台数が多かったのが欧州で、約230万台のEVが販売された。新車販売に占める割合は19%だった。
特筆すべきは米国の状況だ。2021年EVの販売台数は53万5000台、新車販売に占める割合は4%にとどまるものだったのだ。
上記Cars.comのデータでも示されたように、スーパーボウル広告の効果で、米国ではEVへの関心が高まっている状況。そこに、低価格で高品質なEVを投入できれば、一気に市場を占有することも不可能ではない。
もう1つのデータでは、米自動車市場において日本車は好ましいポジションにあり、ガソリン車からの買い替えタイミングを狙えば、テスラ以上に販売できる可能性が見えてくる。
そのデータとは、GoodcarBadcar.netが集計する米国における乗用車販売の統計だ。大手メディアでも頻繁に引用されており、広く知られるデータサイトとなっている。
世界最大の自動車市場・米国における日本勢の現状
GoodcarBadcar.netが集計した米国自動車市場の販売データによると、2021年の累計販売台数は1495万台。月単位で最も販売台数が多かったのは2021年3月で、153万台が販売された。
この3月に最も販売台数が多かったのがトヨタで、販売台数は20万8801に上る。2位はフォードで20万3265台、3位はシボレーで15万3706台と米国勢がランクインしたが、4位にホンダ(13万707台)、5位に日産(9万5935台)が迫る形となった。同月テスラの販売台数は、2万3760台だった。
トヨタの販売台数は、1月、3月、4月、5月、6月、7月、8月と1年の半分以上でトップを維持しており、米国において最も売れている自動車となっているのだ。ホンダや日産も健闘しており、米国市場における日本車の存在は、フォードやGMなど国内ブランドにとって脅威的な存在となっている。
現在、米国ではEVの修理メカニックが少なく、保険料が高くなる問題などが報道されている。こうしたアフターケアを含めた包括的なサービスを用意できれば、買い替えタイミングを狙ったセールスもしやすくなるはずだ。
日本勢が後塵を拝するといわれるEV市場だが、巻き返す余地は十分にある状況といえるだろう。テスラが市場をリードしているが、日本勢の巻き返しや新たに注目を集めるPolestarの躍進など、EV市場の勢力図は今後大きく変わってくるのではないだろうか。
文:細谷元(Livit)