人口たった130万人のエストニアで早くも6社目のユニコーンが誕生。スタートアップシーン最新動向

行政サービスや投票をほぼ完全にデジタル化し、電子国家として知られるエストニア。

人口約130万人と、日本の100分の1ほどのエストニアは、国をあげてのスタートアップ支援にも力を入れており、このほど6社目(エストニアで設立されたスタートアップのみで計算。エストニア人が国外で起業した企業も含めると9社目)のユニコーン企業が誕生した。

シリーズCラウンドで1億ドル(約115億円)を調達、評価額15億ドル(約1703億円)に達したVeriffが開発するのは、動画によるデジタル本人確認サービス。すでに190カ国以上にサービスを提供し、急成長している。

さいたま市と川崎市の中間ほどの人口規模でありながら、デカコーン「Wise」をはじめとしたグローバル企業を複数輩出するエストニア。そんな同国の、2022年のスタートアップシーンの最新動向をお伝えする。

人口比ユニコーン数で欧州をリードするエストニア

首都タリンは世界遺産の城壁都市と高層ビルが隣り合う(Brand Estonia より)

1991年のソ連からの独立回復後、急速に国を再建し、中世の街並みを残す城壁都市と近代的なビルが隣り合う先進国へと変貌を遂げたエストニア。この国で生まれたユニコーンは、Skypeや格安海外送金のWiseなど、日本人にとっても身近な存在だ。

この2社に加え、オンラインゲームのPlaytechや顧客管理サービスのPipedrive、モビリティ企業Boltがこれまで同国発のユニコーンとなり、エストニアは、人口比のスタートアップ数、ユニコーン数で欧州をリードする存在になっている。

エストニアの農家から発想、6社目のユニコーン「Veriff」

デジタル本人確認サービスを提供するVeriff(公式YouTubeチャンネルより)

ユニコーン6社目となったVeriffだが、この企業のストーリーはエストニアの農家から始まった。

創業者のカーレル・コトカス氏が14歳のとき、実家の農家で使う干し草用の紐を大手Eコマースサイトで購入した際、グローバル企業のサービスにもかかわらず、あまりに不正が容易な本人確認プロセスに驚いたという。

その後、2015年、20歳で彼が創業したのが、対面認証よりも精度の高いオンライン本人確認を実現するVeriffだ。

近年、遠隔採用、メタバース・ゲーム、オンライン完結型のビジネスなどの普及に伴い、信頼できるオンライン本人確認サービスの必要性は高まるばかり。そうした中、「地球上のすべての人を潜在的なVeriffのユーザーとして見ている」とコトカス氏は語っている。

タリンのコワーキングスペース「Lift99」の壁に掲げられたエストニア発ユニコーンたち(Facebookより)

パンデミックで多くのサービスがデジタル中心にシフトしたこの2年間で、Veriffも大きく飛躍し、現在では190カ国以上にサービス展開するグローバルなユニコーンへと変貌した。

2021年には、Veriffでは世界中で検証量が前年比8倍以上、米国に絞れば20倍と増加したが、AIを活用した検証プロセスの自動化により、この急激な作業量の増加に迅速に対応した。

今回調達した資金は、主に研究開発投資と、現在360名46カ国の国籍からなる体制を営業・マーケティングチーム中心に増強し、国際展開のさらなる加速に充てられるそうだ。

相互提携し、強化し合うエストニアのスタートアップ

エストニア発自律型配達ロボット「Starship Technologies」は子どもたちの人気者(Brand Estoniaより)

エストニアは小国であり、行政や教育機関とスタートアップとの距離が良い意味で近いが、これはスタートアップ同士にもあてはまる。

Veriffはこのたび、同じくエストニア発ロンドン拠点のStarship Technologiesとの提携を発表。自律型配送ロボットを開発する同社は、本人認証システムを搭載することで、アルコールなど年齢制限のある品物の完全自律型配送サービスを提供する世界初の企業となる。

丸いフォルムが印象的なStarship Technologiesのロボットは、エストニアで自律型デリバリーロボットとしてスタートし、その後、イギリスで2018年に、月額約10ドルのグローサリーデリバリーサービスを開始。こちらもパンデミック禍で急成長を遂げ、2020年にはロボットの台数を倍増させた。

エストニアスタートアップシーンでも「AI」がキーワードに

車両検証のプロセスを迅速にする「DriveX」(公式YouTubeより)

Veriffによる迅速かつ信頼性の高いデジタル本人確認を支えている技術がAI。そんなAIは2022年、エストニア・スタートアップシーンのキーワードの一つとされている。

こちらもエストニア発で、このところ急成長している車両検証ソフトウェア企業DriveXは、自動車保険を提供する企業に対し、「AI-Powered」と銘打ったデジタル完結型の車両検証サービスを提供。

自動車のオーナーが凹みや傷、ガラスのひび割れの画像を撮影し、送信するだけで、AIが数秒で解析、写真の修正ポイントがフィードバックされ、必要な写真のみが保険会社へと届けられる。

同社は、煩雑な保険請求におけるコスト削減と不正リスクの低減の両立をさせることで、エストニアの保険会社の大半を顧客として獲得。今後、グローバル展開を予定している。

パンデミックや気候変動に対応するスタートアップにも注目

パンデミックや気候変動といった、全世界に影響を与えている社会問題に対応するエストニアのスタートアップにも注目が集まっている。

パンデミックでデジタル完結型サービスへの需要が急増しているのに応え、前述のDriveX以外にも、生徒と家庭教師をオンラインで結ぶ教育テックのMentornautや、企業のデジタル人材採用活動をサポートするRecruitLabがサービスを拡大中。

その他、偏頭痛患者に遠隔医療を提供するMigreventionも、神経科医や心理学者を含むチームが今年臨床試験を開始している。

BOLTの新サービス、カーシェアアプリBOLT DRIVE(公式サイトより)

気候変動に関しては、欧州とアフリカを中心に300以上の都市に展開するモビリティ企業Boltが、これまでの配車、電動キックボード事業に加えて、車の所有の代替手段となるアプリ完結型のカーシェアリングサービス「BOLT DRIVE」を開始。スマホ一つで、簡単に自分の近くに停車している車を利用できる利便性が高く評価されている。

さて、今年の夏には、大規模スタートアップイベント「eスタートアップデー」も予定されているエストニア。同国のスタートアップシーンに引き続き注目だ。

国をあげてスタートアップ支援に取り組むエストニア(Brand Estoniaより)

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit

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