大幅に遅れるロシアの計画
混迷を深めるウクライナ情勢。ロシア側は当初、首都キーウを含め主要5都市を数日以内に制圧する計画だったといわれている。
英The Timesが英・ウクライナ軍情報筋の話として伝えたところでは、ロシアは48時間以内に主要都市を制圧、ウクライナのゼレンスキー大統領を降伏させ、キーウにあるペチェールシク大修道院で降伏宣言に署名させる計画であったという。
しかし3月7日時点、キーウは依然ウクライナ軍が死守、他の主要都市についてもロシア側の進軍は遅れているとの見方が有力となっている。
欧米メディアは、プーチン大統領が様々な側面で状況把握を見誤ったと指摘。ロシア軍の統制の弱さ、ウクライナ側の情報戦での優位性、ロシア兵の士気の低さ、ウクライナ軍による強い抵抗、また侵略が長期化したことによる国際社会の反ロシア感情の高まりとウクライナに対する武器支援の増加など、これらは当初想定されていなかったと思われる。
ウクライナがトルコから購入したドローン兵器
ウクライナが近年開発・配備に注力してきたある兵器がロシア軍の想定を上回る脅威となっていることも指摘されている。
それが、トルコのBaykar社が開発する固定翼ドローン(無人機)「Bayraktar TB2」だ。
防衛メディアDefense News2022年3月2日の記事によると、ロシア侵攻が開始されて以来、TB2は戦車を含めたロシア軍の車両32台を撃破したという。
中東メディアAL-Monitorが2022年1月27日に報じたところでは、ウクライナはロシア侵攻リスクが高まる状況下、TB2を約20機配備しており、今後さらに増やす計画だった。
米軍事シンクタンクCNAのロシアドローン兵器専門家サミュエル・ベンデット氏は、Defense Newsの取材で、今回ウクライナのドローンミッションが成功している事例は、数こそ少ないが、ロシア軍の対空戦略がうまくいっていないことを示すものだと指摘する。
ベンデット氏は、ロシア軍は2020年に起きたアゼルバイジャンとアルメニア間の軍事衝突でドローンが重要な役割を果たしたことに目をつけ研究し、対応策を対空戦略に組み込んでいたはずだが、現状をみるとそうではないと語っている。
2020年9月に起こったアゼルバイジャンとアルメニア間の軍事衝突では、アゼルバイジャン側がトルコ製の「Bayraktar TB2」やイスラエル製の自爆ドローンを導入、アルメニアが配備したロシア製の地対空ミサイルや戦車を見つけ出し誘導弾で破壊、長らく占領されていたナゴルノ・カラバフの奪還に成功した。
この状況を見て、ロシアの軍事評論家パーベル・フェルゲンガウエル氏は「ドローン戦争の時代が到来した」と指摘していた。
ロシア軍のドローンに対する対空防衛システムが機能しなかったのは、同軍の多層対空防衛能力や対ドローン能力を有する車両を含む大隊戦術グループ(BTG=ロシア軍の戦術単位)が計画通り進軍できなかったことにあると、ベンデット氏は指摘する。
様々なメディアで報じられているように、ロシア兵の士気の低さや兵站管理ミスなどで、対空車両を含む多くのロシア軍車両が乗り捨てられる事例が多数報告されている。このことから、ロシア側は対ドローン防衛体制を構築できず、ウクライナのドローン攻撃にさらされることになったという。
Defense News3月4日の報道によると、ウクライナは週初めにトルコから新たなBT2の供給を受け、すでに実戦配備できる状態にあるという。
ドローン戦争とドローン防衛
ドローンが大きな効果を示したアゼルバイジャンとアルメニアの軍事衝突は「ドローン戦争時代の到来」を告げるものであったといわれているが、今回のウクライナ情勢によって、各国のドローン兵器開発や対ドローン防衛投資はさらに加速するものと思われる。
実際、オランダは2022年2月末頃、長らく試験導入していたイスラエル製のドローン迎撃システムSmash ADの購入を決定した。
また、米軍も2月末にドローンスワーム開発でBlueHalo社と1400万ドル(約16億円)の契約を締結。さらに2022年予算のうち5000万ドル(約57億円)を投じ、ドローンを無効化する高出力マイクロウェーブシステムの開発にも動き出している。
ドローンスワーム攻撃の脅威が現実となっている今、日本も対ドローン防衛に向けた開発・投資が求められる。
文:細谷元(Livit)