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パンデミックでビジネス環境が激変した企業
コロナ禍では、リモートワークシフトに伴い多くの企業がデジタル化を加速するなど、本来数年かけて起こる変化が数カ月で起こるという現象が散見された。この状況下、劇的にビジネス環境が変わった企業は少なくない。
米フィットネス企業Pelotonはそんな企業の1つだ。
ネットにつながったエアロバイクやランニングマシンを提供する同社、コロナ禍のステイホームトレンドによりユーザーが急増し、これに伴い株価が急騰。2019年9月の上場時29ドルだった株価は、2020年10月16日に131ドル、同年12月24日には162ドルと約1年で8倍近くに達した。
しかし、パンデミックの収束が見え始めた現在、同社を取り巻く状況は大きく異なる。ユーザーの増加率が伸び悩んでいるほか、インフレによるコスト増などに直面し、株価が一時上場時の29ドルを下回るなど、苦境に立たされているのだ。ピーク時の時価総額は500億ドル(約5兆7413円)だったが、現在はその5分の1ほどで推移している。
こうした中、GAFAMを含め複数の大手企業の間でPelotonを買収する計画が持ち上がっており、米メディアでは関連するニュースが連日報じられている状況だ。
ウォール・ストリート・ジャーナル2022年2月4日の記事によると、GAFAMの一角アマゾンがPelotonにアプローチを開始。また、フィナンシャル・タイムズが翌日2月5日に報じたところでは、ナイキが買収に向け動き始めているという。さらに、フィナンシャル・タイムズの同記事では、アップルによるPeloton買収の可能性もあるとしている。
CEO解任を叫ぶ物言う株主
このような買収報道が増えた背景には、Pelotonの物言う株主であるBlackwells Capitalによる買収促進の動きがある。
Peloton株の保有率5%以下といわれるBlackwells Capitalだが、Pelotonの最高経営責任者ジョン・フォーリー氏の解任を求めるなど、厳しい責任追及の動きを見せているのだ。
米CNBCは2022年1月23日の記事で、Blackwells Capitalの主張を詳細に伝えている。
Blackwells Capitalは、まずフォーリーCEOが同社の資本ニーズに関連して、投資家をミスリードしたと指摘。また、ランニングマシン事故に関して、米当局の調査に対し非協力的であったこと、妻を重要ポストに就任させたこと、消費者需要の予測や解約率・返品率を何度も間違えたことなどを同CEOの責任として列挙。さらには、このような情報がメディアで広く報道され、社員の士気が大きく下がっていることも問題であると指摘している。
他の株主からのプレッシャーも高まり、また新規ユーザーの獲得が難しい状況下で、Pelotonはコスト削減によってこの難局を切り抜けようとしている。
2022年1月18日の報道では、Pelotonはコンサルティング企業であるマッキンゼーに自社のコスト構造分析を依頼したことが判明。これにより、人員削減が敢行されるのではとの憶測が流れている。
2021年11月には、すでに新規雇用を一旦凍結していることが報じられたところ。
ステイホームにより短期間で急速にユーザーを増やした同社。それに伴い、社員数も急速に拡大した。米国だけで2021年6月時点の社員数は6743人と前年の3281人から2倍以上拡大した格好だ。米国以外にも英国、カナダ、ドイツでも事業展開しており、これらを含めると数字はさらに大きくなる。
まず人員削減の対象となるとみられるのは、ショールームの人員だ。2021年6月時点の情報によると、米国、英国、カナダ、ドイツの4カ国で計123のショールームが運営されている。このうち、15のショールームが削減対象と報じられている。また、入店客が少なくなる昼の時間帯、ショールームの社員にカスタマーサービスの電話対応をさせることを検討しているとの報道もある。
アマゾンによる買収の可能性
様々な企業による買収の可能性が伝えられるPelotonだが、米メディアにおいてもGAFAMの動向には特段に高い関心が寄せられている。
冒頭でも触れたが、GAFAMの中でPeloton買収の可能性があるとされるのがアマゾンとアップルだ。
とくに「コネクテッドヘルス」分野に多大な投資を行っているアマゾンにとって、時価総額が100億ドルを下回るPelotonは、「買い」なのではないかと見る向きがある。
アマゾンは昨年「Halo Band」というウェアラブルバンドの販売を開始。またHaloのサブスク利用者向けのインタラクティブワークアウト動画の配信や食事プランニングの提供を開始したばかりだ。
また、Pelotonはサプライチェーンに問題を抱えており、この点もアマゾンが買収することで解決できる可能性があると指摘されている。
過去のアマゾンによる買収で、最大額となったのは2017年のホールフーズの買収で、買収額は137億ドル(約1兆5731円)だった。これに、2021年5月の老舗映画スタジオ「MGMスタジオ」の買収が84億5000万ドル(約9700億円)で続く。
2022年2月21日時点のPelotonの時価総額は、98億2500万ドル(約1兆1281億円)。
Pelotonデバイスを保有する有料サブスク利用者数は現在250万人おり、このサブスク利用者を考慮すると、現在の株価はかなり過小評価されていると分析するアナリストもいる。
Pelotonが自力で経営を立て直すことができるのか、またはGAFAMなどの大企業が買収に動くのか、この先の展開が気になるところだ。
文:細谷元(Livit)