2021年の暗号通貨被害総額、前年比79%増

日本でも関心が高まっている暗号通貨投資。海外でも投資やトランザクション規模が急速に拡大している。

Chainalysisの分析によると、2021年暗号通貨の取り引き額は15兆8000億ドル(約1797兆円)と前年に比べ567%も増加したという。

取り引き額の増加に伴い、スキャムやハッキングによる被害額も増加しており、各国では投資家に対し注意を呼びかける取り組みが活発化している。

2021年の被害総額は、140億ドル(約1兆5930億円)と2020年の78億8000万ドル(約8964億円)から79%の増加となった

米国投資家保護団体「北米証券監督者協会(NASAA)」も2022年1月10日に公開したレポートの中で、現在暗号通貨投資やデジタルアセットへの投資が投資家にとって最大の脅威であると指摘している

暗号通貨投資での被害を避けるには、どのような対策を講じるべきなのか。海外の事例・最新レポートからそのヒントを探ってみたい。

最近増えるスキャム手口「rug pulls」とは

暗号通貨投資でどのような点に注意すべきなのか。

上記Chainalysisの分析で明らかになっているのは、2021年の暗号通貨被害の中で最大の割合を占めたのが「Scam(スキャム)」という事実。

暗号通貨被害総額140億ドルのうち、78億ドル(約8875億円)がスキャム被害によるものという。被害額は2020年比で82%増加している。

様々なスキャムが横行しているが、その手口は年々巧妙になってきている。特に最近注意喚起されているのが「rug pulls」というスキャムだ。

これは、一見よくある暗号通貨プロジェクトを装って、十分な資金が集まった段階で逃げるというもの。暗号通貨プロジェクト自体はしっかり作り込まれたもので、ウォレットも準備されている。

Chainalysisは、2021年最大のrug pulls事案として「Thodex事件」のケースを挙げている。

Thodexとは、トルコの暗号通貨取引所。2021年4月の報道によると、Thodexはドージコインのプロモーションキャンペーン直後、取り引きができなくなり、取引所は閉鎖。同取引所のファルク・ファティ・オゼルCEOが投資家から集めた20億ドル(約2275億円)を持って海外に逃亡したといわれている。同取引所では、39万人以上の投資家が取り引きを行っていた

Thodexのイメージ図

このほか、DeFiプロジェクトを装ったrug pullsも数多いと指摘されている。DeFi自体が非常に盛り上がっており、それに便乗したスキャムが横行しているという。

DeFi(decentralized finance)とは、ブロックチェーン上に構築された金融アプリケーションのこと。暗号通貨による価値の移動だけでなく、複雑な金融機能を提供することを目的に開発されたものだ。

DeFiにrug pullsが多い理由の1つとして、適切なスキルを持つ人間であれば比較的簡単にDeFiトークン/プロジェクトを開発し、取引所に上場できる点が挙げられている。

このことは、スキャムに次いで被害額が大きかった「盗難」を助長する要因にもなっており、注意すべきポイントとなっている。

DeFiには、第三者による「コード監査」なしで上場されたものも多く、その脆弱性によって投資資金が流出してしまうケースも少なくないというのだ。Chainalysisはレポートの中で、投資家がコード監査の有無を確認していれば、資金の流出を防げた可能性があると指摘している。

2021年の「盗難」による被害額は、32億ドル(約3641億円)と前年比で516%増加している。このうち23億ドル分がDeFiプロトコルの脆弱性によるものだ。

DeFi投資の前に注意すべきリスク

中央集権的な取り引きではなく、ユーザー同士が暗号通貨を直接取り引きできる分散型取引所(DEX)や仲介業者を排除したレンディングプラットフォームなど、DeFiが持つポテンシャルは非常に大きなものだが、同時にテロや反社会的勢力が資金源としてターゲットにしており、2022年以降もDeFiを名乗ったスキャムや盗難が増えるリスクがある。

Chainalysisの分析でも、違法組織がマネーロンダリングに使用する手段において、DeFiの利用が顕著に増加していることが判明している。2021年の違法組織によるマネーロンダリング手段で、前年比で最も伸びたのがDeFiだった。その増加率は1964%だ。

デジタル資産投資を専門とするCoinShareの最高戦略責任者メルテム・デミローズ氏は、CNBCの取材でDeFi投資に関して、3つリスクを念頭に置くべきだと注意を促している

3つのリスクとは「技術的なリスク」「資産リスク」「プロダクトリスク」だ。

技術的なリスクとは、上記でも触れたDeFiプロトコルの脆弱性に関するもの。第三者によるコード監査が実施されていないプロジェクトへの投資は、損失リスクを高めてしまうことになる。

資産リスクとは、担保とする暗号通貨の価値が急速に下がってしまうリスク。DeFiのレンディングサービスでは、借りる額以上の価値を他の暗号通貨資産などで担保することが求められるが、ボラティリティの高い暗号通貨市場では担保とする価値を保てない場合が少なくない。

プロダクトリスクとは、DeFiでよくある高利回りの商品にまつわるリスクのこと。デミローズ氏は、DeFiプロダクトは既存の銀行によるプロダクトとは異なり、規制や保険の対象とはならず、大きな損失を被るリスクが内在していると指摘している。

2022年1月24日現在、TradingViewによるDeFiの時価総額は、1090億ドル(約12兆3757億円)。2021年11月の1820億ドル(約20兆円)から大きく下落している。2022年、DeFiや暗号通貨市場はどのような展開となるのか、その動きに注目していきたい。

文:細谷元(Livit