グーグル創業者が資金を投じる次世代モビリティ

空飛ぶ自動車やドローンなど、国内外で次世代航空モビリティの開発が加速している。米国ではこのほど、グーグルの共同創業者ラリー・ペイジ氏が支援する企業と合弁で次世代航空モビリティを開発するスタートアップWisk Aeroが、ボーイング社から4億5000万ドル(約517億円)の大型調達を実施したとして話題となっている。

Wisk Aeroは、2019年にペイジ氏が支援するエアタクシー企業Kitty Hawkと米ボーイング社の合弁事業として立ち上がったスタートアップだ。シリコンバレーとニュージーランドに拠点を構える同社。現在の社員数は350名ほどだが、今回調達した資金により新たな人材を雇用し、開発・製造プロセスを加速、5年以内の商業化を目指す。世界20市場に展開し、年間1400万回のフライト実施を目標としている。

Wisk Aeroが開発しているのは、電動垂直離着陸機(eVTOL)に分類される乗り物。文字通り、ヘリコプターのようなフライトが可能な電気駆動の乗り物で、都市内の短期距離移動向けに開発されている。eVTOL自体は珍しいものではなく、すでにJoby、Archer Aviation、Liliumなど複数のスタートアップが参入し、開発競争は激化の様相だ。

Wisk Aeroは、パイロットなしのエアタクシー開発で差別化を図っている。このほか現時点で明らかにされているWisk Aeroの最新モデルのスペックは以下のようになっている。

まず、全長は21フィート(約6.4メートル)、全幅は36フィート(約10メートル)。飛行高度は1500〜5000フィート(約457〜1524メートル)で、約40キロメートルの移動が想定されている。飛行速度は時速160キロほど。

Wisk Aeroが注目する市場としては、米国に加えアジア太平洋も含まれる。拠点を構えているという事実から、ニュージーランドやオーストラリアが戦略的に重要な位置づけであることが見てとれる。

そのニュージーランド拠点ではこのほど、ニュージーランド空軍のグループキャプテンを務めていたキャサリン・マクゴワン氏が、同社アジア太平洋部門の責任者に就任。ニュージーランド政府内でもシニアの役職に就いていたというマクゴワン氏、政府とのパイプ役となり、政府の法規制議論促進に寄与することが予想される。

eVTOLの開発では、競合含めすでに実物大モデルの試験飛行が何度も実施されており、技術的な課題は着実にクリアしているように思われる。

一方、エアタクシーの商業化には、技術的課題のほかに、法規制の課題をクリアする必要がある。この点について、専門家の間では、米国では少なくとも5年は要するだろうとの見方が優勢だ。各スタートアップは当局が定める厳しい安全基準を満たす必要がある。

ニュージーランドでは、もしかすると米国より早くWisk Aeroの商業化が実現する可能性がある。同社は2020年2月、乗客を乗せた試験飛行を実施する覚書をニュージーランド政府と締結しているのだ。この覚書には、ニュージーランド航空当局による承認を獲得次第、同国南東の都市クライストチャーチで試験飛行を実施する旨が盛り込まれている。

エアタクシー市場の規模

エアタクシー市場はどれほどの規模で、どのように広がっていくのか。

Pitchbookのアナリスト予想によると、エアタクシーの商業利用が開始されると見込まれる2025年の市場規模は、収益ベースで15億ドル(約1726億円)と小さなものだが、その後10年間で急激に拡大し、2035年には1500億ドル(約17兆円)に達するという。

市場の立ち上がり期は、利用料が高いため、エアタクシーは比較的収入水準が高い都市で展開され、スケールするに伴い利用料が下がり、それ以外の都市に導入されるシナリオだ。

同アナリストによると、現時点におけるエアタクシーの移動コストは、1マイル(約1.6キロ)あたり9ドルほどとヘリコプターと同じ水準にあるが、スケールにするにつれ、5ドル以下に下がる見込みという。

資金力・サプライチェーンに強み、競合他社の動向

「エアタクシー」に関する他の直近ニュースとしては、Wisk Aeroの競合となるArcher Aviationが初めて飛行テストに成功したというものがある。

2021年12月、Archer Aviationは米航空当局FAAから試験飛行の許可証を取得したことを受け、同社初となる試験飛行を実施。これを皮切りに、試験飛行を増やし安全性を高めるだけでなく、商業利用を想定した新しいモデルの開発を進めるという。同社は、2024年にエアタクシーサービスを開始する計画だ。

Archer Aviationはすでに、SPAC企業Atlas Crest Investmentと合併しており上場企業の位置付け。自動車メーカーの低コストサプライチェーンへのアクセスも獲得しており、ペイジ氏やボーイングの支援を受けるWisk Aeroにとって強力な競合になるはず。JobyやLiliumなど他の競合の動向を含め、エアタクシー市場の展開から目が離せない。

文:細谷元(Livit