北欧全体で盛り上がるベンチャー投資
世界屈指の起業国家として注目を集めるスウェーデン、一方その周辺国にもスタートアップ熱が拡散しており、ベンチャー投資は拡大の様相だ。
北欧とは一般的に、文化・歴史的共通点でくくられた地域を指す。ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、アイスランド、バルト三国などが北欧地域に含まれる。
Siftedによると、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、アイスランドにおける2021年のベンチャー投資額は、112億ユーロ(約1兆4685億円)と、2020年の50億ユーロ(約6556億円)から2倍以上増加した。
北欧で最もベンチャー投資が盛り上がっているのは人口1000万人のスウェーデンだ。
Atomicoの分析によると、2017〜2021年の欧州人口1人あたりの累計ベンチャー投資額で、スウェーデンが1567ドルと欧州の中で最も高い額だったのだ。欧州平均は269ドル。スウェーデンを含めトップ10には、エストニア(1252ドル)、英国(1076ドル)、ルクセンブルク(978ドル)、アイルランド(878ドル)、スイス(777ドル)、フィンランド(753ドル)、アイスランド(734ドル)、デンマーク(558ドル)、オランダ(532ドル)がランクイン。
欧州主要国と呼ばれるドイツは391ドルで13位、フランスは383ドルで14位にとどまっている。
目立つのは、北欧勢の勢いだろう。1位のスウェーデンのほか、2位のエストニア、7位のフィンランド、8位のアイスランド、9位のデンマークとトップ10のうち5カ国が北欧勢が占めているのだ。
スウェーデンがイスラエルに並ぶ起業国家に変貌を遂げていることは、以前に何度かお伝えしている。今回は、スウェーデン以外の北欧諸国の動向に焦点を当ててみたい。
評価額5400億円超えのスタートアップも、デンマークの注目株
ベンチャー市場の規模でみると、北欧でスウェーデンに続くとみられるのが人口583万人のデンマークだ。
2021年同国のスタートアップの評価総額は、620億ユーロ(約8兆1294億円)となり過去最高額を記録。
デンマーク発のスタートアップの中で特に注目されているのが、2015年創業のフィンテック企業Pleoだ。
ロイター通信によると、Pleoは2021年12月、最新資金調達ラウンドで2億ドル(約230億円)を調達、これにより評価額は47億ドル(約5421億円)に達したという。7月に実施した前回ラウンドでは、1億5000万ドル(約173億円)を調達しており、このときの評価額は17億ドル(約1961億円)だった。評価額はこの半年で3倍ほどに拡大した格好だ。
Pleaのスマート支払いシステムは、主に法人を対象としたもの。デンマークだけでなく、スウェーデン、ドイツ、スペイン、アイルランド、英国で2万社以上の企業がPleaのプラットフォームを利用している。このほど調達した資金で、フィンランド、オランダ、フランス、ポルトガルに進出する計画。2023年までに、欧州20カ国への展開を目論んでいるという。
最近バズワードとなっている「メタバース」に関しても、注目されるデンマークスタートアップがいくつか存在する。
そのうちの1社がモーションキャプチャースーツを開発しているRokokoだ。
バーチャルキャラクターにリアルな動きを付けるモーションキャプチャーは、メタバースの中でも特にゲーム・音楽・エンタメ分野で重要なテクノロジー。
また、同社が開発しているスマートグローブは、バーチャル空間における細かな作業のコラボレーションで必須となるもの。メタバースの発展には欠かせない企業と言えるだろう。
ノルウェーでは、ユニコーンの3分の1が2021年に登場
デンマークだけでなく、537万人のノルウェーでも2021年のスタートアップ評価総額は、344億ユーロ(約4兆4242億円)と過去最高を記録している。
テクノロジー投資企業GP Bullhoundによると、現在ノルウェーには9社のユニコーン企業があるが、このうち3社が2021年に登場したという。
これら3社とは、オンラインプリントプラットフォームを展開するGelato、データアナリティクス企業Cognite、Eコマース企業Oda。
Gelatoは、2021年8月に2億4000万ドル(約276億円)を調達し、評価額は10億ドル(約1150億円)以上となった。同社はプリント・プロダクションプラットフォームを33カ国で展開。調達した資金で、米国やアジア市場にも展開する計画という。
一方、Cogniteがユニコーンとなったのは2021年5月の資金調達ラウンドだ。このとき同社は、1億5000万ドル(約173億円)を調達。評価額は、16億ドル(約1845億円)に拡大した。
EコマースのOdaは、2021年6月のラウンドで評価額が10億ドルを超えユニコーンになったと報じられている。
フィンランドでは、2021年10月に1億6000万ドル(約184億円)を調達し、評価額が20億ドル(約2300億円)に拡大したクラウド・オープンソース企業Aivenが注目株として台頭している。
世界のベンチャー投資は、2022年も勢いが衰えないとみられている。今年も起業国家スウェーデンを中心に、北欧から多くのユニコーンが誕生する年になるのかもしれない。
文:細谷元(Livit)