DX市場の盛り上がりを受けて、2021年11月、サイバーエージェントは企業のDX推進における企画・開発事業子会社として、サイバーエージェントDXを創業した。代表取締役に就任したのは、2012年にサイバーエージェントに新卒入社し、2015年に最年少執行役員(当時)に就任、インターネット広告の営業や販促・小売のDX事業を担当してきた宮田岳氏(33歳)だ。
「DX支援」といっても、いわゆる「業務効率化」ではなく、自社の強みである「B2Bにおける広告事業の立ち上げ」に焦点を当てるという。宮田氏に、創業の狙いと展望を聞いた。
3兆円に肥大化するDX市場に期待。子会社化の実現へ
サイバーエージェントDXは、サイバーエージェント内で新規事業や課題解決を提案・決議する「あした会議」から生まれた新規事業だ。「あした会議」は、年に1回、各執行役員が事業責任者や専門分野に長けた人材4名を選抜してチームを組み、代表取締役の藤田晋氏へのプレゼンを通じて、提案を競い合う。2006年に開始され、現在までに32社の子会社の設立が決まっている。
新会社を率いる宮田氏は、このチームメンバーに選ばれ、B2B向けの広告事業の立ち上げに特化したDXを手がける新規事業を提案し、新会社設立のチャンスを勝ち取った。2021年9月に提案が承認され、約1カ月をかけて準備、11月に設立とスピード感のある展開だ。では、なぜ宮田氏はDXに焦点を当て、その提案が受け入れられたのか。
「DXに焦点を当てた最大の要因は、DX市場のポテンシャルの大きさです。2019年度には約8,000億円だった国内のDX市場は、2030年度には3兆円を超えると予測されている(※)。現在のインターネット広告の市場は約2.4兆円ですから、かなりの規模といえるでしょう」(宮田氏)
※2020年10月富士キメラ総研発表「2020 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望」より
サイバーエージェントDXが手がけるDX支援は新規事業の扱いだが、厳密にいえば、これまでサイバーエージェント内で請け負ってきたDX支援事業を、子会社化することで強化したい意向があるようだ。
サイバーエージェントでは、2017年から小売・行政・医療・エンターテインメント業界を中心にDX支援を行ってきた歴史があるが、サイバーエージェントDXでは「小売」「金融」「モビリティ」「EC」といった業界を中心に、DX事業を広げていくことがミッションとなる。
「インターネット広告の営業を8年間にわたって担当するなかで、クライアントより『データを一元管理したい、事業をネット化したい』など、広告の領域を超えたDXにまつわる問い合わせの増加を実感していました。また、これまでは小売業界に集中していましたが、その他の業界にも小売でのDXフレームが活かせるのではという手応えがありました」(宮田氏)
DXで「広告利益」を生み出し、2025年に売上100億円へ
サイバーエージェントが手掛けてきた小売のDXとは、テクノロジーやデータを活用してデジタルとリアルが融合した新しい購買体験を実現することだ。同社では、メディアの開発/グロースから購買履歴や会員属性等のデータ基盤の整理、それらを生かしたマーケティングのデジタル化、新たな広告事業の立ち上げまで、幅広く担当するそうだ。
具体的な施策としては、サイバーエージェントの強みのひとつでもあるAI技術を利用した価格・クーポン・ポイント発行などの最適化をする、店舗内にコンテンツ配信プラットフォームとなるサイネージを設置して、広告収益の創出を目指すなどが挙げられる。
要は、自社サイトやアプリをより使いやすいものへ変えたり、店舗をメディア化したりして、顧客との接点をより増やし、広告収益の創出を目指すのが、サイバーエージェントDXが取り組む領域となる。同社では、この事業を通して「2025年に売上100億円を達成する」という数値目標を掲げている。
同社がメインターゲットとするのは、小売、金融、モビリティ、ECを中心としたナショナルクライアントだ。
「広告の価値を高め、事業をスケールさせるために、貴重なデータを一定以上持っていること、ECサイト・アプリ・店舗などコンテンツ配信可能な広告の出面があることが重要だと考えています。広告の出面には、電車、バス、自動車なども含まれます」(宮田氏)
提供するサービス内容や費用、契約形態はクライアントに応じて、柔軟に対応するという。サイバーエージェントグループのすべてのリソースを生かして、クライアントの需要に応えたいと宮田氏は言う。
「契約形態は、クライアント企業と弊社でのレベニューシェア、業務委託のほか、2社で新たな会社を設立するなど、さまざまな可能性があります。ただ、持続的な結果にコミットをするという点においては、弊社でもコストを負担しレベニューシェアをする形態が、クライアントと弊社の双方にとって理想的だと考えています」(宮田氏)
グループの強みをフル活用。グローバルに通用する企業へ
創業3カ月目のサイバーエージェントDXは、未だ公式HPとロゴを作成中、社員は8名と、生まれたてのスタートアップのような状態。クライアントとの取り組みは始まっているものの、積極的に各社に営業をかけているところだという。競合他社と比較した優位性をたずねると、サイバーエージェント内で積み重ねてきた実績とグループ内のリソースをフル活用できる点だと宮田氏は主張する。
「私自身、インターネット広告の営業として、あらゆる経験を積んできました。広告代理事業で培った広告の運用力、セールス力、クリエイティブスキル、及び幅広い自社のリソースは、競合他社より秀でた強みだと考えています」(宮田氏)
宮田氏は、かねてより「ゼロイチの領域として、新規事業の立ち上げを経験したい」という意向を持っており、新会社設立にかける意気込みも十分のようだ。
「DXの本質は、デジタルのチカラで人々の生活をより便利に、より豊かにすることだと思います。企業が持っている自社サービスを顧客一人ひとりに寄り添って最適化することにより、商品やサービスの訴求力を上げ、広告の効果を生み出し、クライアントに貢献したいと考えています。
いずれ3兆円規模になるといわれるDX市場において、グローバルに通用する企業にしたいとの思いも強くあります。アメリカや中国と比較して、日本のDXには遅れがあるという指摘も聞かれます。一方で、弊社はデジタルやインターネットの企業として日本の最先端を担っている自負もある。日本企業のDX化に貢献することによって、日本全体のDX推進にも貢献したいですね」(宮田氏)
サムネイル写真提供:サイバーエージェントDX
文:小林香織
編集:岡徳之(Livit)