大日本印刷（以下、DNP）は、国立成育医療研究センター研究所生殖医療研究部と共同研究を進める中で、ヒトiPS細胞より創生した小腸の立体臓器モデル「ミニ腸」の三大栄養素（糖質、タンパク質、脂質）の吸収評価において、その有用性を確認したことを発表した。
なお、同研究に関する論文が、ヒトの栄養に関する国際誌「Nutrients」（2022年1月19日・MDPI社発行）に掲載されたとのことだ。
近年、食事による生活習慣病予防の有効性の認識が高まり、食品会社等の企業が特定保健用食品や機能性表示食品の開発を進めている。
健康維持に欠かせない三大栄養素（糖質・タンパク質・脂質）は主に小腸から吸収されるが、機能性表示食品等の開発における重要な評価項目のひとつに、この栄養吸収があるとしている。
従来、栄養吸収の機能性検証はマウスやラット等の実験動物で行われてきたが、昨今はアニマルウェルフェア（動物福祉）の観点から、食品分野での動物実験が禁止される傾向にあり、またマウスやラットはヒトとは種が異なるため、動物実験の結果が必ずしもヒトにそのまま反映されるものではないという。
そのため、ヒトの栄養吸収や吸収過程における食品成分の影響は明確に解明されていないという指摘もあり、こうした課題に対しDNPと国立成育医療研究センター研究所生殖医療研究部は、ヒトiPS細胞から生成され、マウスやラットよりもヒトに近い「ミニ腸」を用いて三大栄養素の吸収機能を解析。
新規吸収評価ツールとしての活用の可能性を提示する結果に至ったとのことだ。
【研究概要】
ミニ腸は生体に類似した立体構造を持ち、形状を維持したまま、さまざまな機能性物質を作用させることができると知られてきたとし、同研究では、ミニ腸が実際に立体構造を保持したまま、蛍光標識した三大栄養素を吸収させ、糖質の吸収抑制効果がある成分をミニ腸に作用させたところ、糖質の吸収が抑えられることを確認。
なお、ミニ腸の大きさの測定には、DNPが開発したAIをベースにした測定ソフトを使用しているとのことだ。
現在、世界的に動物の権利の尊重が求められる中で、動物実験の停止や削減が求められ、特に食品分野では動物実験の代替方法の開発が早急に求められているという。
そのため、構造的・機能的にヒトの腸と類似するミニ腸が、この代替技術のひとつとして期待されているとしている。
DNPは、ミニ腸の栄養吸収機能を活かし、食品成分の吸収評価や新規探索など栄養分野に応用するための多様なニーズを収集し、さらなる開発を進めていくとしている。
また、ミニ腸を多種多様な企業・団体の研究開発向けに評価ツールとして提案するなど、新たな代替技術を推進していくとのことだ。