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グーグル検索史上、癒し需要が過去最高となった2021年
グーグルによる2021年の検索キーワード分析によると、世界各地では「癒し」を求める人が多いことが判明した。「how to heal(癒しの方法)」というキーワードの検索頻度が過去最多を記録したという。
実際、グーグルトレンドで調べてみると、確かに「how to heal」というキーワードの検索指数が2021年7月に100に到達しており、2004年1月以来で過去最高となっていることが分かる。
グーグルの分析によれば、これに関連して「メンタルヘルス対策」という検索数も2021年5月頃に急上昇したという。
2021年はコロナ禍だけでなく、洪水などの自然災害、アフガニスタンの政情不安など、人々の不安を煽る情報が非常に多く、その反動として癒しやメンタルヘルス対策を求める人が増えたと思われる。
この癒しやメンタルヘルスの需要の高まりは、様々な市場トレンドに影響を及ぼし始めている。
観光・ホテル産業も例外ではない。世界各地のラグジュアリーホテルでは、催眠療法を取り入れたヒーリングプログラムなど、身体の癒しだけでなく、「メンタルヘルス」向上を目的とする新たな取り組みが増えているのだ。
ラグジュアリーホテルの癒しアプローチも変化
マンダリンオリエンタル香港では、2021年6月に催眠療法士であるクリスティン・デシュミン氏による催眠療法ワークショップをローンチ。
同ワークショップは、副交感神経系を活性化させるリラクゼーションセッション、食事の改善を通じたメンタルヘルス向上を目指すワークショップ、デシュミン氏との1対1の催眠療法セッションの3種類がある。それぞれ1時間ほどのセッションで、1500〜2250香港ドル(約22000〜33000円)で提供されている。
一方、ロンドンにあるThe Belmond Cadogan Hotel(ベルモンド・カドガン・ホテル)も同様のプログラムをローンチしている。
同ホテルは2021年3月末、英国で広く知られる催眠療法士マルミンダー・ギル氏と提携した「睡眠コンシェルジュ」プログラムを開始することを発表。この取り組みを始める背景には、コロナ禍の英国で不眠症に悩む人が急増したという事実がある。
英国では、2020年時点で不眠症の増加が顕著になっている。
英ガーディアン紙が同年8月に報じた統計によると、不眠症を訴える人の割合は24.7%とパンデミック前の15.7%から10ポイント近く上昇していることが判明。特に、子供を持つ母親の不眠症増加率が顕著だった。0〜4歳時の子供がいる母親においては、不眠症率が19.5%から40%と2倍以上増加したのだ。5〜18歳の子供がいる母親も21.7%から38%に増加している。
ベルモンド・カドガン・ホテルの睡眠コンシェルジュプログラムでは、同ホテルのアプリからギル氏が制作した睡眠導入向けの瞑想セッションを視聴できるほか、枕やブランケットの質を細かく選択したり、睡眠向けのティーサービスを受けることができるという。
フォーシーズンズ・ニューヨークも催眠療法スパ
フォーシーズンズ・ニューヨーク・ダウンタウンも著名催眠療法士を起用したプログラムを展開中だ。
同ホテルは2021年9月、催眠療法士ニコール・ヘルナンデス氏による癒しプログラム「The Time Traveler」をローンチしたと発表。
このプログラムは、2018年に開始された「Resident Healers Program」の一環で実施されるもの。The Time Travelerプログラムには、サウナ、デトックスクラブ、マッサージに加え、ヘルナンデス氏による催眠療法セッションが含まれている。
Resident Healers Programには、ヘルナンデス氏のほかにも、癒し音楽アーティストであるミシェル・ピレ氏やクリスタルヒーラーと呼ばれるラシア・ベル氏などが在籍。ヘルナンデス氏による新プログラムのローンチは、最近の催眠療法需要の高まりを反映する動きと見て取れる。
エビデンスベースの催眠療法テックも登場
世界的な癒し需要の高まりは、観光・ホテル産業のほか、テックスタートアップ界隈にも変化をもたらす可能性がある。
オーストラリア発の催眠療法テックスタートアップ「Mindset Health」は、その先駆けとなるかもしれない。
世界的な臨床心理学者であるマイケル・ヤプコ氏が監修・デザインしたこのサービスは、スマホアプリを通じて、ユーザーの状態に応じ催眠療法をカスタマイズできるもの。
Financial Review紙が2021年6月に伝えたところでは、同社はシードラウンドで500万ドル(約5億7700万円)を調達した。エビデンスベースの催眠療法をメインストリームにするという目標のもと、取り組みを行っている。
同社のアプリは、App Storeですでに入手可能。現時点で586件の評価がついているが、5ポイント中平均4.5と非常に高い数値となっている。
2022年、紛争危機や自然災害など不安要素は依然払拭されていない状況。グーグルの検索トレンドも含め、今後の癒しトレンドの行方が気になるところだ。
文:細谷元(Livit)