メタバース市場の拡大と増える企業のVR・AR利用、広告・マーケティングも対象に

メタバースとともに拡大するVR・AR市場

GAFAMの動向を観察することは、次のテクノロジートレンドを予想するのに役立つ。

最近の動きから「メタバース」や「VR・AR」が大きな波になるのは確実だろう。

フェイスブックの「メタ」への社名変更、マイクロソフトの「ホロレンズ」や「Mesh」の取り組みが加速、またアップルも「VR・ARデバイス」を発表するとの公算が高まっている。さらには、最近ではグーグルのARヘッドセット開発に関する情報がリークされるなど、メタバースとVR・AR関連のニュースには事欠かない。

今後、VR・ARデバイスが普及すれば、それらを前提としたビジネスエコシステムが構築されることになるはず。その時期は不明であるが、早くて数年後には、そのような状況が実現しているかもしれない。

インド紙The Hinduが伝えた香港拠点の市場調査会社CounterPointの予想によると、VR・ARヘッドセットの出荷台数は2021年の1100万台から2025年には10倍の1億500万台となる見込み。おそらくこの時点で、累計数億台のVR・ARヘッドセットが市場に普及していることになり、スマートフォンのときと同様に、VR・ARファーストのエクスペリエンス需要が高まると思われる。

PwCのレポート「Seeing Is Believing」によると、2030年にはVR・ARによる経済効果は1兆5000億ドル(約170兆円)に達する見込み。これに関連してVR・AR市場における雇用も加速するとみられており、雇用促進の観点から政府機関にとっても無視できない市場・産業となる。

同レポートによると、2030年時点で経済効果が最も大きいのは米国だ。VR・ARにより5370億ドル(約61兆円)の経済効果、232万人の雇用が創出されると推計されている。次いで、中国で1833億ドル(約20兆円)、682万人の経済効果と雇用が生まれる。

注目すべきは、3番目となった日本の数字だ。経済効果は1432億ドル(約16兆円)で53万人の雇用が創出されるという。雇用者1人あたりの創出価値で見ると、日本は3018万円と米国の2629万円を上回る。中国は293万円で、日本はその10倍以上の差をつけることになる。

高画質化する仮想世界、アストンマーチンの事例に見るVRマーケティングの可能性

上記のような成長シナリオを前提に、世界各地ではVR・ARを積極的に取り入れる企業が増えている。

企業におけるVR・AR事例を鑑みると、現時点ではトレーニングに利用するというものが多い印象だ。

実際、市場調査会社GlobalDataも2021年11月に発表したレポートの中で、企業によるVR需要が高まっているとした上で、その主要な利用目的はトレーニングであると指摘。

しかし一方で、パンデミックをきっかけに顧客エクスペリエンスなどトレーニング以外の用途でも、VRが利用され始めていると付け加えている

2022年以降、マーケティングや広告領域でもVR・ARを活用した施策が増えてくるものと思われる。直近の事例から、どのようなことが可能となっているのか、また近い将来どのようなことが可能となるのか探ってみたい。

まず、英自動車メーカー、アストンマーチンによる高解像度VRヘッドセットを活用した取り組みを見ていきたい。

アストンマーチンは、新モデルSUV「DBX」の顧客体験向上に向け、高解像度VR・XRヘッドセット「Varjo XR-3」を活用した施策を進めている。

アストンマーチンといえば高級車に分類されるもので、普段なら顧客はディーラーショップで実際に自動車を前に丁寧な説明を受け、購入に至る。しかし、パンデミックでそれが難しくなり、新たな顧客体験を模索する中で、この施策にたどり着いたという。

アストンマーチンのVRマーケティング(Varjoウェブサイトより)

同社によるこのVR施策は、高級ブランドがブランドイメージを損なわずVRをマーケティングに利用できる可能性を示すものだ。

Varjoは、フィンランドを拠点とするVR・XRスタートアップ。Varjoのヘッドセットは、広く流通するメタの「オキュラス・クエスト2」を超える高画質を売りとしている

オキュラス・クエスト2の画質は片目1832×1920、これに対しVarjoのXR−3は2880×2720と1.5倍の画質を実現しているのだ。ただし、価格差はオキュラス・クエスト2が299ドルであるのに対して、XR−3は5495ドルと18倍以上。

アストンマーチンのような高級自動車を低い画質のVRで体験しても、その高級感は伝わらず、ディーラーショップにおける顧客体験を再現するのが難しくなるのは想像に難くない。画質の向上とともに、高級ブランド企業によるVRマーケティングが増えてくるのは必然といえるかもしれない。

実際、英国の高級ヨットメーカーArksenもヨット販売を促進するためにVarjoヘッドセットを活用。ヨットの価格は数億円に上るという。

仮想空間でのヨット体験を通じたマーケティング(Varjoウェブサイトより)

広告代理店によるVR・AR施策も増加、メタはVRヘッドセット内での広告試験

VR・AR技術はこの先も高画質化していくことが予想される。また、仮想空間における広告・マーケティングのプラットフォームも整備されてくることが見込まれ、企業のVR・AR利用はさらに増えてくることになるだろう。

また、VR・ARキャンペーンを請け負う広告代理店が増えていることも影響しそうだ。

米国では、GroveJonesやCXRなどの代理店がIBM、ウェルズファーゴ、トヨタ、リンナイ、アンダーアーマーなどの大手企業のVR・ARキャンペーンを担当。VR・AR空間を活用したブランドアウェアネス向上などの施策を多数実施している。

一方、メタはオキュラスアプリ内で広告を配信する試験を実施中だ。現在、ユーザーからのフィードバックをもとに、最適化を進めているという。

2次元空間とは異なるVR空間において、どのような広告が好ましいのかは未知数。企業や広告代理店にとって新たなフロンティアになるのは間違いないだろう。

文:細谷元(Livit

モバイルバージョンを終了