数年前までバズワードだった「人工知能(AI)」だが、現在メディアで大きく取り上げられる頻度は減った印象がある。一方、AI開発は静かに進行しており、GAFAMなど資金を持つテクノロジー企業を中心に投資・開発は依然継続されている。

2021年にいくつかのブレークスルーがあったが、2022年も引き続きAIはさらに進化を遂げる見込みだ。

昨年のAI開発動向を振り返りつつ、2022年はどのようなことが予想されているのか、最新情報をまとめてみたい。

GAFAMなどテック大手のAI開発動向

まず世界的に影響力が大きなGAFAMのAI開発動向を探ってみたい。

海外のニュースで注目されているのは、グーグルの親会社アルファベット傘下の英AI企業ディープマインドの動きだ。

2016年頃、囲碁のプロ棋士を破ったAI「AlphaGo」を開発したとして一躍その名が知られるようになった企業。

一般的にはAlphaGoのインパクトが強く、他の業績はあまり知られていない状況だが、2020年11月に新たなブレークスルーを発表し、再びメディアの注目を浴びた。

このブレークスルーとは、タンパク質がどのような構造に成り立つのかを数日で予測するAIソフトウェア「AlphaFold」を開発したというもので、病気のメカニズム理解の促進や創薬分野の前進につながると期待されている。この予測計算は、研究分野では50年来の課題といわれており、それをAIで解決した格好だ。

2021年11月アルファベットは、このAI研究の知見を活かすべく、新たに創薬会社Isomorphic Labsを英国で運営することを発表、これに伴いディープマインドの創業者兼CEOのデミス・ハサビス氏を新会社CEOに起用することも明らかにしている

これまでの報道によると、Isomorphic Labsはディープマインドとは分離された法人で、個別のリソースとスタッフによって運営されるという。一方、関連領域においてはディープマインドとのコラボレーションもあるとのこと。

ハサビス氏は、創薬分野においてAIはデータ分析だけでなく、生物学上の複雑な現象を予測したり生成するモデルを構築する上で有益だと説明している。

Markets and Marketsによると、AIヘルスケア市場は、2021年の69億ドル(7885億円)から2027年には674億ドル(約7兆7027億円)に急成長する見込みだ。

メタやグーグル、言語を取り巻くAIモデル開発の加速

言語関連のAIモデル開発でも、グーグルやメタ(旧フェイスブック)の動きが活発のようだ。

メタは2021年11月に、他のモデルより精度が向上したという多言語スピーチモデル「XLS−R」を発表。

128言語に関して43万6000時間分の音声データを学習させたモデルで、試験では前モデルの精度を大幅に超えることが確認された。様々な言語を翻訳できる単一モデルの構築に向けた大きな前進になるとみられている

言語に関しては、テキストや音声といった言語に加え、画像や動画も同時に処理する「マルチモーダル・モデル」に対する関心が高まっており、2022年もその開発トレンドは続くとみられる。

グーグルが2021年5月に発表した「Multitask Unified Model(MUM)」は、検索のあり方を大きく変える存在として注目されている。

MUMは、検索された質問に対して、直接的な回答を示すだけでなく、その質問の意図を読み取り、様々な角度から有益な情報を提示できるモデルだ。

たとえば「富士山に登頂するにはどのような準備が必要か」と検索した場合、準備という意味を広く捉え、ハイキングトレーニングに関する情報に加え、最適な登山道具に関する情報などを提示できるようになるという。また、言語の壁を超えるものでもあり、英語での検索に対して、日本語で記載された情報を探し出し、翻訳して提示することもできるとのこと

マルチモーダル・モデルの開発は、NVIDIAやOpenAIなども注力する分野であり、2022年はいくつかのブレークスルーが起こるかもしれない。

世界で6兆円近いベンチャー投資、AIスタートアップの動向

大手企業だけでなく、スタートアップ界隈の動向からもAIトレンドを予想することができる。

Venturebeatが伝えたCB InsightsのAI市場レポートによると、2021年世界中のAIスタートアップへの投資額は、500億ドル(約5兆7142億円)に上ったという。

2021年4〜6月期には、588件の投資ラウンドがあり、計166億ドル(約1兆8971億円)が投じられた。7〜9月期には投資ラウンドは841件に拡大し、投資額も179億ドル(約2兆456億円)に増加した。

分野別に見ると、トップはヘルスケア分野で、500億ドルのうち85億ドル(約9714億円)の資金が投じられた。これに、フィンテックAI(31億ドル)、リテールAI(26億ドル)が続く。

スタートアップ界隈の数字からもやはりヘルスケア分野におけるAI活用の期待が高まっていることが見て取れる。

このほか、AIに関しては、欧州でこのほど顔認識AIなどのバイオメトリクス認証利用に厳しい規制がかかったり、AIの倫理面に関する議論が活発化するなど、2022年は規制・倫理の側面でも様々な動きがみられる年になると予想されている。

2022年、以前のようにメディアで大々的に取り上げられることは少ないかもしれないが、生活や仕事のあり方を大きく変えるであろうAI、その開発動向や規制・倫理議論の進展は引き続き注目したほうがよいだろう。

文:細谷元(Livit