IPO平均年数は5年以内に50%短縮?インドスタートアップ市場、2021年動向と2022年の展望

2021年、欧州や米国でベンチャー投資が記録的な増加を示したが、インドでも同様のトレンドとなっている。

2021年に株式公開したスタートアップはインドで11社に上ったが、今回は、加速するインドテックスタートアップ市場の模様を、それに付随する株式公開に対する有識者の見解を交えならがご紹介する。


2021年実績で11社、2022年は20社を見込む。インドスタートアップのIPO 

インドの新興企業や起業家をエンドツーエンドで報道するインドのメディアプラットフォーム「Inc42」によると、2021年、インドのスタートアップのエコシステムは、注目すべき3つのマイルストーンを迎えたという。

その2021年のマイルストーンとは、

という3点である。

インドにおける2021年のスタートアップ動向の記事にある通り、インドではかつてないほど急速にユニコーン企業が創出されている。これは2020年初頭からのパンデミック禍で、テクノロジー製品やサービスの採用率が高まったことに支えられている。

そのため、ユニコーンのステータスに到達するのにかかる時間が短縮。Inc42の記事によれば、インドのスタートアップはIPOにかかる平均年数も、現在の13.8年から5年後の2026年末までには6.9年へと50%短縮されると見られる

投資家のセンティメントは依然強気であり、この投資トレンドは2022年も継続する見込み。同記事では、今年は約20のスタートアップが公開株式市場に参入すると予想されており、Flipkart、Swiggy、OYO、BYJU’Sなどの企業がIPO候補として並んでいる。

2022年に上場が予想されるインドのスタートアップ企業とその評価額(出典:Inc42

加熱したインドスタートアップ投資。しかし、実際はクラッシュの例も

アメリカのニュースメディアCNBCによると、インドにおけるテックスタートアップへは2021年、779件の取引を通じて、282億ドル相当の投資資金が投入されたという。

アジアのプライベートエクイティおよびベンチャーキャピタルインテリジェンスプロバイダーAVCJのデータでは、これは、前年2020年の94億ドルと比較し、3倍にも上る。

インドのIT都市として有名なムンバイでは2021年、新規株式公開を通じて150億ドル以上が調達されたと、CNN Businessが伝えている。さらにそのうち約60億ドル、つまり40%近くはテック企業に向けた資金だった。これも記録的と言える。

例えば、2021年にインドで新規株式公開した企業には、フードデリバリーアプリのZomato、決済大手のPaytm、モバイルゲームのNazara Technologies、オンライン中古車小売業者CarTrade、ソフトウェアメーカーFreshworks、オンライン保険アグリゲーターPolicybazaarなどが含まれる。

2021年にIPOを果たしたフードデリバリーの「Zomato

では、これらのテックスタートアップによるIPOの結果はどうだったのだろうか?

まずフードデリバリーアプリのZomato株は、すばらしいデビューを果たした。13億ドルの調達から始まり、上場日終値は提示価格より65%急上昇し、市場価値130億ドルに達したという。

一方、Paytmは11月18日のデビューから13%以上下落。取引の初日に発行額を27%下回ってクラッシュしている

このPaytmの予想外の失敗を受け、別のデジタル決済会社MobikwikはIPOを延期したという。そのため、地元メディアの報道によると、フィンテック企業への利益を生み出す能力に対する監視が高まっているという。

テックスタートアップは過大評価?妥当?インドスタートアップIPOへの有識者の反応


こうした状況を踏まえ、インドの証券会社プラットフォームZerodhaの共同創設者であるNikhil Kamath氏はCNBCによる取材で、「株式公開されたものを含め、多くのテックスタートアップが依然として過大評価されている」と警告

「これらの企業の大部分は収益性がなく、今後4~5年以内に黒字になるとは思えない。評価を正当化するのは難しい」とまで述べている。

一方、グローバル投資会社General Atlanticのインドおよび東南アジアの責任者であるSandeep Naik氏は、「アーリーステージや成長ステージの投資家は、最後の2年間で多くの利益を得ている」と語る。

「これは大企業への売却やIPOを通じた株式公開などエグジットのおかげ。過去18〜24カ月で発生したIPOの数、エグジットの様子を分析しても、インドは最も魅力的な地域の1つだ」としている。

Sequoia Capital IndiaのRajan Anandan氏は、「インドの市場は深みが増し、人材の質も向上している」と語る。

「パンデミックによりテクノロジーの採用が加速し、多くのスタートアップが以前よりはるかに急速に成長できる環境がある。規模を示すことができる限り、資金は流入し続ける」と同氏は分析。

そして、CNNでは、ムンバイに本拠を置く証券会社Prabhudas Lilladherの投資商品責任者Piyush Nagda氏が、「世界の投資家から寄せられるインドのテクノロジーへの関心は、同国ミレニアル世代の投資家にとって、同セクターを魅力的なものにした」と述べている

実際、インドでは2020年4月以降で、個人投資家が約2,000万人も増加したが、そのうちの30~40%は40歳未満のミレニアル世代であったと推定されている。パンデミック発生以来、彼らは投資を積み重ね、自国の巨大IT企業に熱心に投資する姿勢を見せている、という。

同氏はこの傾向について、「若い投資家は収益性や指標比率が重視されていた『伝統的な』方法では企業を見ていない」と述べ、インドの株式取引は革命的な変化が進行中である、と付け加えている。その上で、Zomatoのような成功例を見るには、「株価を正しく設定する」必要があるとも分析している。

インドのハイテク株に注目している個人投資家や機関投資家の数は、今後も継続するであろう同国のユニコーン企業の創出やスタートアップのIPOの増加に伴い、ますます増えていくだろう。その過程で起こる、持続可能な収益性を実現するインドの株式取引の革命を、引き続き注視していきたい。

文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit

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