国立大学法人神戸大学(以下、神戸大学)大学院医学研究科地域社会医学・健康科学講座AI・デジタルヘルス科学分野の榑林陽一特命教授らと、日立製作所(以下、日立)は、神戸市が構築したヘルスケアデータ連携システムを活用した取り組みとして、神戸市民の健康・医療情報を対象に、AI(人工知能)技術による要介護リスクの解析研究を行うと発表した。
同研究は神戸大学が主体となり、日立が開発した独自の説明可能なAI技術を活用することで要介護リスク予測のブラックボックス化(解析根拠が不明)の解消をめざし、神戸市民38万人の健康・医療ビッグデータから、住民一人ひとりに対する要介護リスクの予測および予測根拠を提示する方法を開発。
研究成果の要介護リスク個別予測モデルは神戸大学から神戸市に提供され、神戸市の保健・介護政策づくりに活用されることが期待されるとのことだ。
研究の背景
超高齢社会を迎え、市町村が中心となって高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施を推進するための体制整備が進められているという。
今回、神戸市保健事業にかかる研究倫理委員会承認のもと、平成27年度から令和元年度までの計5年間の介護保険被保険者の医療・介護データなどの連結データセット(約3000項目/人)が、神戸市より神戸大学大学院医学研究科地域社会医学・健康科学講座AI・デジタルヘルス科学分野へ提供された。
データ提供は令和6年度まで継続し、最終的に計10年間の連結データセットが提供される予定。神戸市において個人や住所が特定されることのないよう匿名化され、神戸大学に提供されるとのことだ。
さらに、神戸大学において希少疾患などから個人が特定されることがないよう、同じ特徴を持つ人が10人以下のデータ項目を削除するという再匿名化を実施。
神戸大学と日立は共同研究契約のもと、日立の独自AI技術を用いて要介護リスク個別予測モデルを開発すとのことだ。
要介護リスクは個人ごとに異なるため、最先端の説明可能なAI技術を適用することで、精度の高い予測モデルの作成が期待できるほか、要介護のリスク要因の解析根拠を把握することができる。
同研究は、政府が進めるデータヘルス政策に貢献する、社会的意義の高い先進的な研究であるとのことだ。
研究の内容
研究の解析対象は、65才以上の神戸市民38万人の医療情報、介護情報、健診情報などを連結した継時的データセットであり、これをAIの学習データとして用いて、一人ひとりに対する要介護リスクを予測するモデルを研究。
継時的なビッグデータ解析により、個人ごとに異なる介護リスク要因の特定に向けて予測性能を検証する研究が、政令指定都市規模の大規模なコホートで実施されることは、本邦初。
また、開発された要介護リスク個別予測モデルは神戸市の保健・介護政策づくりに活用されることが期待されるとのことだ。
同研究の成果は、神戸市をはじめ全国の自治体において保健事業と介護予防の一体的実施に従事する専門職員の作業の負荷軽減や適切なリスク個別予測による介護予防事業の質の向上につながることが期待できるとのことだ。
同研究で用いる日立のAI技術について
今回用いる日立が開発した説明可能なAI技術は、デジタルイノベーションを加速するLumada(ルマーダ)で展開する技術の1つ。
同AI技術は、高精度な予測モデルを構築するための深層学習(ディープラーニング)において、従来は困難だった「予測に寄与する要因の抽出」を行うことができるとともに、特許取得済みの日立独自の「根拠データ管理技術」により、予測要因を生成した根拠データまで遡ることができるため、高い予測精度とその根拠の説明性を両立することが可能。
既に医療、創薬分野において実績があり、価値ある製品・サービスの開発期間の短縮などに貢献しているとのことだ。
同研究では、自治体が持つ膨大な健康・医療ビッグデータに日立のAI技術を適用し、要介護リスク個別予測モデルの作成に取り組みます。同研究を通じ、日立は社会保障費増大の抑制に貢献するとともに、人々のQuality of Life(QoL)向上に寄与することをめざすとしている。
今後の展開
今後、同研究成果をもとに、神戸市においてAIを活用して開発した要介護リスク個別予測モデルを用いた要介護に関する行政政策が行われ、より根拠ある情報をもとに多くの高齢者への迅速なサービス提供に寄与するという。
今回のように大規模かつ長期にわたる自治体の健康・医療データが、大学主体の産学連携で行う要介護リスク解析研究において、提供されたケースはなく、日本で初めての取り組み。
同様のモデルが今後、他の市町村においても展開されることにより、地域の健康寿命延伸に大きく貢献することが期待できるとのことだ。