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世界最大級のテック見本市「CES2022」が今年、ラスベガスで開催された。昨年は新型コロナウイルスの感染拡大により全面的なオンラインでの開催を余儀なくされた見本市。今年は対面とオンラインを交えた、新しいカタチでの開催にも注目が集まった。
パナソニックがコロナウイルスの懸念から12月末になってから急遽不参加を決定し、バーチャルでの参加を決めたほか、MicrosoftやGoogleといった一部のテック大手も参加断念を早々に発表するなど、平常時の開催からは程遠い印象がぬぐえなかったものの、今後のテックトレンドを占う見本市は800社以上のものスタートアップを含む、約2,300社が参加。
人工知能、車両技術、デジタルヘルス、スマートホームなどの新製品が発表された。
徹底した感染症対策に海外からの参加も
新型コロナウイルス感染拡大前の2020年には17万人以上の入場者を記録していたが、今年は4万5000人と大幅に減少。それでも約30%がアメリカ国外119カ国からの参加、この海外からの来場客の割合は2020年の35%とさほど変わらないのは興味深い。ちなみに入場できるのは業界関係者のみだ。
また、今回は入場に際して厳しい感染症対策を実施。入場証の受け取りには、ワクチン接種の証明の提示が必要で、屋内の展示場、講演や会議、シャトルバスなどの移動手段利用中はマスクの着用が義務づけられた。一方で、屋外会場では係員の指示が無いかぎりマスク着用は自由という決まりも。
参加者には、入場証の受け取り時にAbbot社提供のPCR検査キットが無料配布され、帰国に際してPCR検査を求められる海外からの参加者には、航空券の予約とパスポートの提示で、帰国用のPCR検査キットが提供された。
今年の注目
どこにゲームチェンジャーが隠れているか分からない、と称されるほどに世界中の業界関係者だけでなく、ファンからも熱い視線を集めるこの見本市。閉会後の主催者側の発表によると今年のハイライトは次の4つとしている。
1. 自動車技術
190社以上もの自動車メーカーが出展。中でも世界を驚かせたのが、ソニーの電気自動車事業参入発表だった。
コンセプトカーとしてEVの発表はこれまでにもあったものの、2022年春に電気自動車の事業会社「ソニーモビリティ」の設立を表明。ついに、EVの本格市場投入を検討していることを明かした。
完成度の高い外見に、ソニーの強みでもあるエンターテインメント性を重視した3Dオーディオ技術を車内に導入し、新しい車両の楽しみ方を提唱。
公開された車両「VISION-S 02」は、価格や発売予定については言及がなかったものの、大手テックの新事業参入に世界が注目し、当日の株価も一時5%ほど上昇した。
他にも、中国のシャオミー、台湾のフォックスコンといったテック企業も携帯電話とPC事業から脱却するためのEV事業参入を企てており、Appleは昨年11月に完全自動運転を含む電気自動車開発を加速させると発表、注目の分野だ。
なお会場で大いに注目を浴びたのは、BMWが公開したボディの色が刻々と変化するコンセプトカーだった。
2. デジタルヘルス
新型コロナウイルスの影響もあり、注目が集まったのがこの分野。最新の遠隔医療からヘルスデバイス、ウェアラブルの機能向上は目覚ましい。
超高齢化社会に突入した日本をはじめ、健康寿命への関心の高まりもあって、病気治療の医療現場だけではなく、ウェルネスとしてのデジタルヘルスも発展する分野とされた。
コンシューマー向けにAbbot社が開発しているウェアラブルは、様々なバイオマーカーを読み取り健康状態を数値化。健康、栄養、運動能力を支援するとして、一般の健康維持からアスリートの栄養管理、パフォーマンス向上に役立てたいとしている。
今後は既存のグルコース値だけでなく、乳酸やケトーシスの数値を追跡できるバイオウェアを開発中だ。
3. AI(人工知能)
今回のショーでも圧倒的多数を占めたのがAIだ。カスタマイズした人工知能は、農業から医療、自動車からエンターテインメントなど、ほぼすべての主要産業を発展させると証明された。
世界初の完全自動運転トラクターや、カスタマイズ可能な食事の準備と調理をするロボットなどが発表され、世間で注目の分野「フードテック」にもスポットライトが当たった。
4. スタートアップ
19カ国から800以上ものスタートアップが紹介されたEureka Parkでは、日本のスタートアップSkyDriveによる空飛ぶ車・エアタクシーが人気を博し、その他にもAIが調香するアルゴリズム香水、AIによる生ゴミ監視システムなどが登場した。
なお、ジェトロ(Jetro)がサポートするJ-Startup/JAPANパビリオンには過去最多の52社が参加し、革新的なハードウェアを展示、世界に向けた商機拡大を目指した。
VR、ARの進化、話題のメタバース
世界的に注目度が高いメタバースに関連して、VRとARの最新動向がトピックになると大方の予想であったが果たしてゲームチェンジャーは現れたのだろうか。
新型コロナウイルスの感染拡大も相まって、VRとARはゲームの世界での活用から大きく前進し、ビジネスフェーズでの活用に注目が集まった1年だったと言えるだろう。
人びとが移動と接触を禁じられるといった想定外の世界に突入し、リモートワークが一般化、多くの組織で対面の必要性や出社の必然性が大いに議論された。いまやZoomやTeamsがビジネスの必須ツールとなり、さらに進化してVRでの会議の開催も徐々に始まっている。
また、企業研修や技能研修などのリモート移行が困難な分野でも、VRを用いた臨場感とARを用いた利便性を活用した新しい方法に期待が高まっている。すでに試験導入している企業もあり、日本でも今後発展必須の分野とみられる。
そしてVR、ARそれぞれの発展とは別の軸で勢いをつけているのが、メタバース。
パナソニックの子会社Shiftallが発表し話題になったのは、メタバース用のデバイス3種。超軽量VRヘッドセット、音漏れ防止機能付きマイク、温度を感じられる冷温デバイスだ。
ヘッドセットは5.2Kの有機ELディスプレイ搭載のSteamVR対応。250gという軽量化を実現させたヘッドセットは、年間約2000時間(365日使用で1日平均5.5時間弱)を費やすとされるヘビーユーザーでも身体的負担なくメタバースの世界に没入できる。
このほか話題となったのは、スペインのスタートアップOwoが発表したメタバースジャケットで、内蔵センサーによって、ゲームの世界で実際に銃で撃たれた感覚や、腕をつかまれる、ハグ、風を感じることができるというものだ。
一方、今回の目玉と予想されていたメタバースだったが、ふたを開けてみると展示会場にはメタバースがあまりに氾濫しすぎ、かつ上記2社を除いて特筆すべき製品や新技術が見られず、実用性にはあと少し時間がかかりそうなものばかりだったという批評も散見された。
バーチャルで変わる今後の見本市のあり方
昨年のオンライン開催を乗り越えて、オンラインと実体験のハイブリッドで開催された見本市。昨年のオンライン開催でラスベガスの経済は約300億円の損失を計上したとされているほど、市にとっても重要なイベントだった。
いまだ収束を見せない新型コロナウイルスの脅威にある世界で、VRやAR、そしてメタバースの需要はこれまでなかったほどに高まり、進化はますます加速するだろう。
人びとが移動を諦め、ビジネスからレジャーまですべてメタバースなどデジタル世代に集約されるようになったとき、CESのような見本市の形がどう変化していくのかもまた興味深い。
文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit)
参考
https://www.theverge.com/2021/12/24/22853157/ces-microsoft-canceled-omicron-covid
https://www.ces.tech/
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/vision-s/vehicle2.html
https://www.cnet.com/tech/computing/vr-and-ar-looked-to-the-metaverse-at-ces-2022/
At CES 2022, metaverses metaversed the metaverse | TechCrunch
https://www.ktnv.com/news/las-vegas-feels-the-economic-impact-of-ces-going-virtual
https://www.msn.com/en-us/news/technology/the-metaverse-ideas-from-ces-2022-that-we-e2-80-99re-most-excited-e2-80-93-and-confused-e2-80-93-about/ar-AASJpP7?ocid=uxbndlbing
https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sp/contents/column/20210226b.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000044158.html