着実に実用化に向けた実装が進められている5G。「欧州のシリコンバレー」と呼ばれるスウェーデンでは、5G主要企業の一つであるEricsson(エリクソン)が本拠地を構え、さまざまな5G関連プロジェクトが進行。その動向が注目されている。

エリクソンは10年以上にわたって5G技術の開発に取り組んでおり、2020年にストックホルムでスウェーデン初の大規模な公共5Gネットワークを開始した。2025年には、全通信の20%が5G回線になると推定されている。

そんなスウェーデンでは、5Gを利用した自動運転バスが実用間近であるほか、5G活用が進むモビリティスタートアップに投資が集まっている傾向も。本記事では、スウェーデンの事例から欧州の5G活用の最新動向を紹介したい。

「安全でスムーズなリモート管理」が実現する自動運転バス

2021年11月、エリクソンはスウェーデンのストックホルムで、遠隔デジタルモニタリングによる自動運転5Gバスプロジェクトのパイロットテストを完了し、世界規模でのテストが可能になったと発表した。

エリクソンのほかに、スウェーデンに本社を置く電気通信事業者のTelia(テリア)など複数社が参加する同プロジェクトの目的は、効率的で持続可能な公共交通をサポートすること。パイロットテストでは、バスとコントロールタワーを5G回線で接続し、遠隔地にいるオペレーターが公道を走る複数の自動運転バスを監視。新たな安全機能をテストしながら、状況に応じて交通ルートなどの改善を図ったという。

エリクソンのプレスリリースより

エリクソンは5Gに接続されたコントロールタワーの技術的ソリューションを、テリアはエリクソンと共に接続を提供した。Intel(インテル)は、乗客の安全性を高めるためのバスの分析に注力。T-Engineering(ティー・エンジニアリング)は車両と自動運転技術を提供し、エリクソンと緊密に連携してバスとコントロールタワーの統合を図ったそうだ。さらに、Vinnova(スウェーデンのイノベーション庁)とDrive Sweden(ドライブ・スウェーデン)もサポートしており、国をあげた大規模なプロジェクトであることがうかがえる。

高性能の5Gネットワークを通じて、車両とコントロールタワーを接続することで、自動運転バスとコントロールタワーの双方でリアルタイムの通信が可能になる。これは、より安全でスムーズな遠隔操作による車両のコントロールにつながる。

また、乗客はバスに搭載されたシンプルなデジタルインターフェイスを介して、コントロールタワーにいるオペレーターとすばやく連絡を取ることもできるそうだ。

自動車の運転においては、わずか数秒の指示の遅れなどが致命的な事故につながることもありえるため、5G接続による「リアルタイムの接続」は、スマートかつ持続可能な方法でバスと公共交通を管理するための重要なステップになるという。

5Gの活用を進める、注目のスタートアップ

エリクソン以外にも、スウェーデンのスタートアップによるモビリティ関連の5G活用が進んでいるようだ。ヨーロッパ最大の電動トラック、および電気自動運転トラックを提供するEinride(アインライド)は、その中心的存在ともいえる。筆者は以前、同社を取材したことがあるが、近未来的な車体デザインといい、輸送トラックの開発に注力し、大手との提携を次々と実現する戦略といい、逸脱した事業センスに驚かされた。

アインライドが提供する電気自動運転トラック「Pod」(提供:Einride

同社は2018年、エリクソンやテリアと協力して、自社の電気自動運転トラック「Pod」を5G回線に接続し、遠隔操作での利用を可能にした。オペレーターは、同時に10台まで監視できるという。アインライドは2021年初めに、エリクソンなどから1億1000万ドル(約126億円)を調達している。

アインライドは、今のところ欧州と米国に焦点を当てており、2021年11月には米国でのサービスを開始。すでに、ブリヂストンやGEアプライアンスなど数社と契約し、今後の米国での広がりが注目される。

そのほか、トンネルなど回線がつながりづらい場所で5Gネットワークを提供するスタートアップ、Maven Wirelessは、これまでに約250万ドル(約3億円)を調達。トンネルのほか、電車、地下鉄、スタジアム、建物などでも利用でき、消費電力や設置のためのスペースが削減できる強みもあるという。

スマートシティの交通渋滞を緩和するAIシステムを開発するスタートアップ、Ximantisは、欧州連合の研究、およびイノベーションプログラムを通じて、資金提供を受けている。同社のHP上では、このソリューションのETA(目的地への到着予定時刻)の正確性が95%、時間節約が22%だと示されている。

5G信号を伝導するアンテナ製品を製造するスタートアップ、Gapwavesも特許技術で5Gの活用を推し進める。自動車業界向けの安全なレーダーソリューション、ドローンやロボットなどの自律型ラストマイル配送アプリケーション、監視や交通管理などを可能にするアンテナを製造しているという。

自律走行ドローンを提供するEverdroneは、5Gを活用したユースケースを持つ。同社のドローンは、緊急時の医療機器などの配送に利用されており、例えば、院外心停止(OHCA)の際には、AED(自動体外式除細動器)をすばやく現場に届ける。同社は、スウェーデンのヨーテボリ中心部にある2つの病院間で、初の完全自動配送を実現している。サービスの提供はスウェーデンのみならず、デンマークにも拡大しているそうだ。

5Gを使った森林機械のリモートコントロールも

エリクソンのプレスリリースによれば、無線通信サービスを提供するノルウェーの国営企業、Telenor(テレノール)とエリクソンは、スウェーデン林業研究所(Skogforsk)にプライベート5Gネットワークを供給し、森林機械のリモートコントロールの方法を探るパイロットプロジェクトを実施する予定だという。

このプロジェクトは、ローカル5Gの接続性をWi-Fiや4Gなどの技術と比較し、どの程度の距離でリモートコントロールが可能か、どのような作業をリモートで行えるかを確認する初めての試みとなるようだ。

エリクソンのプレスリリースより

スウェーデン林業研究所は、「リモートコントロールにより、スウェーデン、および北欧の林業の効率を高め、競争力を強化することができる。また、オペレーターの作業環境を根本的に改善し、事故の数を減らし、林業という職業への関心を高めることにもつながる」とコメントしている。

森林環境でのリモートコントロールを安全に行うためには、リアルタイムでの映像の高速伝送、低遅延、さまざまな種類の地形や気象条件での高い信頼性が求められる。現在のWi-Fiは通信範囲が限られるが、5Gは大幅にすぐれた通信距離と電力を実現することができるという。

テレノールのIoT・新規事業責任者は「5Gは新たなビジネス機会を創出し、多くのニーズを解決してくれるだろう。5Gが林業で広く使用できるほど発展するのはしばらく先になるので、現在は、重要な補完となるローカル5Gでテストを行っている」と現状を説明した。

このように、スウェーデンでは5Gを活用したプロジェクトが多方面で進んでおり、着実に実用化の動きが見られる。2022年以降の同国の動向にも期待が高まる。

サムネイル写真提供:Einride

文:小林香織
編集:岡徳之(Livit