メタバース投資、今後数年で155兆円
このほど一時的ではあるのものの、アップルの時価総額が3兆ドル(約346兆円)を超えたとして話題となった。このときの株価は182ドルだった。
そのアップルがiPhone第1世代をリリースしたのは2007年。当時の株価は5〜7ドルで推移していた。iPhone第1世代のリリースから15年ほどでアップルの株価は約36倍拡大したことになる。
2007年当時、iPhoneを中心とするスマートフォンがガラケーに取って代わり、生活やビジネスのあり方を大きく変えるだろうと予想できた人は、ごく少数だろう。
2022年は、もしかすると2007年と同じような年になるかもしれない。GAFAMを中心に「メタバース」に関する動きが活発化しており、市場が大きく動く可能性がみえているのだ。
ゴールドマン・サックスは2021年12月に公開したレポート「Framing the Future of Web 3.0」の中で、メタバース関連投資は今後3年間で最大1兆3500億ドル(約155兆円)に達する可能性があると指摘している。
先行するメタの動向
メタバースに関して今注目されているのは、ハードウェアの主導権をどの企業が握るのかという点だ。
スマホやPCでも利用できるメタバースだが、最終的にはVRヘッドセットやARグラスが主なメタバースデバイスになるとみられている。
2007年のiPhoneの登場をきっかけにガラケーからスマートフォンに移行したように、今後数年かけてスマートフォンからメタバースウェアラブルに移行する未来がやってくると考えられているのだ。
ハードウェアという視点で見ると、現時点で一步リードしているのはメタ(旧フェイスブック)だ。
Statistaのまとめによると、出荷台数で見たVRヘッドセットの市場シェアは、2020年1〜3月期にはメタが34%で首位だった。これに18%のソニーが続く形だ。一方2021年1〜3月期には、メタの市場シェアは75%に跳ね上がり、ソニーは5%に転落している。
メタによる公式データは明らかにされていないが、メタのVRヘッドセットに使われているチップセットを製造しているクアルコムのクリスティアーノ・アモンCEOは、メタのVRヘッドセット「オキュラス・クエスト2」の出荷台数は2021年11月時点で、累計約1000万台ほどであると発言。
これも公式の数字ではないが、多くのメディアが報じており、広く認知される推計値となっている。
ちなみに、iPhoneの年間販売台数が1000万台を超えたのは2008年。その後、2009年に2000万台、2010年に4000万台、2011年に7200万台と右肩上がりに増加している。
メタは、オキュラスのほか、ハイエンドなXRヘッドセットの開発プロジェクト「Project Cambria」を明らかにするなどしており、2022年も同社のハードウェア投資は拡大していくものと思われる。
2兆円規模の契約など、マイクロソフトの動き
メタと並びメタバースへの関与を強めているのがマイクロソフトだ。
同社は、XRヘッドセット「ホロレンズ」をビジネス・産業・軍事向けに展開しており、ゲーム・エンタメ以外の分野で普及させる動きが目立つ。
ビジネス・産業に関して、マイクロソフトのコラボツール「Teams」をメタバース化する「Mesh for Teams」を2022年にリリースする計画を発表している。
軍事に関しては、米軍に12万台のホロレンズを納入する話が進められている。米軍は、ホロレンズのフィールドテストを2022年中に開始する予定だ。この契約金額は、220億ドル(約2兆5392億円)に上ると報じられている。
沈黙を保つアップル、2022年にサプライズあり?グーグルはARに注力
メタバースハードウェアのユーザー数獲得では、メタやマイクロソフトが先行しているが、アップルの動向次第で状況は大きく変わる可能性がある。
アップルからの公式発表はないが、アナリストらによる予想によると、近々同社からメタバース関連のヘッドセットやウェアラブルが発表される公算が大きい。
CNBCが伝えたCitiのアナリストらの分析では、現在世界最大の時価総額となったアップルだが、その株価にはヘッドセットなどの新しいプロダクトカテゴリの価値は織り込まれていないという。アナリストらは、2022年にアップルからAR・VRヘッドセットが発表されれば、状況は一変する可能性が高いと指摘している。
一方、グーグルも2020年に買収した軽量ARグラスを開発しているNorthの技術などを活用し、AR関連の取り組みを本格化するとの見方が広まっている。
実際、すでにAR向けOSに特化したチームが編成されたり、AR人材雇用を加速していることが確認されており、2022年中にARやメタバースに関する大きな動きがあることが予想される。
2019年までVRヘッドセット市場で世界シェア1位だったソニーによる巻き返しなど日本企業による活躍も期待したいところ。2022年、メタバース市場の動向に注目していきたい。
文:細谷元(Livit)