富士フイルム、湿度差の刺激で肌が荒れる一因を解明 チャ葉エキスに肌のバリア機能を高める効果も発見

富士フイルム

富士フイルムは、湿度の低下による刺激(以下、湿度差刺激)で肌荒れが生じる一因を解明したと発表した。また、チャ葉エキスに角層中の重要なバリア関連因子であるアシルセラミド産生酵素の発現促進効果を発見したとのことだ。

季節の変わり目やマスクの着脱による肌の不調に悩む人が多い一方で、そのような環境の変化により肌荒れが生じるメカニズムに関しては、あまり研究が進んでいなかったという。

富士フイルムは季節の変わり目やマスクの着脱時に生じる「湿度差」に着目し、皮膚に与える影響を明らかにすべく研究に取り組んだという。

人の肌は表皮と真皮からなり、表皮の最上層には角層細胞と角層細胞間脂質で構成される角層が存在している。角層細胞間脂質の約50%はセラミドとアシルセラミドで構成され、これらが層状に積み重なったラメラ構造を形成して、肌のバリア機能を発揮しているという。

特にアシルセラミドはセラミドを規則正しく整列させ、強固な構造に整える機能があり、バリア機能の維持に重要な因子として知られているとのことだ。

アシルセラミドは溶解性が低く結晶化しやすいため角層細胞間へ効率的に浸透させるのは困難だったが、同社は独自のナノテクノロジーにより、「ヒト型アシルセラミド」をナノサイズで安定分散させることに成功。同成分がラメラ構造の修復や肌のバリア機能を向上させることを確認したという。

肌のバリア機能とセラミド

■研究成果の詳細

1.湿度制御培養装置の開発

細胞や表皮モデルなどの生物試料は通常培養に必要な培地成分の蒸発を防ぐため、高湿度(90%RH(※1)前後)で培養さるという。これまで表皮モデルを低湿度に曝して培養する実験の多くは、乾燥剤の使用や培養器の加湿用バットを取り除くなどの方法で実施され、厳密な湿度制御は行われていなかったという。

同社は乾燥空気と飽和水蒸気を混合させることで、任意の湿度に調湿した空気を作製可能な湿度制御培養装置を開発したとのことだ。

同装置を用いることで任意の湿度および時間を指定し、表皮モデルを調湿空気に曝して培養することが可能になったとのことだ。

湿度制御培養装置の仕組み

2-1.湿度差刺激によって角層水分量およびバリア機能が低下することを実証

湿度制御培養装置を用いて湿度差刺激が皮膚に与える影響を検証。表皮モデルを高湿度(90%RH)から低湿度(30%RH)へ変化させて培養した結果、角層水分量が減少することが分かったという。

また肌内部のバリア機能の指標であるTER値が低下し、外部から肌内部に異物が侵入しやすくなることを確認でき、バリア機能が低下することを実証したとことだ。

湿度差刺激を受けた肌は水分量が減少し、細菌等外部の物質をより侵入しやすくしてしまう状態になると考えられるという。

【左】湿度差刺激による角層水分量への影響
【右】湿度差刺激による肌内部のバリア機能への影響

実験方法:
湿度制御培養装置を用い、表皮モデルを高湿度(90%RH)から低湿度(30%RH)へ変化させ6時間培養。培養後の表皮モデルで角層水分量および、経上皮電気抵抗値(TER(※2))を測定。90%RHで培養した表皮モデルの計測値を100%とし、各計測値を相対値で示した。

結果:
湿度差刺激を受けた表皮モデルでは角層水分量が減少。またTER値が減少し肌内部のバリア機能が低下することが判明したという。

湿度差刺激によるバリア機能(外部因子の侵入防御)への影響

2-2.湿度差刺激によってアシルセラミド産生酵素が減少することを発見

次に湿度差刺激が皮膚のバリア機能に重要なアシルセラミドへ与える影響を検証。表皮モデルを高湿度(90%RH)から低湿度(30%RH)へ変化させて培養した結果、アシルセラミドの産生酵素ELOVL4(※3)の発現が減少することを発見したとのことだ。

実験方法:

湿度制御培養装置を用い、表皮モデルを高湿度(90%RH)から低湿度(30%RH)へ変化させ6時間培養。90%RHで培養した表皮モデル中の発現量を100%とし、ELOVL4の発現量を相対値で示した。

結果:
湿度差刺激を受けた表皮モデルで、ELOVL4が有意に減少することを確認。

上記の結果から、湿度差刺激を与えた表皮モデルで角層水分量およびバリア機能が低下することを実証したという。ELOVL4が減少することで、新たにアシルセラミドが産生されにくくなり、長期的な保湿力・バリア機能の低下につながるとし、これが湿度差刺激により肌荒れを生じる一因であると考えるとのことだ。

湿度差刺激によるELOVL4発現減少

3.チャ葉エキスにELOVL4の発現促進効果を発見

湿度差刺激によりアシルセラミド産生酵素ELOVL4が減少し、肌のバリア機能の低下につながることから、ELOVL4の発現を促進させる成分の探索を実施。その結果、酸化防止効果で知られるウーロン茶由来の成分「チャ葉エキス」にELOVL4の発現促進という新たな効果を発見したという。

チャ葉エキスのELOVL4発現促進作用

実験方法:
表皮細胞にチャ葉エキスを10ppmの濃度で添加。24時間培養後に細胞を回収し、ELOVL4の遺伝子発現量を測定。エキスを添加していない表皮細胞における発現量を100%とし、ELOVL4発現量を相対値で示した。

結果:
チャ葉エキスによりELOVL4の遺伝子発現量が有意に増加することを確認。

同研究で、湿度差刺激によってアシルセラミドの産生に重要な酵素「ELOVL4」が減少し、肌のバリア機能が低下すること、また、チャ葉エキスにELOVL4の発現促進効果があることを実証したとしている。

今後同社は、同研究成果を化粧品開発に生かしていくとのことだ。

(※1)RH:Relative Humidity(=相対湿度)の略。
(※2)TER: Transepithelial Electrical Resistance の略。表皮の外側と内側に生じる電気抵抗値。値が高いほど肌内部のバリア機能が優れていることを示す。
(※3)ELOVL4:Elongation of Very Long chain fatty acids protein 4の略称。アシルセラミドの産生に関わる酵素の一つ。

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