世界中に400万人以上のユーザーを持つ海外駐在員コミュニティInterNationsより、「駐在員が選ぶ世界の住みやすい都市」のランキングが発表された。
世界の駐在員から「住みやすい都市」1位の評価を得たのはマレーシアの首都・クアラルンプールだ。続いて2位はスペインのマラガ、3位はアラブ首長国連邦のドバイ、4位オーストラリアのシドニー、5位シンガポールとなっている。
非常に残念なことに、基準を満たす有効回答数が集まった全57都市のうち、東京はワースト5に入る53位という低評価に沈んでいる。
今回はこの調査の中でも特にクアラルンプールをはじめとするアジアの上位国と、低評価となった東京を比較し、世界の駐在員から見た今の日本の「住みやすさ」の問題点について、コロナ禍でのコミュニケーションという要素も含めて見ていこう。
「都市生活の質」「労働環境」「生活コスト」などの項目で各都市駐在員の満足度を調査
InterNationsは、国別都市別に在住外国人駐在員の生活環境に関する満足度を調査し、174の国籍、186におよぶ国や地域に居住する世界の現役駐在員が回答者となった。
調査項目は駐在員の在住国での生活に関わる37の項目で、主に「都市生活の質」(公衆衛生や公共インフラ)、「外国人としての住みやすさ」(言語の壁や住民のフレンドリーさ)、「労働環境」(労働時間やワーク・ライフバランス)、「生活コスト」(住宅や医療費など)が対象となっている。
1位クアラルンプールの他、5位シンガポール、6位ホーチミンとアジアの都市が高評価
集計の結果、全体としてアジアの都市の評価が高く、1位クアラルンプールの他、トップ10内に5位シンガポール、6位ホーチミンの3都市がランクインしている。残念ながら東京の53位は、アジア7都市の中で最下位だ。
海外駐在員から有効回答数が集まった全57都市中、アジア7都市の順位は以下の通りとなっている。
1位 クアラルンプール(マレーシア)
5位 シンガポール
6位 ホーチミン(ベトナム)
11位 バンコク(タイ)
13位 上海(中国)
46位 香港
53位 東京(日本)
総合評価で1位となったクアラルンプールは、中でも住宅事情の良さ(家賃の手頃さ、物件の見つけやすさ)への満足度が74%と全世界一位(世界平均は43%)だった他、生活コストの安さ、支出を十分にカバーできる賃金水準などの項目でも評価が高かった。一方で政治的安定性、公共交通機関、治安面では全体平均を下回る結果となった。
続いて5位はシンガポールで、特に都市生活の質の高さへの高評価が順位を押し上げる結果となった。治安の良さや政治的安定性、公共交通機関の利便性への評価も高かった。一方でワーク・ライフバランスが取り難いことや、生活コストの高さ(特に住宅コストの高さ)にはネガティブな評価が集まった。
6位のホーチミンは、要素によって評価が大きく割れていて、生活コストの安さや住宅事情の良さ、労働環境への満足感ではトップ10に入った。また外国人としての住みやすさへの評価も高く、具体的には「新しい友人の作りやすさ」「地元住民が外国人居住者に対してフレンドリーであること」「現地語を話せなくても生活しやすいこと」などが、世界平均を上回る高評価となっていた。一方で「都市生活の質」カテゴリではワースト10に入る低評価で、公共交通機関が整っていないこと、大気汚染や騒音、地球環境への意識の欠如などが、外国人駐在員から問題視されていた。
東京は「外国人としての住みやすさ」が全世界の中でランキング最下位
このようにクアラルンプール、シンガポール、ホーチミンが世界の駐在員からトップ10内の高評価を受ける一方で、東京は全57都市中53位という低評価となっている。
その中でも、東京は「外国人としての住みやすさ」の項目で、世界の全都市中、最下位の評価となっている。つまり駐在員から見て、東京は「最も外国人としての住み心地が悪い都市」ということになる。
カテゴリ内の小項目を細かく見ていくと、まず最下位なのが「現地語」で、75%の駐在員が「現地語(日本語)を習得する難しさ」をネガティブに感じていて(世界平均は42%)、54%の駐在員が「日本語を使わずに東京で生活することは困難である」と回答している(世界平均は29%)。
さらに東京は、「外国人居住者を歓迎してくれる雰囲気」でも55位、「地元住民のフレンドリーさ」でも48位とワースト10に入る低評価となっていて、40%の駐在員が「東京の地元住民は外国人居住者に対してフレンドリーではない」と回答している(世界平均は18%)。あるイギリス人駐在員は「日本で生活していて地元のような感覚になることは無く、現地住民に溶け込むことは難しいと感じる」とコメントしている。
ワーク・ライフバランスや住宅事情の項目でも東京への評価は低い
東京は「労働環境」のカテゴリでもワースト10内の49位となっていて、特に外国人駐在員は「労働時間の長さ」「ワーク・ライフバランスの悪さ」などの項目でネガティブな評価をしていることが分かった。
また東京の住宅事情に対しても厳しい評価がされていて、50%の外国人駐在員が「東京で住宅を見つけることは難しい」と回答していて(世界平均は23%)、58%が「東京の家賃は割高である」と回答している。(世界平均は39%)
このように東京に対する厳しい評価が多い中で、唯一都市生活のクオリティに関しては比較的高い評価がなされている。中でも治安の良さは全都市中7位とトップ10入りし、96%の外国人駐在員が東京は安全だと感じていた。また公共交通機関の整備状況や医療費の安さについても、世界平均を上回る高評価となった。
コロナ禍での外国人居住者へのコミュニケーションでも日本に厳しい評価が
もう一つInterNationsの調査で明らかになったのは、在日外国人駐在員は、コロナ禍において日本の情報発信に不安を感じているということだ。
新型コロナウイルスの状況とそれに伴う規制について、各国政府のコミュニケーションに対する外国人駐在員の満足度を調査した結果によると、世界平均では66%が駐在先の政府の情報発信について満足寄りのポジティブな回答をしている。高評価理由として挙げられている要素は「明確で理解しやすいこと」(60%)、「簡単に見つけられること」(47%)、「複数の言語で発信されていること」(26%)、「正確であること」(26%)だった。
特にニュージーランド、シンガポール、オーストラリアの駐在員は政府の公式コミュニケーションに対する評価が高く、中東のカタール、サウジアラビア、バーレーン、アラブ首長国連邦の4カ国も満足度上位トップ10に入っている。
一方日本の評価はというと、ブラジル、エジプト、インドネシア、インドに続いて59カ国中55位と、ここでもワースト5に入ってしまう低評価となった。その主な要因は、政府の公式発表や現地メディアからの直接の情報取集の難しさだ。
在日外国人駐在員にとって政府や日本メディアからのコロナ情報収集はハードルが高い
現在のコロナ禍において世界の外国人駐在員たちは、駐在先での新型コロナウイルス感染拡大状況やそれに伴う現地での規制などについて、主に「政府の公式発表(48%)」「現地のニュースメディア(47%)」「ソーシャルメディア(40%)」から情報を収集している。
ただし、駐在員たちがどの情報ソースをメインにしているかは、国によって大きな違いがあった。外国人駐在員の多いシンガポールやバーレーン、ルクセンブルグなどの国では、政府の公式発表を主な情報源とする駐在員の割合が高く、政府の発表自体が外国人駐在員にとってすでに分かりやすいものであることが推察される。
また、英語が公用語のイギリス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどでは、駐在員も言語の壁が無く現地のニュースを理解できるため、現地のニュースメディアを主な情報源としている人の割合が高くなっていた。
一方日本に住む外国人駐在員が主な情報源としているのは、国際ニュースや駐在員向けニュースメディアという回答結果になっていた。つまり日本では、外国人駐在員が政府発表や現地のニュースメディアから新型コロナウイルスに関する最新情報を直接収集することが難しい現状と言えるだろう。
このように、元々「言語の壁」や「現地住民との関わりの薄さ」などによるハードルがあったところへ、コロナ禍での情報コミュニケーション不足も加わり、在日外国人駐在員が感じる「日本の住みにくさ」はさらに高まっていることが推測される。
文:平島聡子
編集:岡徳之(Livit)