起業国家スウェーデン、ベンチャー投資とゲーム開発基盤が強み
日本でも注目度が高まるメタバース。フェイスブックの「メタ」への社名変更を受け、世界各地でもメタバース関連の動きは活発化の様相だ。
メタの本拠地米国や同社がメタバース関連人材の大規模雇用計画を推進する欧州など、様々な国々で注目すべき取り組みが始まっているが、そんな中特に注目を集めているのがスウェーデンだ。
メタバース関連でスウェーデンが注目される理由は主に2つ挙げられる。
1つは、スウェーデンに多くのベンチャー資金が流れ込んでおり、イスラエルを超える世界の起業国家に変貌している点だ。
VR・AR、クラウドコンピューティング、ハプティック技術、ブロックチェーンなど先端技術が集結するメタバース市場、その発展を多くのスタートアップが担うことになるのは想像に難くない。ベンチャー資金が流入するスウェーデンは、メタバース関連のスタートアップにとって開発資金を集めやすい環境にあり、有望な企業が登場する可能性が高いのだ。
Dealroomの調査では、2021年人口あたりのベンチャーキャピタル投資額は、イスラエルが1011ドルとなる見込み。イスラエルの額は、米国の883ドル、英国の478ドル、フィンランドの478ドルを上回るが、スウェーデンはそのイスラエルを300ドル以上上回る1329ドルに達すると予想されている。
スウェーデンに注目すべきもう1つの理由は、同国がゲーム開発に強いという点にある。
ゲームだけでなく、リテール、音楽、エンタメ、教育、医療など様々な領域に関わるメタバースだが、メタバース構築にはゲーム開発システムやノウハウが直接的に関係しており、ゲーム開発とメタバース開発は不可分の関係にある。ゲーム開発企業や人材が増えるスウェーデンは、世界的なメタバース開発ハブになる可能性を秘めているのだ。
スウェーデンのゲーム産業団体のレポートによると、2020年における同国ゲーム産業の収益額は33億ユーロ(約4271億円)と前年比43%という驚異的な伸びとなったことが明らかになった。
2019年も前年比24%増という好調ぶりだったが、それを大きく超える伸び率。これに伴い、2020年のゲーム開発企業数は667社と2015年の321社から2倍以上増加。雇用人材数も2020年は6596人と2015年の3709人から2倍近い伸びを見せている。
VCが注目するスウェーデンのメタバース関連スタートアップ
そんなスウェーデンでは、どのようなスタートアップがメタバース領域で注目されているのか。
メタバース開発で使用されるゲームエンジンの1つ「Unity」の共同創業者のデイビッド・ヘルガソン氏が資金を投じる北欧のベンチャーキャピタルCrowberry Capital、そのパートナーであるへルガ・ヴァルフェルス氏はSiftedの取材で、スウェーデン企業「Fast Travel Games」をメタバースの注目スタートアップとして挙げている。
Fast Travel Gamesは、VRゲームを専門とするストックホルム拠点のゲーム開発会社だ。
2021年4月に、オキュラスクエスト2やプレイステーションVR向けのホラーVRゲーム「Wraith The Oblivion Afterlife」を発表し、高い評価を受けている。
ベンチャーキャピタルが注目する理由としては、Fast Travel Gamesの経営陣がゲーム業界での経験が長く、高品質なVRコンテンツのインターフェイスやエクスペリエンスを提供する術に長けていることなどが挙げられる。
メタバースはVR・AR空間に限定されるものではないが、VRヘッドセットやARグラスは将来的にはメタバースにアクセスする基礎的デバイスとなることが想定される。高品質なVRコンテンツの開発ノウハウを有する企業は、メタバース市場において高付加価値を生み出す可能性のある企業として重宝されるようだ。
実際Fast Travel Gamesは、上記ゲーム「Wraith The Oblivion Afterlife」をハプティックスーツ対応にするなど、VRコンテンツの価値向上に余念がないことがうかがえる。
Fast Travel Gamesのほかにも、ベンチャーキャピタルにメタバース領域での活躍を期待されるスウェーデン発VRスタートアップはいくつか存在する。
ストックホルム拠点のGleechiは、仮想空間での自然な手のインタラクションを可能にする「VirtualGrasp」やVRトレーニングプログラムを開発するスタートアップ。ドイツ大手シーメンスなどと提携し、製造業向けのVRコラボレーション・トレーニングシステムの開発を進めている。
メタバースは、メタのような大企業が独占的にコントロールする単一の仮想空間ではなく、様々な仮想空間によって構成される複合的な世界になることが想定されており、ユーザーが独自に仮想空間を構築できるプラットフォームの役割にも注目が集まっている。
スウェーデンでは、Hiberが注目株。コードなしで仮想空間を構築でき、一部ではマインクラフトの競合ともいわれるプラットフォームだ。2021年6月には、総運用資産額823億ドル(約9兆3000億円)を誇るスウェーデンの投資会社EQTパートナーズ傘下のベンチャーキャピタルから1500万ドル(約17億円)を調達している。
このほか、ブロックチェーン開発プラットフォームのMoralisや仮想空間構築プラットフォームScapinなどがスウェーデン発のメタバース関連スタートアップとして注目されている。
日本にも海外からのベンチャー投資資金、メタバーススタートアップへの期待
メタバース領域でスウェーデンに期待されるベンチャー投資流入と強いゲーム産業基盤は、日本にも当てはまる要素であり、日本も大手企業だけでなくスタートアップの育成を通じて世界のメタバース市場で存在感を示すことができるかもしれない。
他国に比べ日本のゲーム産業が強いというのは周知の事実。メタバース分野へのスキルシフトが可能な人材は少なくないと思われる。一方、チャイナリスクを嫌った海外の投資資金が日本のスタートアップに流入し始めているとの観測もあり、メタバーススタートアップが登場する環境は整いつつある状況といえる。
また、日本のZ世代においてもメタバース開発で使用されるUnity、Unreal Engine、Blenderなど無料のゲームエンジンや3DCGツールをYouTubeなどで学習し、使いこなす人材が増えている印象があり、Z世代発のメタバーススタートアップが登場する可能性も見えている。
日本発のメタバーススタートアップが世界を席巻するのを楽しみに待ちたい。
文:細谷元(Livit)