インフルエンサーマーケティングの進化系「キーパーソンマーケティング」を実践するには

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SNSが人々の生活に浸透した今、「インフルエンサーマーケティング」は多くの企業にとって無視できない施策となってきている。

影響力の強いインフルエンサーにPRを依頼し、フォロワーに情報を波及させていく手法は、個人を起点にしている点で、テレビCMなどのマス広告とは真逆のアプローチだ。この手法に対して「本来は別物なのに、インフルエンサーマーケティングをマス広告的に捉えている企業がまだ多い」と話すのは、藤田デジタル代表取締役・ソーシャルプランナーの藤田啓介氏だ。

電通で大手企業複数社のSNSマーケティングを手掛け、成功に導いてきた藤田氏は、単に影響力の強さだけを見るのではなく、一人ひとりがどのような趣味嗜好を持つのかまで分析したうえで自社にとってのキーパーソンを見出す「キーパーソンマーケティング」に取り組むべきだと提言する。

今後、SNSを取り組むうえで無視できないキーパーソンマーケティングとは具体的にどのような手法なのか。SNSマーケティングの最前線を走り続けている藤田氏ならではの見解を聞いた。

バズ至上主義からの脱却。変化するSNSマーケティングのこれから

まず藤田氏から、これまでの企業におけるSNSマーケティングがどのように変遷してきたのかを語ってもらった。2011年からソーシャルプランナーとしてSNS運用に従事してきた藤田氏は、どのような変化を感じてきたのか。

「SNSマーケティングが台頭してきた2015年頃は、いわゆるバズマーケティングが主流でした。

いかに話題を生み出すかを考え、実施していくなかで、拡散するためには”文脈”が大事であると気付いたんです。ユーザーが企画の背景にある文脈を知らなければ、どれだけ大掛かりなプロモーションを実施したとしても発話やUGC(一般ユーザーによって作れられたコンテンツ)が生まれず話題が波及していきません。試行錯誤するなかで、時事ネタなど多くの方が知っている文脈に便乗した企画を出せば拡散しやすいという構造を発見し、バズサーフィン理論として発表しました」

藤田デジタル株式会社 代表取締役 藤田啓介氏 

そこから、文脈はあっても魅力や独自性がなければユーザーには響かない、個性の弱いアカウントからの発信では響かないようになったと語る藤田氏。2019年頃には、企業のポリシーや主張が含まれた、メッセージ性の強い企画が次々と生まれ始めた。

「ただ、企業アカウントからメッセージ性の強い情報発信を続けるにも限界があります。インターネット上に流れる情報量は年々増え続ける一方で、人間の情報処理能力は変わらない。膨大な情報のなかから自社を見つけてもらうには、ただリーチするだけでなく、自社ウェブサイトへ飛んでもらったり、実際に商品を購入するなどのアクションを促すにはどうすればいいのか。そこで注目されたのが、インフルエンサーの活用でした」

徐々に、企画力重視の不特定多数を対象としたバズマーケティングから、一定数のフォロワーを持ち、アクションを促せる、影響力の強いインフルエンサーを起点としたインフルエンサーマーケティングが台頭しはじめてきた。

2015年からSNSマーケティングの台頭が進み企画力重視から変化が生じ始めた

しかし、冒頭でも伝えた通り、インフルエンサーマーケティングをマス広告と同じように捉え、取り組んでいる企業は少なくないと藤田氏は指摘する。

「フォロワー数の多さを基準にインフルエンサーを選定している企業はまだまだ多いのですが、それでは従来のインプレッションだけを重視した広告配信とほぼ同じです。どれだけフォロワーが多い方でも、自社商品との親和性が低ければただ露出が増えるだけでその後のアクションに繋がる可能性は低いでしょう」

自社のターゲットにリーチし、実際に行動を起こしてもらうために実践するべきなのが「キーパーソンマーケティング」だと藤田氏は語る。

個人が持つ「文脈」を重視するキーパーソンマーケティング

慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 准教授の山本晶氏著書「キーパーソンマーケティング」(2014年)では人をフィルターにして情報を取得するという生活者と情報発信者との関係性に注目し、キーパーソンを経由した情報流通構造を提言している。

「近年、この考え方は実際に現場でも非常に有効にワークしております。キーパーソンマーケティングでは、フォロワー数を基準にしません。自社と親和性の高い『トライブ』(グループ・コミュニティ)を精査し、そのトライブ内で影響力を持つ方を選定し、その方からの情報発信を軸にトライブ内のユーザーに波及させていくのです」

ここで言及している「キーパーソン」について、イメージしやすいよう具体例を出してみる。

例えば、美容に関して積極的に発信している皮膚科医であれば、専門分野が明確でフォロワーからの支持が得やすい。専門知識がない場合でも、この人の言っていることは信頼できる、勉強になるなどの印象を与えられる人はキーパーソンになりやすい。

「銀座で確実に美味しい鮨屋を探したいと思った時、検索エンジンで探すよりも『銀座にあるクラブのママ』のインスタグラムアカウントを探し、その方が通っているお店を選ぶ方がより確実ですよね。現在は、誰しもが無意識に”キーパーソン”を頼って情報収集するのが普通になっています。SNSにおいては、一人ひとりがメディアになります。これまで雑誌やニュースメディアが担っていた役割が個人にシフトしているんです」

キーパーソンマーケティングの重要性に気づき、既に複数社で実践している藤田氏。実際に成果が出ている事例として、dTVのTwitterキャンペーンを挙げた。

2021年1月、dTVでは、月額550円のコストパフォーマンスの良さを伝えるため、「#世界一残念な550円の使い方 」というハッシュタグを起点にしたTwitterキャンペーンを実施。

「自分が思う、世界一残念な550円の使い方を教えて下さい」と、dTV公式アカウントから投稿した。

dtv 公式アカウントの投稿

結果、エンゲージメント率は6.55%と及第点ではあったが、トレンド入りすることはなく想定を上回る結果は得られなかった。ただ、投稿に付随していたキャンペーン解説画像のクリック率は高かった。企画に興味を持っているユーザーは一定数いたようだ。

「Twitterアナリティクス上で各データを分析した結果、企画自体には興味を引くポテンシャルがありそうだが、流通経路に問題があるのではないかと考えたんです。dTVの公式アカウントをフォローしているユーザーには、大喜利要素の強い企画への参加ハードルが高いのではないかと。そこで、トピック的に親和性の高い、ライターのARuFa氏をアサインしました」

ARuFa氏が、自身の考える世界一残念な550円の使い方とともに同キャンペーンの告知を行ったところ、急速に拡散され始めた。

ARuFa氏の投稿直後、1分あたり30ツイートの勢いでハッシュタグ投稿が伸び、最終的にはARuFa氏の投稿は14,000RT、Twitterトレンド入りして一時2位まで上昇した。

「ARuFa氏が属しているお笑い好きな方が集まるトライブと、今回の企画の親和性が非常に高かったからこそ生まれた結果だと思っています。大喜利企画への参加にハードルを感じない層が多かったのでしょう」

自社と親和性の高いキーパーソンを見つけるには?

ただ、このような、親和性が高いキーパーソンを探し当てるのは簡単ではない。企業が自力で探し当てるのには限界があるだろう。

「人力でキーパーソンを探し当てようとすると、SNSに張り付いて影響力の強いアカウントはどれか、目視で確認していくしかないでしょう。実際、私も数十のアカウントを運用して、様々なトライブをウォッチしながら日々キーパーソンを探し回っていますが、企業のマーケティング担当者や、SNS担当者が同じようなことをするのは非現実的だと思います」

効率的に自社に合うキーパーソンを見つけたい。そのようなニーズに応えるため、藤田氏はキーパーソンの発掘を主軸にしたレポート「藤田デジタル キーパーソンリスニング」の提供を開始。

「これまでのソーシャルリスニングのレポートでは、ネガ/ポジの割合や、性別、年代など主にどの層がどのように反応しているのかなど、全体の意見を集約した情報がメインでした。私達が提供するサービスでは、キーパーソンの意見に絞ったレポートを提供します。例えば、メインターゲットの主婦層にとってのキーパーソンは誰で、どのような発言をしているのかなど、全体の傾向ではなく影響力の強さにフォーカスした次世代型のソーシャルリスニングを実現しました」

インフルエンサーマーケティング大手で、これまで述べ1万人以上をキャスティングしてきた株式会社ナハトも、既にキーパーソンリストの作成に取り組んでいる。

代表取締役の安達 友基氏は次のように語った。「今後、インフルエンサーを活用する際は、キーパーソンの概念が前提になるでしょう。その流れを踏まえると、ソーシャルリスニングをキーパーソン軸で調査するのは合理的です。マジョリティの声だけをレポートに落とし込むのではなく、キーパーソンの声に絞ったデータを知る方がマーケティング戦略を考えるうえで非常に有用だと考えます」

SNSは人と人をつなぐプラットフォームであり、すべて個人を起点に展開される。その前提を踏まえれば、企業としてSNS活用に取り組むのであれば、キーパーソンマーケティングが不可欠だと理解できるはずだ。

藤田氏は「表層的なインフルエンサーマーケティングに陥ることなく、本質的なキーパーソンマーケティングを実践してほしい」と力説した。

取材・文:水落絵理香

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