LVMH、ザラ、ナイキ――これらのブランドには共通していることがある。残念なことだが、南米アマゾン川流域にある熱帯雨林の森林破壊への加担が指摘されているのだ。

アマゾン熱帯雨林の面積は550万km2。世界最大で、地球上に残る熱帯雨林の半分以上を占める。世界で最も生物多様性に富む。熱帯雨林は自然と共存する先住民の多くが暮らす場所でもある。アマゾンには、法的に認められている先住民保護区の約98%が集中する。

地球にとって重要な意味を持つエリアであるにも関わらず、樹木の伐採や、肉牛の飼育牧場を主とした農場開拓などが進められてきた。その結果、もともとの面積の約15%をすでに消失してしまった。

有名ブランドとアマゾン熱帯雨林をすぐに結びつけるのは難しい。しかし、アマゾンの森林破壊と結びつくブランド商品を購入すれば、私たち消費者も一転して、加害者になってしまうことを忘れてはならない。

Photo by Kate Evans/CIFOR(CC BY-NC-ND 2.0)

畜産業はアマゾン熱帯雨林の敵

ブランドが、アマゾン熱帯雨林における森林破壊を助長している可能性があることを指摘したのは、「ノーウェア・トゥ・ハイド」という調査報告書だ。どのようにファッション業界がアマゾン熱帯雨林の破壊に関係しているかが解説されている。北米にある、サプライチェーンのリサーチ会社スタンド・アースと、気候正義のNPOスロー・ファクトリーが2021年11月に発表した。

膨大な量の税関のデータを分析し、フェンディ、コーチ、LVMH、プラダ、ザラ、ナイキ、ニューバランスといった、50以上の人気ブランドが、アマゾン熱帯雨林の森林破壊に関与していることが明らかになった。

そもそも畜産業は、アマゾン熱帯雨林を破壊する最大の原因だといわれる。これは、複数の専門家組織による調査研究報告で裏打ちされている。例えば、米国を本拠地とする世界資源研究所によれば、2001年から2015年にかけて起こった世界における樹木消失の約36%が、牛の牧場設立によるものであるという。

牛の牧場として機能するためには、広大な土地を要する。これは、同エリアで産出される油やし、大豆、カカオ豆、ゴム、コーヒー、木質繊維といったほかの農作物の生産に必要な土地面積の合計の2倍が必要といわれる。

2019年に起こったアマゾン熱帯雨林火災 © BBC World Service (CC BY-NC 2.0)

アマゾンの一部は、火災なしでもCO2排出

アマゾン熱帯雨林の破壊は深刻さを増す一方、気候変動にさらにダメージを与えている。本来、熱帯雨林が吸収するはずのCO2だが、破壊によって吸収能力が低下。吸収し切れなかったCO2は残り、気候変動を助長する。

2021年4月に衛星を利用して行った調査では、過去10年間に、吸収した量より20%近く多く、アマゾン熱帯雨林がCO2を大気中に放出したことが分かった。

ブラジルの国立宇宙研究所の大気科学者、ルシアーナ・ガッティ氏がリーダーとして行った7月発表の調査では、牛の牧場を作るために熱帯雨林に火をつけて更地にすることで、吸収できる能力の3倍ものCO2を排出しているという。また森林破壊が30%を超えるところでは、20%以下のところと比較して、CO2排出量が10倍近くになることが分かった。

アマゾンの一部が、火災がなくてもCO2を排出していることも発見された。この点を科学者たちは特に憂慮している。毎年続けられる火をつけての森林伐採が、隣接する熱帯雨林に翌年、大きな影響を与えているのだという。

伐採されたところとそうでないところが、はっきり分かる © 2011CIAT/NeilPalmer

ブラジルでは、森林伐採の94%が違法

アマゾン熱帯雨林の約60%が属するのが、ブラジル。

ブラジルは、2億1500万頭と世界で最も多く牛を飼育している国でもある。森林農業管理認証機関を含む3組織が協働で調査を行った結果、森林伐採の94%が違法で行われていることがわかった。

また、80%が輸出される牛革を代表に、皮革産業はブラジルにとって利益が上がる産業だ。2020年の食肉処理場の収益は11億米ドル(約1260億円)に上った。

サステナブル認定はサプライチェーンの一部だけ

「森林火災、強いては森林伐採を支援している」と、ボルソナロ・ブラジル大統領は海外から非難を浴びている。さらに、皮革産業全体もアマゾン熱帯雨林の森林破壊に関与していると指摘されている。ブラジル国内でも最大規模の皮革輸出業者JBSを筆頭に、ミネルバやフーガクーロスなどの皮なめし企業もがこの違法行為に加担しているようだ。

「ノーウェア・トゥ・ハイド」の調査を行った、スタンド・アースの研究者が輸出や通関のデータを入念に調べた結果、森林破壊を起こす皮革を購入している業界は、ファッション業界と自動車業界の2つだったそうだ。

実は皮革製品のサステナブル認証を専門に行う組織もあるにはある。英国に本拠地を置くNPOレザー・ワーキング・グループ(LWG)だ。LWGによる認証はブランドから遡り、製造業、皮革加工業、皮革なめし業まではカバーする。

しかし、食肉処理場や牛自体、破壊され続ける熱帯雨林は認証の範疇外だ。サプライチェーン上の最初の数段階の透明性が欠如している。そのため、ブランド自身、実際アマゾン熱帯雨林火災に関与する皮革を使っているか把握していない。

関与している可能性は皮革を仕入れていれば、どのブランドにもあるが、それを認めるブランドはない。

企業はサプライチェーンに無知

「ノーウェア・トゥ・ハイド」の調査で、皮革製品を製作・販売するブランドを抱える企業100社以上が、アマゾン熱帯雨林の森林破壊に関与するJBSとサプライチェーンで結ばれていることがはっきりした。

その一方でJBSとつながりがありながらも、企業の3分の1が、森林破壊と関係した皮革の仕入れに対する規制があると言う。また、企業がサプライチェーンについての知識が乏しいことも分かった。

アマゾン熱帯雨林での森林伐採に反対し、LWGの認証を持っているという企業はアディダス、ナイキ、コーチの3社だ。H&Mは2019年からブラジル産の皮革の使用を禁止しているそうだ。しかし、実際のところ、手元に届いた皮革が森林破壊に加担したものであるかどうかは分からないという。

トレーサビリティ可能で、透明性の高いサプライチェーンの確立が急がれている。

キノコの菌糸を使った代替皮革

キノコの菌糸を使った代替皮革、マイロを取り入れたステラ・マッカートニーのバッグ(出典:Stella McCartneyのフェイスブックより)

皮革のサプライチェーンにおける高い透明性が徹底追求される一方で、「ヴィーガンレザー」「フェイクレザー」などが市場に出回っている。動物愛護の観点からいえば、優秀といえる。

しかし、これらはポリウレタンや、ポリエステルとの混合といった人工的な素材であり、プラスチックであることには変わらない。

近年、サプライチェーンや環境、アニマルウェルフェアを気にせずに用いることができる代替皮革の研究・開発が進んでいる。

まずは「マイロ」。これはキノコの菌糸を使った代替皮革だ。通常の皮革とは異なり、家畜を飼育する必要がないと同時に、マイロの材料である菌糸は、資源を大量に必要とする家畜の飼育とは違う上、水、空気、根囲いというわずかな資源で約2週間で生産することが可能だ。

まだ商業規模にまで達せず、小規模生産なので、マイロ素材の環境フットプリントについての独自調査を行うには至っていないそう。しかし2022年には、ライフサイクルアセスメントの結果を発表する予定になっている。

マイロには「マイロ・コンソーシアム(共同事業体)」と呼ばれるグループがある。イノベーションとサステナビリティの責任を持つ企業がグループを構成している。ブランド同士、競合せず、より持続可能な未来の創造を目指す。

現在コンソーシアムに参加しているのは、アディダス、ステラ・マッカートニー、ルルレモン、ファッションや、宝飾品関係のブランドを保有する、フランスのケリングの4ブランドだ。

アディダスは2021年4月に、同ブランドを代表するスニーカー「スタン・スミス」にマイロを使用。「スタン・スミス・マイロ」が出来上がった。

サステナビリティを意識したファッションで有名なステラ・マッカートニーはいち早く服作りにマイロを取り入れたブランドだ。2022年夏コレクションの一部として、パリ・ファッション・ウィークで、マイロを発表した。

高機能アスレティックウェア・ブランドのルルレモンでも、ヨガマットと2種類のバッグにマイロを取り入れている。ヨガマットは、同ブランドの定番商品をサステナブルなものとしてアップグレードした形だ。練習中の手や足の配置を示すためにさまざまな織り方を試している。

マイロ同様、霊芝などの菌糸を用いたサステナブルな皮革に「レイシ・レザー」がある。これを開発したバイオテクノロジー企業マイコワークスは、3年間のエルメスとのコラボレーションの結果、「シルバニア」という、やはり菌糸を素材とした新しい皮革を2021年初めに発表。エルメスはこれでお馴染みのボストンバッグ「ヴィクトリア」を作っている。

報告書「ノーウェア・トゥ・ハイド」を発表したスロー・ファクトリー下の研究施設、スロー・ファクトリー・ラボは、米コロンビア大学やマサチューセッツ工科大学の研究者と提携し、新素材「スローハイド」を開発した。天然の植物由来の素材のみで作られている。

パイナップルの葉、廃棄された果物からも代替皮革

出典:TheAppleSkinのフェイスブックより

ほかに、廃棄されるパイナップルの葉から作られる繊維でできた「ピニャテックス」は、フィリピン産のものを使用。これが自給自足の農家に新たな収入源をもたらすだけでなく、作物をあますところなく活用できるという利点がある。

また、循環型経済の価値観に基づき、製品のライフサイクル全体を通じて、人間と地球の幸福の追求を試みている。ピニャテックスの顧客としては、H&M、ヒューゴ・ボス、ポール・スミスなどがある。

「フルマットレザー」は、リンゴからジュースを絞るなどした後の廃棄される皮や芯などを用いた素材だ。牛の皮革ではないので、温室効果ガスやメタンガスの排出とは無縁だ。食品廃棄物を減らすことができる点も評価できる。顧客としては、ウォムシュや、マリーン・セルなどのブランドが挙げられる。

またリンゴのほかに、マンゴーなど農場・果樹園が形が悪いからと廃棄した果物でできた「マンゴー・レザー」もある。サステナブルなバッグのブランド、ラクストラがマンゴー・レザーを採用している。

素材が動物の皮革ではないというだけでは、すでに「サステナブル」というには十分でなくなってきているのだろうか。さらに廃棄物を減らしたり、地元の人々の支援になったりと、代替皮革も一歩踏み込まなければ、エコ志向の消費者を満足できなくなってきているのかもしれない。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit

サムネイル:キノコの菌糸を使った代替皮革製バッグ(出典:Bolt Threadsのフェイスブックより)