一部企業でビットコイン支払いの受付け開始
依然として激しい乱高下を示すビットコイン価格だが、一部で同暗号通貨を支払い手段として導入する企業が増えつつある。
たとえば、保険会社AXAでは2021年4月、スイスにおいてビットコイン支払いの受付けを開始。生命保険以外の保険商品の支払いで、ビットコインを使用することが可能となった。
顧客がビットコインで支払うと、スイスの暗号通貨取引所であるBitcoin Swissでスイス・フランに変換され、AXAはそのスイス・フランを受け取る形だ。現在のところビットコイン以外の暗号通貨は使用できない。
また米国では、スターバックスがBakktウォレットアプリを通じたビットコイン支払いの受付けを開始。
EV企業テスラも、現在はビットコイン支払いの受付けを停止しているが、ビットコインマイニングの50%以上がクリーンエネルギーで賄われるようになることを条件に、再びビットコインの受付けを再開する計画だ。
このように認知・利用が広がりつつあるビットコイン、欧米だけでなく世界各地でも様々な進展が日々報じられている。直近で大きな話題となったのは、中米エルサルバドルが発表した、ビットコインを中核的な財源として都市を運営しようという大胆な計画だろう。
中米エルサルバドルのビットコイン都市建設計画
2021年11月20日、エルサルバドル・ミサタビーチで開催された「Latin Bitcoin conference(LabitConf)」に登壇した同国のナジブ・ブカレ大統領(40歳)が、同国南東部のコンチャグア火山近くに「ビットコイン都市」を建設する計画を発表。海外メディアはこぞって、このニュースと賛否の議論を報じている。
ビットコイン都市計画では、火山付近の地熱を活用し発電を行い、それによりビットコインのマイニングを行うという。都市には、商業施設、住宅街だけでなく、空港も建設する計画だ。
ブカレ大統領が明らかにした同計画の第1ステップは、利率6.5%の米ドル建て10年債を10億ドル(約1135億円)分発行し、収入の半分をビットコイン購入、もう半分をビットコインマイニング・インフラの建設に充てるというもの。
ビットコイン都市の建設には、総額70億ドル(約8000億円)が必要と試算されており、今後も同様の資金調達が実施される見込み。
エルサルバドルのビットコイン都市計画をめぐる賛否
このエルサルバドルのビットコイン都市計画のニュースに対する論調は、メディアによって大きく異なる。
暗号通貨関連メディアでは、概ね期待や可能性を示す一方、既存の経済・ニュースメディアでは、エルサルバドルの政治・経済の脆弱性に触れ、乱高下の激しいビットコインに強く依存する政策に懸念を示すものが少なくない印象だ。
ドイツメディアDWでは、ドイツ人経済学者クリスチャン・アンブロシウス氏の声を紹介、ブカレ大統領の計画を「非常に危険(highly dangerous)」なものと評している。
エルサルバドルの政治・経済・社会は脆弱なもの、そこに乱高下の激しいビットコインを導入すると、さらに不安定化する恐れがあるという。
様々な指標や統計に、同国の脆弱性を見て取ることができる。
エルサルバドルの最新名目GDPは、262億ドル(約2兆9776億円)とカンボジア(272億ドル)と同じ水準。人口は約650万人で、1人あたりGDPは4031ドル、インドネシアの4256ドルを若干下回る水準となる。裕福な水準ではなく、多くの国民が極度の貧困状態にあるといわれている。
貧困が蔓延する国では、反社会勢力の影響力が大きく暴力がはびこる傾向が強くなるが、エルサルバドルはその最たる例として知られている。
Statistaの最新まとめ(2021年11月)によると、2021年、世界の殺人犯罪率ランキングで、エルサルバドルは10万人中83人と世界ワースト1位となったのだ。
同国の犯罪・殺人率の高さは、様々な海外メディアで度々報じられている。
アルジャジーラ紙が2021年11月12日に伝えたところでは、11月8〜9日にかけて、殺人事件が30件以上発生。警察では手に負えず、軍が出動する事態に発展したという。その多くがギャング関連の事件とみられている。
このような状況では、海外投資を呼び込むことが難しく、技術移転など経済発展に必要なプロセスを踏むことができない。エルサルバドルでは、高付加価値を生み出す産業基盤を築くことができず、貧困が続く構造となっているのだ。
通常、貧困国は世界銀行やIMFなどから融資を受け、インフラを整備し、経済発展の基盤を構築する。日本も戦後、世界銀行からの融資で多くの発電所や高速道路を整備し、経済発展を実現した。
エルサルバドルもIMFから融資を受けているが、2021年に9月に同国がビットコインを法定通貨として認める決定を下したことを受け、IMFは新規融資を一旦停止したと報じられている。
IMFは、ビットコインのボラティリティがエルサルバドルの金融・財政的な安定性を大きく損なうリスクにつながると評価。そのような不安定な国には、融資ができないという判断だ。
ビットコインを法定通貨に認める決定を下した際には、市内で多くの人が反対デモに繰り出したと報じられており、国内でも同決定を不安視する人々は少なくない。
インドでの取引禁止など、国際的コンセンサスに程遠い暗号通貨利用
IMFの融資がなくとも、ビットコインを通じて財源を確保すればよいとの論調もあるが、国や都市の財源としてはボラティリティが高すぎるため、懸念を払拭することはできていない。
実際、ブカレ大統領は2021年12月4日に公式ツイッターアカウントで、ビットコイン推進の一環として「エルサルバドル政府は、価格の一時的な下げ(dip)で、150ビットコインを購入。平均取得価格は、4万8670ドルだった」とツイート。約730万ドル(約8億2900万円)がビットコイン購入に充てられた格好だ。
しかし価格は下がり続けており、12月14日時点では4万7100ドルとエルサルバドル政府の保有ビットコイン価値は、706万ドル(約8億円)に低下、約24万ドル(約2727万円)の含み損を抱える状況となっている。
暗号通貨に関しては、インドが大々的な取引禁止を発表したほか、スウェーデンがマイニングによる環境懸念からビットコインを禁止すべきとの声明を発表するなど、各国のスタンスは大きく異なり、国際的なコンセンサス到達にはまだまだ時間を要する状況。
エルサルバドルのビットコイン都市計画はどのような展開となるのか、今後も注視が必要だ。
文:細谷元(Livit)