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2021年末の需要変化、モノから体験へ
ホリデーシーズンを迎えた米国では、消費需要がモノから体験へとシフトする兆しが見えている。旅行や外食、スパ、コンサートなどコロナ禍で自粛を与儀なくされたきた体験消費に対する需要が急速に戻ってきているのだ。
CNBCが伝えたアクセンチュアの調査(2021年8月実施)によると、今年のホリデーシーズンでは、消費支出をモノから体験に振り分けると回答した米国消費者の割合は平均43%に上った。この割合は、若い世代において高くなる傾向も観察されている。Z世代では50%、ミレニアル世代では53%となった。
また同調査では、今年のホリデーシーズンではレストランギフトカードを昨年と同じかより多く購入する計画があると回答した割合が70%近くに達したことも明らかになった。一方、美容プロダクト・サービスを昨年と同じかより多く購入する計画があるとの回答割合は47%だった。
様々な体験消費の中でも、ミレニアル世代においては、特に旅行関連ギフトの人気が高まっているという。32〜39歳の年齢層の40%が今年のホリデーシーズンのギフトとして、旅行バウチャーや航空券を購入する計画だと答えている。
全米小売業協会(NRF)の予測によると、2021年ホリデーシーズン(11〜12月)における消費額は、8434億ドル(約115兆4700億円)から8590億ドル(約117兆6100億円)となる見込みで、いずれも過去最高値となる。前年比では8.5〜10.5%の成長になる。
この全体的な消費増に、消費志向の変化も相まって、体験消費は大幅に増えることが予想される。
体験を贈る、休暇シーズンのギフト購入トレンド
消費が体験にシフトしている状況は、アドビのデジタルエコノミー指数調査(2021年9〜10月実施)にもあらわれている。
同調査によると、2021年米国ホリデーシーズン(11〜12月)における、Eコマース消費額は2070億ドル(約28兆3400億円)と前年比10%増となり、過去最高を記録する見込みだ。また同期のグローバルにおけるEコマース消費額は、9100億ドル(約124兆円)と前年比で11%増加するという。
アドビは、このオンライン消費の増加トレンドのインサイトとして、ホリデーギフトとして体験を贈る消費者が増えていると指摘。約17%の消費者がオンラインでのギフト購入において、モノではなく体験を選ぶと回答した。
人気の体験ギフトは、スパトリートメント(25%)やコンサートチケット(25%)、スポーツイベント(22%)、航空券(21%)、クッキングクラス(16%)など。
需要増で注目集める体験ギフト・スタートアップ
ギフトとしてモノではなく体験を贈りたい・贈られたいという需要の高まりで、新たなサービスが台頭し始めている。
リトアニア発のTingglyは、体験ギフトを専門とするEコマーススタートアップ。最近の米国での体験ギフト需要の高まりを受け、米メディアでの露出が増えている。
Tingglyが扱うのは、旅行、ダイビング、バルーン体験、レストランなど、様々な体験だ。購入時に、ギフトを受け取る人の名前やメールアドレスを記載するだけで、体験ギフトを簡単に贈ることができる。
男性向け、女性向け、カップル向け、また旅行体験の場合、1泊、2泊など、細かく分類されたカテゴリから、最適な体験ギフトを探すことが可能だ。
リトアニア発のサービスだが、すでに多数の国の体験がギフトに含まれており、国境による制約はほとんど見受けられない。
たとえば、女性向けの体験ギフトパッケージ(129ドル)には、100カ国以上・1400以上の体験が含まれている。欧州や米国の体験だけでなく、シンガポールのフードツアーなどアジアの体験も選ぶことができる。
ギフトの価格はほとんどが129〜300ドルほど。中には、ワシントンDCのホテル(3〜5つ星)宿泊ギフト539ドル、ハワイのホテル宿泊ギフト539ドルなど、少し高額なものもある。ギフト前提の提供であるため、宿泊日程は受け取った側が決めることができ、かつ有効期限は無期限であることが人気となっているようだ。
Tingglyのほかにも、宿泊などの体験をギフトとして贈ることができるサービスが複数登場している。
レンタルハウスプラットフォームのOneFineStayでは、購入時に宿泊日程、クレジットカード情報、宿泊者情報を確定すれば、宿泊をギフトととして贈ることが可能だ。もともとレンタルハウスのプラットフォームであるため、Tingglyに比べると、日程などの柔軟性は下がってしまう。
ヴァージングループも体験ギフト市場に参入している。「Virgin Experience GIfts」では、ヘリコプターツアーやクルージング、シカゴピザツアーなどの体験をギフトとして購入することが可能だ。
一方2021年11月30日、全米小売業協会は、ホリデーシーズンにおける体験需要が高まっているものの、オミクロン株に対する懸念で、再び体験からモノへと消費が戻る可能性があると指摘している。
ただし米バイデン政権は現時点では、旅行に関する規制強化やロックダウンを実施しない方針。これは体験消費を後押しする要因になると思われる。オミクロン株の感染状況や政府の規制方針などによって、米国の消費動向はしばらく流動的になると思われる。
文:細谷元(Livit)