ジャック・ドーシー氏の辞任で、ツイッター新CEOに就任した謎の人物

2021年11月末、ツイッターの共同創業者で最高経営責任者(CEO)を務めてきたジャック・ドーシー氏が同職を辞任することを発表。同時に、CEOの後任に同社最高技術責任者(CTO)を務めてきたパラッグ・アグラワル氏を起用することを明らかにした。

このアグラワル氏、世界的に知られるソーシャルメディアのCTOだったものの、ドーシー氏とは対象的にソーシャルメディア上では特に活発な発言は行っておらず、海外メディアは「謎の人物」として、その素性を明かすことに躍起になっている。

アグラワル氏とはどのような人物で、どのようなことが期待されているのだろうか。

パラッグ・アグラワル氏(写真左)、ジャック・ドーシー氏(右)(アグラワル氏ツイッターアカウントより)

名門インドIIT出身の理系エリート、ツイッター新CEOの経歴

ビジネス向けSNSリンクトインのアグラワル氏のアカウントから、学歴と職歴、またどのような分野を得意としているのかを確認することができる。

学歴は、小中高がAtomic Energy Central School、その後インド工科大学(IIT)ムンバイ校でコンピュータサイエンス&エンジニアリングの学士号、米スタンフォード大学でコンピュータサイエンスの博士号を取得している。

Atomic Energy Central Schoolとは、インド原子力省で働く従業員の子女のための学校で、幼稚園から短大(junior college)まで一貫した教育が提供されている。アグラワル氏の親が原子力分野のエンジニアである可能性を示唆する情報だ。

アグラワル氏が学士号を取得したインド工科大学とは、世界的に名の知れた理系大学。インド国内にはIITマドラス校やIITデリー校など計23校が存在するが、同氏が卒業したムンバイ校はそれらIIT大学の中でも上位に位置づけられている。

このIIT、卒業生の多くがIT業界に入るが、大手テック企業のトップに上り詰める事例は少なくない。グーグルの現CEOであるサンダー・ピチャイ氏(IITマドラス校出身)がその最たる例といえるだろう。

アグラワル氏は、IITで学士号を取得した後、米スタンフォード大学のコンピュータサイエンス博士課程に入学し、主に機械学習や分散コンピューティングシステムの研究に従事していたと思われる。博士課程に在籍していた2005〜2012年の間、インターンとして、マイクロソフト、Yahoo!、AT&Tでリサーチに携わっていた。

ツイッターには2011年10月にソフトウェアエンジニアとして入社。当初は、広告プロダクト開発に携わっていた。CTOに任命されたのは、2017年10月。CTO就任後、パスワードセキュリティ問題など大規模課題の解決に関わるようになる。

新CEO、ソーシャルメディアの分散化を加速か

CTO在職中、アグラワル氏が携わった中で最重要プロジェクトの1つと言われているのが「Bluesky」だ。これは現在も進行中のプロジェクトであり、アグラワル氏のCEO就任を機に、同プロジェクトが加速するのではとの憶測が広がっている。

Blueskyは、ジャック・ドーシー氏が2019年末に明らかにした構想で、SNSプラットフォームをオープン化・分散化する技術標準。異なるソーシャルメディア上でのコミュニケーションを可能にするもので、差別発言などSNS上の乱用に対する規制の効果を高めるものでもあるという

ドーシー氏の発表後、しばらく鳴りを潜めいていたBlueskyだが、最近になり関連の動きが活発化している。

ツイッターは、2021年8月に暗号通貨開発を専門とするジェイ・グレイバー氏を同プロジェクト責任者に任命。また2021年11月に、テス・リニアソン氏を開発リーダーとするクリプト専任チームを発足させている。このクリプトチームは、当時CTOであったアグラワル氏の直下で動き、Blueskyチームとも緊密に連携するといわれていた。

アグラワル氏のCEO就任で、体制がどのように変化するのかは不明だが、ツイッターの分散化・暗号化に関する取り組みが今後加速するのは間違いないだろう

ユーザー数の伸び悩みと収益の課題、カギはインド市場

アグラワル氏のCEO就任で注目されるのは、技術的な課題解決だけではない。ユーザーの伸び悩みや収益の改善など経営に直接関わる課題をどう切り抜けるのか、その手腕に関心が集まっている。

Statistaが2021年1月に発表したまとめによると、ツイッターの2019年1〜3月期の月間アクティブユーザー数(MAU)は3億3000万人だった。ユーザー数は、2015年に3億人に到達して以来、ほぼ横ばいで推移している状況だ

Statistaの別のレポート(2021年11月19日発表)によると、国別では米国のユーザー数が最多で7750万人。次いで、日本が5820万人で2位につけている。3位以下は、インド2445万人、ブラジル1905万人、英国1905万人、インドネシア1755万人、トルコ1625万人など。米国と日本の比重が非常に大きな構成となっている。

アグラワル新CEOは、ドーシー氏が2021年2月に明らかにした中期の経営目標を踏襲するものと思われる。

その目標とは、2020年10〜12月期に1億9200万人だった「monetizable daily active users(mDAU)」を、2023年までに3億1500万人に増やし、年間収益も2020年の37億ドル(約4200億円)から2023年までに75億ドル(約8482億円)と2倍以上に増やすというもの

mDAUとは、ツイッターが収支報告で最近使い始めた指標で、広告のターゲットとなるユーザーのことを指す。

市場の伸びしろを考えると、アグラワル氏の出身国であるインド市場のポテンシャルは非常に大きい。

Statistaによると、インドにおけるフェイスブックの利用者数は3億4920万人で、米国の1億9390万人を抜いて世界トップだ。現在インドにおける広告単価は他国に比べ低いと思われるが、経済成長が見込まれ、中長期的には無視できない市場だ。

新CEOのアグラワル氏によってツイッターはどう変化するのか、今後の動向に注目していきたい。

文:細谷元(Livit