ポルトガルの「Web Summit」に4万人が集結!現地開催に戻りつつあるカンファレンスの今

コロナ禍が到来して以降、多くのイベントがオンラインにシフト。オンライン化が難しい場合、中止や延期となるケースも多い。しかし、未だコロナ禍の終わりは見えないものの、少しずつイベントがオフラインに復帰する兆候が見られている。

2021年11月には、ヨーロッパ最大のテックカンファレンス「Web Summit」がポルトガル・リスボンで開催。4万人以上の観衆が集った。2022年初頭にラスベガスで開催されるテクノロジーカンファレンス「CES」も、オフラインに戻るとされている。

本記事では、大型カンファレンスがオンラインからオフラインに戻りつつある現状、そして現地での安全対策を紹介したい。

経済効果を見込み、オンラインからオフラインへ

2021年9月にデンマーク・コペンハーゲンで開催された「TechBBQ」の様子(筆者撮影)

2020年はオンラインイベントが主流だった印象だが、2021年以降チラホラとオフラインに戻る動きが見られる。

現在、フィンランドに滞在している筆者も、9月にデンマーク・コペンハーゲンで開催されたテックカンファレンス「TechBBQ」に参加した。数千人規模と大きなイベントではなかったが、久々にマスクを外した対面での交流に怖さ半分、嬉しさ半分といった複雑な心境だった(当時のデンマークはコロナの規制がすべて廃止されており、マスクもワクチン接種証明書の提示も必要なかった)。

日本でもオフライン化の動きが見られ、国内最大規模のIT展示会「第13回 Japan IT Week 秋」がこの10月に幕張メッセにて開催された。

大型カンファレンスがオンラインからオフライン、あるいはオンラインとオフラインのハイブリッドに変わっている背景にはどんな影響があるのだろうか。関係者のコメント、及び「Web Summit」の狙いからひもときたい。

●つながりの質を高める
「Web Summit」の開催者は、「オンラインで一定の質のつながりを作ることはできても、対面でコーヒーを飲んだり、食事をしたりしながら培うような質の高いつながりを作れるとは思いません」とコメント。日常的にオンライン会議やインタビューをする筆者も、まったく同じことを感じている。オフラインでなければ築けない関係性がある、ということだろう。

●ビジネスを加速させるネットワークを構築する
オンラインでもネットワークを構築することはできるが、特に大型のカンファレンスとなると、現地での偶然の出会いや紹介などが発生しやすい。筆者自身、9月に参加した「TechBBQ」で予想しない出会いが100人以上にのぼり、一気にLinkedInのつながりが増えた。筆者の記事を読んでくれている読者の方にも会えた。42,000人が集まった「Web Summit」も、現地に足を運んでこそビジネスを加速させるネットワークが築けると考える人が多くいたことの表れだ。

「Web Summit 2021」にて(写真提供:Bamdej CommunicationTechBBQ

●経済効果を生む
現地に人が集まる。それは、現地で移動する、食事をする、宿泊するなどの行為が生まれるということ。数万人規模になれば、その経済効果はすさまじく、「Web Summit」ではポルトガル政府が毎年1100万ユーロ(約14億3,000万円)の補助金を拠出。その経済効果は3億ユーロ(約390億円)になるという。

4万人が集った「Web Summit」の安全対策は?

「Web Summit 2021」にて(写真提供:Bamdej CommunicationTechBBQ

2021年の「Web Summit」参加者は、42,000人ほど。7万人以上が集まった2019年と比較すると、大幅に減っている。しかし、会場が縮小されたために、ところどころで人が密集する様子が見られ、感染リスクがうかがえた。同カンファレンスがどのような安全対策を取っていたのか調べてみた。

●ワクチン接種証明書、または陰性証明書の提出
身分証と合わせてEUデジタルCOVID証明書、あるいはポルトガルとの相互条件の下で、第三国によって発行された有効な予防接種、または回復証明書の提出が求められる。

予防接種を受けていない場合は、過去72時間以内に受けた有効なPCRテストの陰性結果、または過去48時間以内に受けた有効な陰性抗原検査の証明書が必要だ。リスボン市内では、イベント開催時に割引されたPCRテストも提供されていた。

ポルトガルは地球上でもっとも多くのワクチン接種を完了している国だと主張しており、当時、国民の約86%、カンファレンス対象者の約98%が完全なワクチン接種を完了していたそうだ。

●マスクの着用
すべての参加者は、屋内でのマスク着用が義務付けられる。ただし、飲食時やステージで講演する、インタビューを受けるなどのタイミングは、マスクを外してOKとされた。

●通路やブース間のスペースを広げる
公式HPで案内されていたわけではないが、参加したジャーナリストいわく、会場の通路やブース間のスペースが広くなっていたとのこと。

●参加者の流れを一方通行に
公式HPには、ポルトガルの健康ガイドラインに沿って、参加者の流れが一方通行になる手段を導入したとの記述があった。ただ、参加者が撮影した映像を見る限りでは、一方通行になっている様子は見られなかった。

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「Web Summit 2021」の会場内(映像提供:Bamdej CommunicationTechBBQ

●屋外エリアの設置
屋外での交流を希望する参加者のために、ネットワーキングや食事のための広い屋外スペースが用意された。

●衛生状況の管理
屋内会場では換気の実施のほか、清掃が強化され、手指の消毒液も設置された。

公式の映像を見る限り、参加者のマスク着用義務は守られていたようだ。しかし、参加したカナダのジャーナリストの記事によれば、徐々にマスクをしなくなる人が見られたとか。また、提出必須のワクチン接種証明書や陰性証明書も、徹底的にチェックされていたとはいえないようだ。

同カンファレンスには、ボランティアも含め多くの人員が割かれたようだが、それでも42,000人を監視することは難しいと思われる。また、一般的に外国人は日本人と比較してマスクへの苦手意識が強い。監視の目が届かなければ、マスクを外す人がいても不思議ではない。

マスクの着用を徹底するとしたら、監視の目を増やすか、ルール違反者にペナルティを設けるなどの処置が必要かもしれない。

ラスベガスの「CES」も「ワクチン接種証明書」が必須

2021年は、初の完全オンラインでの開催となったテクノロジーカンファレンス「CES」。だが、ワクチン接種が浸透したためか、2022年は1月5日〜8日に米国ラスベガスの現地で開催することが決定している。「CES」もまた、州や地方の健康安全対策のガイドラインに基づき、以下のような安全対策が発表されている。

ワクチン接種証明書の提出
「Web Summit」では陰性証明書でも許可されたが、「CES」では食品医薬品局(FDA)、または世界保健機関(WHO)によって承認されたワクチンを完全に接種されている必要があり、その証明書の提出が義務付けられる。

米国在住の人々は、予防接種を受けたことを証明するヘルスパスを取得するために「CLEAR」というアプリを使用する。米国を拠点としない参加者は、同様のサードパーティプラットフォームを使用して、ヘルスパスを取得。これは、空港での長時間の待ち時間を回避する目的もあるようだ。

●会場の換気と清掃
換気システムの改善のほか、感染リスクを最小限に抑えるための清掃方法を採用し、専用の機関「ISSA」からの承認を受けている。

●現地での医療支援体制を整える
現地での医療支援が必要になった際に備えて、医療支援体制が整えられる。

●ソーシャルディスタンスの確保
「Web Summit」が開催されたリスボンでは、ソーシャルディスタンスの規制が廃止されていたために、イスの設置間隔などは調整されなかったようだが、「CES」ではソーシャルディスタンスにも配慮される。十分な距離を保ったイスの設置、ショーフロアの通路増幅のほか、パブリックエリアとエントリーポイントは人の流れが一方通行になる。

●包装済みの食品をオプション提供
会場内のケータリング、および売店では、ソーシャルディスタンスの確保とともに、包装済みの食品がオプションで提供される。

●消毒液を設置し、参加者向けに注意を促す
会場全体に消毒液を設置して、頻繁に消毒ができるようにする。また、出店者が製品のデモンストレーションを適切に管理したり、握手を避けたりして誰もが安全に参加できるよう、参加者向けのベストプラクティスが発行される。

ラスベガスの「CES」は毎年17万人以上が集まるという(写真はイメージ)

マスクの着用については、現地の法律に則り12月中にガイダンスが発表されるそうだ。2022年の「CES」の参加人数はまだハッキリしていないようだが、2019年の現地開催では、のべ約18万人が参加しており、今回も17万人以上が集まる大規模なカンファレンスになると予想される。

「Web Summit」と比較すると、より一層厳しい安全対策となっているが、規模感や世界的な感染流行の状況を踏まえれば、それでもなお不安はつきまとうはずだ。「Web Summit」で指摘されていた管理の甘さが起こらないよう、厳格な姿勢で臨む必要があるだろう。

すべてのカンファレンスは「デジタル要素」を持つべき

「Web Summit」の創設者であるPaddy Cosgrave氏は、2020年4月からの1年半の間、数々のオンラインイベントを開催してきた経験を踏まえ、「バーチャルカンファレンスは最悪だ」と持論を述べていたとか。

また、Baker社の共同設立者であるBruno Ohana氏は、「新しいものを販売していない老舗企業であればイベントは避けたほうがいいかもしれないが、パンデミックの中で成長してきたスタートアップなら、外に出て人に会う必要がある」とコメント。

多くのスタートアップの創業者たちも、「対面での交流に勝るものはない」「メールやビデオ通話では交流に限界がある」などと、オンラインでの交流に対する不満を抱いているようだ。

一方で、「CES」を主催するConsumer Technology Associationのマーケティング・コミュニケーション担当上級副社長であるJean Foster氏は、「今後、すべてのショーはデジタル要素を持つべきだ」と主張。

「私は業界全体の同業者に、オフラインとオンラインのハイブリッド開催を提唱している。会場では、現地の参加者だけでなく、オンラインの参加者に向けても話している」(Jean Foster氏)

10月に開催された「AsiaBerlin Summit 2021」のオンライン視聴の様子。プレゼンテーションしたスタートアップの一部代表も、オンラインで参加した(筆者撮影)

オフラインのカンファレンスには、オンラインの何倍にも勝るビジネスチャンスがあるのは事実だ。しかし、Jean Foster氏の主張ももっともかもしれない。

実際のところ、ラスベガスがあるネバダ州では、11月下旬現在、住民の約54%しかワクチン接種を完了しておらず、アメリカ全体でも約59%にとどまっている。欧州では感染の勢いが止まらず、再び一部のロックダウンやコロナパスの導入を決めた国もある。

大規模カンファレンスがオフラインに戻りつつあるニュースは喜ばしく、経済促進の期待が高まる。一方で、現状はまだ気を緩める時期ではないし、オンラインならではのメリットも十分にある。

これからのカンファレンスは、ぬかりない安全対策、デジタルとの融合をはじめとした「さらなる進化」が求められそうだ。

サムネイル写真提供:Bamdej CommunicationTechBBQ

文:小林香織
編集:岡徳之(Livit

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