花王ヘルス&ウェルネス研究所と、弘前大学大学院医学研究科の中路重之特任教授の研究グループは、弘前大学COIが実施する「弘前市いきいき健診」で得られた健康ビッグデータを活用して、内臓脂肪と認知機能および脳の構造の関係性について検討し、結果を発表した。
同研究の結果、65歳以上で内臓脂肪が多い人は、認知機能が有意に低下しており、脳の構造異常も発生していることを発見したという。
このことから、内臓脂肪を減らすことは、認知症リスクを減らすことにも寄与する可能性があると考えられるとのことだ。
なお、同研究成果は、神経科学に関する国際学術誌「Brain Sciences」に巻頭論文として掲載されたとのことだ。
肥満には、主に皮下脂肪型と内臓脂肪型の2つのタイプがあり、一般的には腹囲やBMIがその指標とされている。そのうち内臓脂肪型は、おなかを中心とした内臓の周りに脂肪がついた肥満のことで、生活習慣病の発症リスクと関係することが知られているという。
しかし、内臓脂肪を正確に測定する方法はコンピューター断層撮影(CT)検査が一般的で、その侵襲性や測定の煩雑さから医学的な研究はあまり進んでいないとしている。
認知症は、近年注目されている疾患のひとつであり、予防が重要であることが解明されつつあるという。
予防因子のひとつとして、肥満抑制が重要であるという研究報告があるが、腹囲やBMIを指標とすることには限界があることがわかってきているとしている。
そこで、花王が独自に開発した「内臓脂肪計(※1)」を用い、弘前大学COIが実施する大規模なコホート研究(※2)「弘前市いきいき健診」の中で、内臓脂肪と認知機能の関係性について調べたとのことだ。
■方法と結果
2016~2017年に実施された「弘前市いきいき健診」に参加された65~80歳の人のうち、認知症と診断された人などを除く2,364名を解析対象としたという。
内臓脂肪は上記内臓脂肪計を用いて測定し、得られた内臓脂肪量の中央値を基準に内臓脂肪が多いグループ(N=1,143)と少ないグループ(N=1,221)に分類。
認知機能は、認知症のスクリーニング検査「MMSE(※3)」を用いて評価し、脳の構造は、核磁気共鳴画像法(MRI)を用いて、脳萎縮、白質病変、側脳室周囲病変、血管周囲腔拡大、脳出血について調べたとのことだ。
これらの評価結果をグループ間で比較する際には、これまでに認知症に関係すると報告されている因子(高血圧、糖尿病、うつ、喫煙、飲酒など)の影響がないように調整を行なったとしている。
1.内臓脂肪と認知機能の関係性
内臓脂肪が多いグループは、少ないグループと比較して、MMSEのスコアが低く、認知機能が有意に低下していたという。
これは、これまでに認知症に関係すると報告されている因子の影響を除いた後の結果であり、内臓脂肪はこれらの因子とは独立して認知機能と有意に関係することがわかったとのことだ。
2.内臓脂肪と脳の構造の関係性
認知症の患者では、白質病変などの脳の構造異常を生じていることが報告されているという。そこで、内臓脂肪と脳の構造異常との関係性を検討したところ、内臓脂肪が多いグループは、少ないグループと比較して、白質病変および血管周囲腔拡大が有意に発症していることがわかったとのことだ。
今回、65歳以上で内臓脂肪が多い人は認知機能が低下しており、脳の構造異常も発生していることがわかったとしている。つまり、内臓脂肪を減らすことは、これまで言われているような高血圧などの循環器疾患リスクを減らすだけでなく、認知症リスクを減らすことにも寄与する可能性があると考えられるとのことだ。
今回の成果は、「弘前市いきいき健診」の健康ビッグデータを活用できたからこそ明らかとなった、内臓脂肪に関する新しい知見だという。
引き続き、さまざまな視点から内臓脂肪に関する知見を探究し続けることで、世界中の人々の健康づくりに貢献していくとのことだ。
(※1)花王とパナソニック株式会社アプライアンス社が共同開発した医療機器。CT検査との相関性が高く、非侵襲で内臓脂肪の測定が可能。
(※2)疾患の要因と発症の関連を調べるための観察的研究手法のひとつ。特定の疾患の要因に関係するグループと無関係のグループを作り、それぞれのグループの中で疾患発症率を算出することで関連性を調べる。
(※3)Mini-Mental State Examinationの略語で、「精神状態短時間検査」と呼ばれる認知症のスクリーニング検査。世界的に最も広く使用されている検査で、評価項目は11問、所要時間は10~15分程度で認知症の疑いを判断することができる。