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「今回宇宙飛行士として選ばれる方は、日本人として初めて月面に立っていただくことも想定されています。現役の宇宙飛行士である私から見ても非常に魅力的なミッションです」
JAXAの宇宙飛行士グループ長を務める油井亀美也さんは、新たに募集される宇宙飛行士について、こう話しました。
11月19日、13年ぶりとなる日本人宇宙飛行士の募集要項が発表されました。12月20日に受付を開始し、選抜結果の発表は2023年2月頃となる予定です。
応募資格は前回の2008年から緩和され、3年以上の実務経験があることと、医学的特性を満たしていれば応募可能となりました。
応募資格
(1)2021年度末(2022年3月末)の時点で、3年以上の実務経験を
有すること※。
※:修士号取得者は1年、博士号取得者は3年の実務経験とみなす。(2)以下の医学的特性を有すること。
身長149.5-190.5㎝
視力遠距離視力両眼とも矯正視力1.0以上
色覚正常(石原式による)
聴力正常(背後2mの距離で普通の会話可能)▶︎詳細はこちら
JAXAによると宇宙飛行士選抜試験の募集資格に学歴が含まれないのは世界初。大胆な条件緩和に至った経緯と新たな宇宙飛行士に期待されていることをまとめました。
13年ぶりの宇宙飛行士募集に踏み切ったワケ
2021年度の宇宙関連予算は、過去最大規模の約4,496億円となりました。大枠を占めたのは、NASAが中心となって、人類が月面に滞在するのに必要な環境やシステムを整える目的で進めている「アルテミス計画」に関連するプロジェクトです。このアルテミス計画に日本も正式に参画することが表明されました。
日本はアルテミス計画を見据え、宇宙利用の基本原則をまとめた「アルテミス合意」に署名し、月軌道に構築される宇宙ステーション「Gateway(ゲートウェイ)」に関する覚書きをNASAと締結するなど、着々と準備が進められています。
一方、現在JAXAに所属している宇宙飛行士はわずか7名。平均年齢は51歳です。60歳で定年退職した場合、このままではのゲートウェイ搭乗が始まる2025年には日本人宇宙飛行士は4名、月面開発が活発化する2030年には2名にまで減ってしまいます。
このような状況を踏まえ、新たな日本人宇宙飛行士候補者を募集すること、さらに今後は5年に1回程度の頻度で継続的に募集を行うことを、2020年10月に萩生田前文部科学大臣が発表しました。
多様性を活かす、新しい選抜試験作り
宇宙飛行士の募集・選抜の検討にあたって3つの基本方針が示されました。
1. 新しい募集・選抜、基礎訓練への変革:
民間企業のノウハウを活用し、時代に即した新しい選抜方法を構築することや多様な働き方を追求すること
2. 国際宇宙探査に対する支持の獲得:
募集・選抜過程を通じて、国際宇宙探査に対する支持や有人月面着陸という日本史に残るミッションを担う宇宙飛行士への納得感を得ること
3. 宇宙産業への貢献:
宇宙飛行士選抜や訓練のノウハウを活用した新しい事業創出の可能性を探ること
JAXAが検討中の募集条件等の案に対して、パブリックコメントを募ったところ、211件の意見が寄せられたといいます。それが反映されて、募集条件の緩和が実現したのです。
また、女性宇宙飛行士の採用も説明会のトピックの一つでした。2008年の選抜試験の女性の応募者は全体の1割。さらに現在女性の宇宙飛行士が不在である状況や女性の宇宙飛行士の採用を求める意見を踏まえて、女性枠の設置も検討されていました。しかしながら、全体の募集人数が若干名であることから、今回は募集奨励のための広報関連施策を行うまでに留まりました。
今回の選抜試験のロゴマークのモチーフが女性になっているのは、この一環のようです。
そのほか、選考過程の透明化や不合格となった受験者に対して何らかのフィードバックをすることが意見として反映され、検討されています。
募集や選抜には、民間企業のスキルやノウハウが活用される予定です。このことに対して、油井宇宙飛行士は期待を語りました。
「私と金井飛行士、大西飛行士は、同じ時期に宇宙飛行士に選ばれました。1回ずつ宇宙飛行をして、ほぼ同じ経験をしています。ところが、ある装置を開発する際に、『どのようにすれば良くなりますか』と(企業から)意見を求められたとき、3人とも全然違うコメントが出てきました。みんなのバックグラウンドが違うからでしょう。でも、どの意見が正しい・まずいというわけではなく、全て有効なのです。ですから、私たちとは違うバックグラウンドの方が加われば、もっと違う知見があって、もっといい装置ができるかもしれない。将来の有人宇宙活動をさらに効率的に進めていくためには、これまでJAXAだけでは見つけられなかった新しい才能を民間の目で見つけて欲しいと思います。 」
新たな宇宙飛行士に求められる人物像
今回の募集で選抜された宇宙飛行士候補者は、基礎訓練を受けたあとに適性を見て、ISSやゲートウェイ搭乗、月面着陸などのミッションにアサインされます。
そのため従来の宇宙飛行士と同じリーダーシップやフォロワーシップに加えて、様々な環境に対して適応できることや日本史に残る月面ミッションに参加により得た経験を世界中の人々に伝える発信力が求められています。
政権移行に揺れるアメリカの宇宙政策。有人月面着陸はどうなる?
アメリカの宇宙開発のスケジュールは政権によって変動する傾向があります。例えば11月10日には、アルテミス計画における最初の有人月面着陸を当初予定されていた2024年から2025年以降に先延ばしする見通しであることをNASAが発表しました。
やはり気になるのは、月面ミッションにおける日本人宇宙飛行士の活躍の機会が本当に確保できるかどうかです。
文部科学省研究開発局 宇宙利用推進室長の国分政秀さんは、NASAとの交渉状況は回答できないものの、日本人の活躍の機会確保が前提でアルテミス計画への参画を表明していることを改めて説明しました。
「日本人の活躍の機会を確保していくのは我々の役割です。なるべく多く確保していけるようにやっていきます」
日本政府は、前述のゲートウェイの居住モジュールの建設や物資補給などの日本の協力内容や日本人宇宙飛行士の活躍の機会を確認する了解覚書きを2020年12月にNASAと締結しています。今後は人数や滞在のスケジュールなど、より具体的な調整に入るようです。
参考
NASA Outlines Challenges, Progress for Artemis Moon Missions