メタ、欧州でメタバース人材1万人雇用へ
このほど「メタ」に社名変更したフェイスブック、メタバース事業の強化に向け今後5年で、1万人ものメタバース人材を欧州で雇用する計画を発表した。
メタバースとは、仮想共有空間のこと。フェイスブック創業者マーク・ザッカーバーグ氏は、メタバースをモバイルインターネットの次に来るテクノロジー(successor)であると説明。現在、スマートフォンで行っている2次元ベースの検索、ソーシャルメディア利用、音楽・映画視聴が3次元ベースとなり、VRやARで体験・共有できるようになる世界と解釈できる。
サイエンスフィクションのような話で、メタバース関連の技術は発展段階であるとの見方もあり、その実現可能性について懐疑的に見る論者も少なくない。しかし、VR・AR技術、オンライン複数参加ゲームを実現するクラウドコンピューティング技術、NFTに見られるようなブロックチェーン技術、5G技術などの現状と今後の可能性を鑑みると、メタバースの実現可能性はそれほど低くないと思われる。ある程度の実現可能性がなければ、ザッカーバーグ氏も社名変更まではしなかったはずだ。
メタの発表では、具体的にどのような職種で人材を雇用するのかには触れられていないが、明確に「high-skilled(高度スキル)」という文言が用いられていることから、VR・ARに特化したエンジニア系や3Dデザイナーなどの人材が募集されるのではないかと想定される。
メタの研究開発動向と求められるスキル・職
メタが現在どのような領域の技術開発を進めているのかを観察すれば、上記欧州における新規雇用で求められる人材像が見えてくるかもしれない。
メタの技術最新動向に関しては、2021年10月末に開催された同社のテックイベント「Connect」で重要な情報が公開されている。
1つは、同社がメタバースのホームベースと呼ぶ「Horizon Home」だ。基本的にこれまでオキュラスクエストVRヘッドセットの「Home」と呼ばれていたホーム空間だが、これにソーシャル機能が追加される予定で、名称もHorizon Homeに刷新される。これにより、アバターとして友人とチャットしたり、動画を視聴したり、ゲームをプレイできるようになるという。
Horizon Home関連では、ソーシャルネットワークのエンジニアのほか、3Dアバターのデザイン・モデリング・アニメーション関連の人材が必要になると思われる。
メタは、VRゲームにも注力する計画で、関連スキルを持つ人材が募集される可能性が高い。現在多くのオキュラスゲームは、外部のゲーム開発企業が制作したものだが、今後は有望な企業の買収や人材確保によると内製化もあると予想される。
このほか、VRフィットネス、ビジネス用VR、ハイエンドVRヘッドセット「Project Cambria」などメタバース関連の多様な取り組みが明らかにされており、ゲーム以外の領域からも様々なスキルを持つ人材が雇用される見込みだ。
メタバース専門のジョブサイトの情報も、メタだけでなく関連企業が求めるメタバーススキルを知る上で役立つだろう。
TheMetaverseJobs.comを見ると、メタではメタバース関連で「プロダクト・マーケティング」や「ポリシーマネジャー」などの役職が募集されていることが分かる。マーケティングスキルやプライバシーなどに関して規制当局と折衝した経験やスキルを持つ人材が求められているようだ。法人向けのAR・VRソリューションのプログラムマネジャーやセキュリティ関連の人材も募集がかかっている。
メタ以外の企業では、メタバース関連職として、Unityゼネラリスト、UnrealEngineゼネラリスト、オーディオ分野のソフトウェアエンジニア、コミュニティマネジメント、NFTプロダクション、バーチャルデザインなどの募集が多い印象だ。
メタバース市場、求人は拡大も人材不足懸念
メタバースへは、マイクロソフトなどメタ以外の大手企業が動きを本格化させており、人材獲得競争はこの先激化することが見込まれる。
GlobalDataが2021年10月末に発表したレポートによると、同年10月時点の「メタバース」関連職の数は271件と、5月の54件から5倍以上増加していることが判明した。5月以降、6月に100件、7月137件、8月173件、9月251件とメタバース関連の新規職種の募集数は右肩上がりに上昇しているのだ。
GlobalDataは、メタだけでなく、コカ・コーラやダイムラーなどの非テック企業のメタバース進出が新規募集増の背景にあると指摘。たとえば、コカコーラはメタバース戦略を明らかにするとともにバーチャルプロダクトのデザイナーの募集を開始、一方ダイムラーはメルセデス・ベンツの開発過程にメタバースプログラムを導入したという。
ただし、メタバース関連職には高度スキルが求められるものが多く、募集が行われても、そのポジションが埋まるケースは少なく、すでに人材不足の様相を呈していることが問題視されている。GlobalDataによると、2021年9月には251件のポジションが掲載されていたが、埋まったのはわずか48件にとどまった。
同レポートは、メタの欧州における1万人雇用計画も人材不足に直面するリスクがあると指摘している。
一方、メタバースを追求する企業はおそらくビジネス戦略に人材不足リスクを織り込んでいると思われ、今後はメタバース人材育成への投資を拡大する動きが増えてくることが見込まれる。
実際、メタはConnectの発表で、1億5000万ドル(約170億円)を投じ、AR・VR人材を育成するプログラムを開始する計画を発表している。特に、AR・VR技術を活用した教育コンテンツを制作するクリエイターを育成する構えだ。また、大手ゲームエンジンUnityとも共同でスキルアッププログラムを提供する計画という。
メタだけでなく、マイクロソフトやアップルも関心を示すメタバース。人材をめぐる競争はどのような展開を見せるのか、今後の動きに注目したい。
文:細谷元(Livit)