空気環境の完備が必須条件に? 働きやすいオフィス環境の新常識とは

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2020年、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、企業におけるテレワークは急速に広まった。しかしその後、断続的に続いた緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の期間が2021年9月で終わり、再びオフィスへ回帰する動きが見え始めている。

今後、新型コロナウイルスに対するワクチン接種や治療薬の開発がさらに進み、さまざまな制約を受けなければならない「コロナ禍」と言われる状況が終息するのか、それとも再び感染拡大の波が襲ってくるのかは未知数だ。いずれにしても、それぞれの企業・働く個人が可能な範囲で感染予防を行う状況はまだ当面続くだろう。

先の見えにくい状況下で、出社とテレワークをいかに使い分け生産性の最大化を図るのか、そのために企業はどのようなルールやオフィス環境を用意すべきなのか。

そんな中、パナソニックくらし事業本部 エレクトリックワークス社は、オフィス空間における清潔で快適な空気環境を提供する「エアリーソリューション」を開発し2021年12月に発売する。本記事では、同製品の特徴とその基礎となっている「ダウンフローの技術について解説しながら、これからのオフィス空間のあるべき姿を探る。

働く個人はオフィス回帰を望んでいる?

企業で働く個人は、オフィスワークへの回帰をどのように捉えているだろうか。日本生産性本部は、コロナ禍に突入して以降およそ3カ月ごとに1回のペースで、全国の企業・団体に雇用されている20歳以上の人1,100人を対象に「働く人の意識調査」を実施している。

この調査によると、テレワークの実施率は第1回(2020年5月)の時に31.5%だったが、第2回(2020年7月)以降、直近の第6回(2021年7月)まで、ほぼ変わらず20%前後で推移している。ただ、「直近1週間(営業日ベース)の週当たり出勤日数」を尋ねる質問に対し「0日(=完全テレワーク)」という回答の割合は、第5回(2020年4月)の18.5%から第6回では11.6%にまで減少した。この数字は第1回〜第6回の中でも最少の数字だ。

また、完全テレワーカーの雇用者全体に占める割合(テレワーク実施率×週当たり出勤日数0日の率)は減少傾向が続いており、テレワーク実施率以上に実施日数の点でオフィスへの回帰が進んでいる。調査のまとめでは「テレワーカー自身がオフィス回帰を望んでいる可能性」が示唆されている。

企業は出社とテレワークの併用を視野に「空気環境」の整備に高い関心

一方、企業側はどうだろうか。パナソニックは、2021年3月に企業の人事・総務・企画担当者200人を対象に「今後のオフィス・働き方の実態環境」調査を実施した。その中で、「今後も継続したいオフィス環境はどのようなものか」を聞いている。

すると、最も多かった回答は「空気の洗浄・除菌設備」(36%)だったほか、「快適な温度管理ができる空調」が27%、「換気設備の充実」の回答が28.5%に上り、除菌や快適な空調、換気など空気環境への高い関心がうかがえた。また、2番目に多かった回答として「安心して対面ミーティングができる環境」(30%)が挙がるなど、オフィスにおける対面ミーティングへの回帰ニーズが高まりつつあることも分かった。

ただ一方で、「電話・WEBミーティングブースの導入」(29.5%)、「遠隔拠点との高品位なコミュニケーション設備」(26.5%)への関心も高い。このことから、完全にbeforeコロナの状態へ回帰するというよりも、オフィスへの出社とテレワークを併用する形を模索している様子が見てとれる。

withコロナのオフィス環境における3つの問題
こうした調査を踏まえ、パナソニックではオフィス環境における問題を3つのポイントにまとめて整理している。

1)フロア内で局所的な密エリアが発生

厚生労働省は、推奨する換気量(30㎥/h・人)は均一に人が分散している場合を想定され、局所的に人が集まる場所はCO2濃度も高くなり空気質対策が必要としている。

2)円滑なコミュニケーションに支障が発生

打ち合わせなどの際に、ソーシャルディスタンスとして2mの間を確保すると人同士の距離が遠くなってしまう。すると、声が聞き取りにくい、資料が共有しにくいといった問題がおこり、円滑なコミュニケーションに支障が生じてしまう。

3)距離の確保による空間効率低減

会議室でもソーシャルディスタンスを確保することが推奨されているが、この場合1人当たり4㎡の面積が必要となり、オフィスの空間効率を低下させてしまう。

「ダウンフロー」によりエアロゾルを落下させる

こうした企業のオフィス環境の問題点に呼応する形でパナソニックが開発したのが、「エアリーソリューション(ブースタイプ)」だ。この、エアリーソリューションの最大の特徴は発生させる「気流」にある。

上の図で、ブースの天井部分に細長い板状のものが並んでいるのが見えるだろう。これはルーバーと呼ばれるもので、ここから下方向に向けて空気を吹き出す。その吹き出された空気は誘引気流となり、周辺の空気を巻き込みながら下方向への均一なダウンフローを発生させて、空間内に浮遊するエアロゾルを床に落とす仕組みになっている。

誘引気流で巻き込まれる空気が加わることで、ダウンフローはルーバーから吹き出す空気の約2倍の風量となるが、それでいて気流は緩やかで、ルーバー直下にいる人もほとんど風を感じることはない上に、会話を妨げるような風切り音もほとんど発しない。

ダウンフローによって下へと流された空気の一部は床付近で吸い込まれ、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルター※1による浄化を経て再び天井部のルーバーから吹き出す。

※1 HEPAフィルターとは、極めて目の細かい不織布のフィルターをひだ状に折り畳んだもので、0.3µm以上の粒子を99.97%以上を捕集する高性能なフィルター。

ブースタイプでは全長10メートルの不織布を折り畳んだHEPAフィルターを5枚搭載しており、ルーバーがブース内に供給する清浄な空気は毎分1万2,000リットルにものぼる。

またエアリーソリューションのブースタイプは、「ブース」と言っても囲いがあるわけではない。そのため、床付近の吸気部はブース内だけでなくブース外の空気も一緒に吸引し、ルーバーから吹き出す大量の清浄な空気はブース内だけでなくブース外にも供給される。こうした空気の循環が、会話によって発生するエアロゾルだけでなく花粉やPM2.5などの汚れを浄化し、オフィス全体の空気を清浄する仕組みだ。

エアロゾルの専門家が裏付けるダウンフローの効果

エアリーソリューションの開発に当たり、パナソニックは金沢大学 理工研究域フロンティア工学系 微粒子システム研究グループの瀬戸章文教授に、同製品が発生させるダウンフローの空間内エアロゾル除去の性能評価について協力を依頼した。瀬戸教授は、エアロゾルについてこのように説明する。

「エアロゾルというのは気体と微粒子の混合物の総称です。人の咳やくしゃみ、会話などで放出される飛沫や、PM2.5、空気中に漂う花粉などもエアロゾルの一種です。オフィス空間にも存在していて、人間の目には見えませんがその個数濃度は1㎤当たり数千個程度です。それらエアロゾルは、オフィス内のモノから発生する繊維くずや電子機器から発した微粒子、人が発する飛沫やそれが乾燥した飛沫核などがありますが、大半は換気や窓、隙間などを通じて外界から流入する大気中の微粒子(大気塵)です。」

金沢大学 理工研究域フロンティア工学系 瀬戸章文教授

瀬戸教授が行った試験はこのようなものだ。まず、エアリーソリューションのブース内に机を用意し、片側の長辺の中央に被験者を配置する。その両隣にマネキンを1体ずつ0.7mの間隔を空けて置き、また被験者から1.1m離れた対面にも同間隔で3体のマネキンを配置した。部屋を暗くして、被験者の発話によって飛散したエアロゾルに強いレーザー光を当てることで可視化し、ダウンフローがない環境とある環境でのエアロゾルの挙動を観測した。

試験を行った結果、ダウンフローが「ない」環境では被験者の発話により放たれたエアロゾルは広範囲で飛散して長い時間漂い続けたのに対して、ダウンフローが「ある」環境では発話後すぐにエアロゾルが下に落ちていき、飛散が抑制された様子が明確に見てとれた。

この試験結果を踏まえて、瀬戸教授は次のように説明する。

「エアリーソリューションには大きく2つの効果があると言えます。1つは巨大な空気清浄機としての効果、もう1つはダウンフローによって飛沫のような液滴も含めたエアロゾルを空間内から排除する効果です。

厚生労働省はオフィスの換気について指針を公表しており、1人に対して、1時間当たり30㎥換気することを推奨しています。エアリーソリューションのブースタイプ1つで、1時間当たり約900㎥の清浄な空気を供給しますので、30人分を賄う巨大な空気清浄機があると考えることができます。通常ビルに備わっている換気システムにエアリーソリューションを足すことで、空間清浄効果をかなり高められます。

もう1つの、エアロゾルを空間内から排除する効果については、試験からも明らかです。エアリーソリューションがつくり出したダウンフローが、被験者やマネキン、その間の空間へ均一に降り注ぐことによって、発話により放出された飛沫が下に落とされ、あるいは空間外へ排除され、テーブルを挟んだ向かいのマネキンに到達する前に除去できています。被験者の隣のマネキンについても、咳あるいは会話程度であれば届く前に飛沫は落下しています。ダウンフローは上から下への気流ですので、もともと重力によって落ちる方向と同じです。そのため、落下の動きを加速し、高速に空間を清浄化できることがエアリーソリューションの特徴だと言えます。

クリーンルームでもダウンフロー方式を使っていますが、クリーンルームに求められる清浄度は非常に高く、その水準を達成するには莫大な電気代がかかります。エアリーソリューションはそれとは違って、スリット型のルーバーから吹き出す気流に誘引気流を援用することにより、少ないエネルギーでダウンフローを実現していることも優れた点の1つです」

空気環境や利用状況を常時モニタリング

エアリーソリューションには、製品内部に設置された各種センサーにより設置エリアの空気環境をモニタリングする仕組みも備わっている。CO2濃度や温度・湿度のほか、人感センサーによって利用状況を常時計測し、インターネットを経由してパナソニックが開発・運用する「KUKAN Cloud」へデータを送る。そこでの分析によって問題点を発見するほか、企業のオフィス設備管理者に定期的にレポートを発行して改善提案を行う。

ブースタイプはスペースさえあれば現状のオフィスに後付けで設置できるため、大がかりな空調設備の改修工事は不要だ。施工期間は基本的に1日で済み、容易に清潔・快適な空気環境をつくることができる。

今回のブースタイプはエアリーソリューションの第1弾だが、今後は天井にルーバーを取り付けるシーリングタイプや、会社受付のような人が対面する場所へピンポイントで設置するスクリーンタイプの開発を検討しており、企業の細かなニーズに合わせたソリューションを拡充させていく予定だ。

実際の使用感が気になる、ブースの中がどんな感じか試してみたいという人は、パナソニック東京汐留ビルにある「worXlab(ワークスラボ)」でエアリーソリューションのダウンフロー気流を体感できるので、一度訪れてみるとよいだろう。

「エアリーソリューション(ブースタイプ)」の製品詳細についてはこちらから

文:畑邊 康浩