Rivianだけじゃない「テスラキラー」、欧州からEV関連企業続々

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EV用次世代モーター、欧州から続々

欧米市場で人気の電気自動車(EV)といえばテスラだろう。EV新車販売のうちかなりのシェアを獲得するようになっている。

しかし、米国ではアマゾンが強力に後押しするEVスタートアップRivianなどの競合が登場し、これまでのように一強という訳にはいかなくなることが見込まれる。

米国だけでなく、欧州でもテスラ猛追を狙う動きが活発化の様相だ。

たとえば、ドイツ自動車メーカー、メルセデス・ベンツによる電気モータスタートアップ「YASA」買収の動きが挙げられる。

YASAは英オックスフォードで2009年に設立されたスタートアップ。創業者のティム・ウールマーCEOは、オックスフォード大学で博士号を取得し、モーター技術に数多くのパテントを持つ人物。

こにYASAが開発しているのが「axial flux motor(アキシアル・フラックス・モーター)」というタイプの電動モーター。EVを次のレベルに引き上げる重要要素として捉えられているモーターであり、EV業界では注目される技術の1つだ。

既存の多くのEVに搭載されている「radial flux motor(ラディアル・フラックス・モーター)」と比較すると、アキシアル・フラックス・モーターは重量を軽減しつつ、出力を高めることが可能といわれている。

ラディアル・フラックス・モーターのデザインが登場したのは1880年代。それ以降、重量を減らし、出力を高めるため、改良に改良が加えられてきたが、現在はこれ以上改良するのが非常に難しい点に到達している。EVの効率や出力を大幅に高めるには、別デザインのモーターが求められている。次世代のアキシアル・フラックス・モーターが注目されているのは、こうした背景がある。

学術分野で研究開発が進められてきたが、近年になりようやく実用化・商用化できる目処が見えてきた。YASAは、パイオニア的な企業の1つ。欧州には同社以外にも、ベルギーのMagnaxやスロベニアのEmraxなどアキシアル・フラックス・モーターを開発する企業はいくつか存在している。

Magnaxは、ハイエンドモデルのEV向けのアキシアル・フラックス・モーターの生産を2023年に、大型車向けの生産を2025年に開始する計画だ。また、自動車メーカーだけでなく、飛行機の電動化シフトでモーターの軽量化が必須となる航空産業も潜在顧客となる公算。同社は2020年のシリーズAラウンドで1600万ユーロ(約21億円)を調達している。

ブロックチェーンでEVバッテリーの持続可能性をチェックするプラットフォーム

EVは、ガソリン車やディーゼル車と異なり排気ガスを出さない。カーボンニュートラルや環境配慮というのが多く人々がEVを使う理由だろう。

しかし、EVに使う電力が化石燃料で発電される場合、またEV生産におけるサプライチェーンで化石燃料が大量に使用されている場合、EVはまったくエコとは呼べないものとなってしまう。

IVLスウェーデン環境研究所の試算によると、EVに搭載されるリチウムイオン電池の生産で、火力発電によって生産された電気を使う場合、バッテリーkWhあたり146キログラムの二酸化炭素が排出される。一方、代替エネルギーによる電気を使う場合、61キログラムと2分の1以下になる。

バッテリーのサプライチェーンにおける環境保全性をチェックし、バッテリー企業やEV企業のレピュテーションリスクを管理することを目的に誕生したのが英ロンドンを拠点とするCirculorだ。

ブロックチェーンを活用し、バッテリーの原材料採掘から最終製品製造までの二酸化炭素の排出量や各工程の持続可能性を評価。その情報をSaaSプラットフォームで提供している。

同社ウェブサイトによると、すでにボルボやメルセデス・ベンツ、ジャガー・ランドローバーなどの大手自動車メーカーがCirculorのサービスを利用している。また欧州諸国の政府から支援を受け「バッテリー・パスポート」プロジェクトも実施。このプロジェクトでは、バッテリーサプライチェーンの環境標準を構築することを目指している

Circulorの社員数は現在50名だが、年内には3倍に拡張する計画。同社はこの1年で2000万ドル(約23億円)を調達しているが、事業拡大のためさらなる資金調達を急ぐ構えだ

EV用高性能モーター、空飛ぶ自動車・ドローンにも

欧州におけるEV業界の発展は、EVだけでなく空飛ぶ自動車市場の発展にも大きく寄与することが見込まれる。EV業界での研究開発では、EVを如何に高出力化、高効率化、軽量化するのかという点に重きが置かれている。これらは空飛ぶ自動車に求められる要素でもある。

たとえば、アキシアル・フラックス・モーターはEVだけでなく、空飛ぶ自動車への応用が可能だ。

実際、冒頭で紹介したアキシアル・フラックス・モーターの開発企業YASAは2021年9月、同社のモーター技術を活用し空飛ぶ自動車開発を進める新スタートアップ「Evolite」をYASAからスピンオフさせた。

またスロベニアのEmraxもアキシアル・フラックス・モーターの想定用途に航空やドローンを含めており、すでにいくつかの導入事例があるようだ。

欧州ではこのほかオランダの太陽光発電EVを開発する「Lightyear」や空飛ぶ自動車を開発するPal-V、小型EVを開発するポーランドのTriggoなどもEV市場のシェアを狙い開発を進めているところ。競争の激化は避けられないだろう。

[文] 細谷元(Livit

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