12.5%の法人税で競争力強めたアイルランド
他国よりも法人税を著しく低く設定し、企業を誘致する国・地域を「タックスヘイブン」と呼ぶ。英領バージンやケイマン諸島などがよく知られたタックスヘイブンだ。
このほか世界には、法人税率5.5%のバルバドス、7.5%のウズベキスタン、8%のトルクメニスタン、9%のハンガリーやモンテネグロなど、法人税10%未満の国も複数存在している。一般的に、強い産業を持たない途上国が収入を増やすために、タックスヘイブンとなる場合が多い。
一方、先進国の中にも法人税を極端に低く設定し、競争力を維持しようとする国も存在する。法人税12.5%のアイルランドだ。
アイルランドの法人税は1995年まで40%だったが、96年に38%、97年に36%、98年に32%、99年に28%、2000年に24%、2001年に20%、2002年に16%と毎年大幅に引き下げられてきた。そして、2003年に12.5%に到達した。
米シンクタンクTax Foundationの分析によると、2000年頃世界の平均的な法人税は30%以上。当時の平均より半分以下の法人税となったアイルランド、その思惑通り多数の海外企業の誘致に成功することになる。
2016〜17年、同国の法人税の80%を海外企業が支払ったともいわれているほどだ。様々な海外企業がアイルランドに進出したが、顕著だったのは米国の大企業。当時のアイルランドにおける大手企業トップ50のうち、米国企業が25社を占めたといわれている。
企業の実質的な税負担率を示す「実効税率」が極端に低かったことも海外企業誘致を促進しした。OECDの最新データによると、アイルランドの実効税率は10.5%となっている。また、アイルランドと二国間の租税条約を結ぶ第三国を介した減税スキームを活用すると、0~2.5%という実行税率も可能と指摘されている。
アイルランドの法人税最低15%に引き上げ
アイルランドの極端に低い法人税率は、各国からの非難の対象となってきたが、この状況が大きく変わる兆しが見えてきた。
2021年10月7日、アイルランドが法人税率(実行税率)を最低15%とするOECDの国際租税枠組みへの参加を明らかにしたのだ。
これは2つの柱から成る国際枠組み。1つは、多国籍企業のプロダクトやサービスが消費された国に、その消費をベースとして課税する権利を与えるというもの。もう1つは、売上高7億5000万ユーロ(約993億円)以上の大企業を対象に、2023年までに法人税率を最低15%に引き上げること。
OECD加盟国38カ国を含め世界136カ国が枠組みへの参加を表明。この枠組みを議論・交渉した140カ国のほとんどが参加する結果となった。ケニア、ナイジェリア、パキスタン、スリランカの4カ国は同枠組みに参加しない方針という。
ガーディアン紙が報じたところでは、1つ目の柱では、世界的な大企業100社から1250億ドル(約14兆2890億円)以上が、課税対象利益として各国に配分される。一方、2つ目の柱では、法人税を最低15%に設定することで、世界の国々は年間1500億ドル(約17兆1470億円)の追加税収が見込めるとのこと。
租税回避スキームが困難になるGAFAMへの影響
このアイルランドの枠組み参加で、同国をタックスヘイブンとして活用し多大な利益を得てきたGAFAM企業にどれほど影響が出るのか、注目している市場関係者は少なくない。
アイルランドの国際枠組みへの参加に加え、米税務当局による監視が強まっていることから、これまで通り課税を回避するのは難しくなると見られてる。
たとえば2020年末頃、フェイスブックが租税回避スキームを可能としてきた知的財産を持つアイルランド子会社を精算し、知的財産を米国に戻す動きを始めていることが報じられたのだ。
ガーディアン紙によると、2018年フェイスブックの売上高は世界全体で560億ドル(約6兆4000億円)だった。このうち、半分以上となる300億ドル(約3兆4293億円)がアイルランドの子会社の売上となり、利益は150億ドル(1兆7147億円)以上だった。
一方、このアイルランド子会社が支払った法人税は、1億100万ドル(約115億円)のみ。実行税率は0.6%と1%未満だ。フェイスブックの一連の祖税回避行動は米税務当局によって厳しく追求されている。
また英団体Fair Tax Foundationがこのほど、GAFAMとネットフリックスを合わせた6社の総称「シリコン・シックス」が2011〜2020年にかけて回避してきた法人税の総額は960億ドル(約11兆円)に上るとの調査レポートを発表するなど、米国以外でも追求の動きは厳しさを増している。
アイルランドを含め世界各地で租税回避が難しくなる状況。直接投資や株価などにどのような影響が出るのか注視が必要だ。
文:細谷元(Livit)