アドビ、動画編集コラボ企業を1400億円で買収
SNSにおいて動画が重要であることは言うまでもない。YouTubeはもとよりフェイスブックやインスタグラムを見れば一目瞭然だ。
動画の需要は今後も上昇することが見込まれる。問題は、この需要増に供給が対応できるかどうかという点だろう。供給側は、動画の企画・撮影・編集・書き出し・アップロードというサイクルをこれまでより高める必要がある。
最近、アドビとマイクロソフトがそれぞれ動画編集スタートアップを買収したという報道があったばかり。この動きは動画需要増と供給逼迫の課題を見越したものと思われる。
アドビが買収したのは、動画編集スタートアップのFrame.io。2021年8月19日に買収合意に至ったことが発表された。買収額は12億7500万ドル(約1409億円)。
Crunchbaseによると、Frame.ioは2014年に設立され、これまでに9020万ドル(約100億円)を調達している。
Frame.ioが提供するのは、クラウドベースの動画編集コラボソリューション。アドビの動画編集ソフトPremire ProやAfter Effectに、レビューや承認機能を追加できるものだ。共同編集機能があるグーグルドキュメントの動画編集版というイメージだろう。
Frame.ioのウェブサイトによると、Netflix、ナショナル・ジオグラフィック、グーグル、BuzzFeed、Fox Sportsなどの大手メディアが顧客企業に名を連ねている。
動画制作における編集作業は編集者が1台のパソコンで行う場合がほとんど。スタジオであれば、最終意思決定者がパソコン画面を見ながら直接編集者に指示を出し、意見を反映させることが可能だが、現在はリモートワークが多くなっているほか、フリーランスの動画編集者を雇う場合も少なくない。クラウドでのコラボによって、多くの時間を節約できるのは間違いない。
アドビは、Frame.ioの機能を動画編集アプリだけなく、写真編集アプリPhotoshopにも統合する計画があると述べている。CNBCによると、アドビの収益は60%がCreative Cloudによるもので、収益額は前年比で24%も増加しているという。
マイクロソフトが買収した動画編集ソフト企業、利用者1700万人
アドビのFrame.io買収から間もない9月7日には、マイクロソフトが1700万人のユーザーを持つ動画編集ソフトClipchampを買収したとして話題となった。買収額は公表されていない。
Clipchampは、ブラウザベースの動画編集プラットフォーム。主に、企業のマーケティング担当者など動画編集のプロではない層をターゲットにしている。マイクロソフト365を普段利用する人々と重複する層ともいえるだろう。
実際、顧客企業には、グーグル、デロイト、Dell、マイクロソフト、Zendeskなどの名が挙がっている。
CNBCによると、現在マイクロソフト365ライセンスでClipchampを利用することはできないが、今後統合プロセスが進められ、同ライセンスでもClipchampが利用できるようになるという。
Clipchampは、オーストラリア・ブリスベン発のスタートアップ。2020年には39万社が新規登録し、利用者ベースでは1700万人に達した。前年比の増加率は54%。
Clipchampの主な活用例は、ソーシャルメディアのプロモーション動画、企業の商品紹介動画や説明動画など。最近は、インスタグラム向けの動画広告などスマホSNSを意識した縦長動画(9:16)の書き出しが140%増と急増しているという。
寡占でニッチだが着実に成長する動画編集ソフト市場
動画編集ソフト市場は、ニッチ市場であり規模はそれほど大きくない。しかし、動画需要増に伴う供給側のニーズの高まりを背景に、堅調な成長となることが見込まれている。
市場調査会社ReportLinkerによると、2019年の動画編集ソフト市場の規模は19億4000万ドル(約2144億円)だったが、2028年まで年率成長5.9%を維持し、2027年には30億4000万ドル(3360億円)に達する見込みという。
市場はPremire Proを有するアドビやFinalcut Proを提供するアップルなどの大手プレイヤーが寡占する構造。一方、ニッチだがクラウドやモバイルソフトの人気も高まるだろうとのこと。
国別ではやはり米国の成長が顕著になるようだ。米労働統計局の予測によると、同国雇用に占める動画編集者の数は2019〜2028年まで年率22%で成長。特に、エンタメ企業が集積するロサンゼルスやニューヨークで動画編集者の雇用が増えると予想している。
また、Wyzowlが650社を対象に実施した調査によると、マーケティング担当者の中で動画の重要性が高いと回答した割合は2020年に91%に達している(2015年は78%)。ほとんどの企業に動画マーケティングが浸透していることを示す数字であり、個人クリエイターだけでなく、法人の動画編集ソフト利用が増えることを示唆するものだ。
現在、日本でもトヨタなどマスメディアを介さず自社メディアで情報発信をしようという企業が増えていることを鑑みると、YouTuberやインスタグラマーに続き、今後は法人による動画編集需要が高まっていくのかもしれない。
文:細谷元(Livit)